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恋夢24最終話

恋夢24 最終話



社内では竹内のことがどのように伝わっているのかと、心配しながらつくしが出社すると、噂好きの島崎が知ってる知ってる?と話しかけてくる。

「おはようございます…どうしたんですか?」
「竹内くんがね…異動したらしいのよ!しかも東北にある系列の子会社だって!」

島崎はつくしから情報を引き出そうとしている風でもなく、ただ噂のネタがあればいいらしい。
悪意がないのが分かるため、つくしとしても気が楽だった。

「あ、そうなんですか?」

本当のことなど言えるはずもない。
つくしのことを襲おうとして、働けなくなりましたなどと言おうものなら、竹内の人生を壊してしまう。

「実家のお母さんの具合が良くないみたいでね、本人から異動願いが出されてたみたいよ〜。最近仕事に身が入ってなかったから、心配してたけど…。相談してくれればよかったのにね…」

そういうことにしてくれたんだ…。

「そうですね…。でも、ご両親の近くでいた方が安心ですもんね」

これから、ずっと話をしていなかった父親との距離を縮めることが出来ればいいけれど。

「花沢っ、行くぞ」
「あ、はいっ!じゃあ島崎さん行ってきます」

木嶋に呼ばれ、鞄を手にすると席を立った。
他の同僚にも行ってきますと声を掛けて、部屋を出る。

「大丈夫か?」

竹内の話をするのは、つくしにとっては辛いのではと気を遣ってくれているのだ。
木嶋は気を利かせて先に帰ってしまった為に、竹内の事情も何も知らないはずだ。
助けてくれた木嶋には伝えた方がいいだろう。

「木嶋さん…あの、昨日のことっ…」
「…いいよ、俺は忘れることにする…おまえも俺に話しておかなきゃとか、思う必要ないからな」
「すみません…」
「ほら、行くぞ!」
「はい!」




つくしのOJTも無事終わり、木嶋は一抹の寂しさと共につくしの独り立ちを迎えた。

そして新人とは思えないほどの実績をあげ、つくしは営業部になくてはならない存在となった。
もちろん、知り合いなどではない、新規の取引先も次々と見つけてくるのだから、常務の奥様と知ったあと少し距離を置かれてしまった部長も何も言えない。

「花沢さん、ここのレストラン最近評判がいいらしくって、島崎さんが見つけて来たんだけど、オーナーがフランス人らしくて日本語そんなにうまくないみたいなの。花沢さんフランス語話せたよね?」
「はい、大丈夫です」
「助かった〜!誰もフランス語話せる人いなくてさ。交渉行ってもらえる?」
「いいですよ」

F4に鍛えられたつくしの特技は、遺憾なく発揮することが出来た。
正直生け花など、どこで披露することがあるのだろうかと思っていたのだが、何事も経験はしておくもので、顧客に上流階級の奥様方が多いことから、自然と話は彼女らのステータスを聞かされることが多い。
その会話に合わせられるだけの知識が、今のつくしはあるのだ。

「花沢さんって、どこかのお嬢様かなんか…?まぁ常務の奥さんだもんね。語学凄いよね…あと、お茶とか生け花とかも資格持ってるんだっけ?」
「あ、いえ。あたしは全然凄くないですよ?ただ、周りの友人に助けてもらって習得出来たんです」

あたしをここまで育ててくれたのは、気のいい友人たち。
それに、会社の仲間。



そして約束の1年を迎える。


「花沢さんがいなくなったら、営業部の売り上げガタ落ち…なことにならないように、全員気を引き締めてな!」

部長が少し笑いを取り挨拶が終わると、つくしが前に出て全員の顔を見渡し一礼をした。

「初めて働いた会社がここで良かったです。皆さんのおかげで色々な経験を積むことが出来ました。ありがとうございました!」

全員の大きな拍手に包まれると、木嶋から花束が手渡された。

「お疲れ様。頑張ったな」
「ありがとうございます!木嶋さんのおかげです」

「ちょっと待ちなさい」

今日は確か本社からの呼び出しに応じていたはずの社長が、戻ってきたらしい。

「花沢さん、すまないが…話させてもらって構わないかね?」
「は、はい、もちろん。どうぞ…」

つくしは場を譲ると、社長の話を待った。

「え〜皆さん…突然のことに驚かせてしまうとは思うが…」

全員が、そう切り出した社長の話を固唾を飲んで待っている。

「この度、flowerfoodは花沢本社ビルに移転することになりました!」

「「「えええええっ!?」」」

「ということで、花沢さん…辞める必要ないようだよ?」
「えっ!?どういうことですか!?」
「さあ?あとで常務に聞いてみたらどうかね」

社長は柔和な笑みを浮かべ、移転の準備で忙しくなると部長を連れて仕事へと戻って行った。

「送別会…の予定だったけど…花沢さんおかえりなさい!の歓迎会にしよっか〜!」

島崎が言うと、飲み会大好きメンバー達は飲めれば名目は何でもいいのか、大いに盛り上がる。
つくしは、1度は片付けてしまったデスクをどうしようかと見ると、木嶋がつくしの側に立って言った。

「また一緒に働けるなら嬉しいよ。しかも引っ越しの準備1人だけ先に終わってるようなもんだしな」
「あっ、そっか!!」

まだ…この仲間と働けるんだ。

それが嬉しくないわけがない。
口元を手で押さえていないと、涙が溢れてしまいそうでつくしが俯くと、木嶋に頭を優しくポンポンと叩かれた。

類…ありがとう。




珍しく全員が定時退社をすると、いつもの居酒屋へ向かった。

「ってことで、花沢さ〜んおかえりなさ〜い!」
「かんぱーい!」
「ふふっ、まだ辞めてもいなかったですけどね〜嬉しいです。本当に」

島崎が乾杯の音頭を取ると、思い思いに酒を飲み始める。
つくしは自然に木嶋と島崎の近くに座ると、ノンアルコールカクテルをチビチビ飲んでいた。
今日でこの仕事も終わるのだと昨日から緊張していた為か、どうも朝から身体が怠い。
具合が悪い…というほどではないので、普通に仕事もこなし、誰にも気付かれない程度ではあったが、そういう時は飲まないに限るのだ。

「ねーねー、花沢さんっ!常務って普段家で何してるの!?なんかチェスとかしそうよね〜!」

島崎が興味津々というように聞いてきた。
そういえば、今度絶対聞かせてねの約束は未だに果たしていなかったのだから、仕方がない。

「チェス盤確かに家にありますけど…でもやってるとこ見たことないですよ?」
「へえ〜やっぱりあるんだっ!やっぱりデートは高級レストランとか、豪華クルージングディナーとかっ!?」

確かに類のイメージはそんな感じだな…とつくしは苦笑する。
高等部の頃、テレビが大好きで暇さえあれば寝ていた類。
今でも休日はテレビを付けて、2人でベッドにいる時間の方が長い。
しかしそれは、つくしだけが知っていればいいこと。

「あたしが…そういうとこちょっと苦手で、出掛ける時はあたしに合わせてくれることが多いかな…。公園ブラブラするとか、パンケーキ食べに行くとか」

それももちろん本当だけれど。

「意外〜!もっとセレブな感じかと思ったわ!でも、花沢さんが行きたいところに付き合ってくれるんだものね〜ラブラブじゃない!?」

つくしは島崎と木嶋にしか聞こえないぐらいの声で話していたつもりが、いつの間にか周りがシンと静まり返っていて、全員が聞き耳を立てていた。

「ラブラブだよね…つくし」

そして突然後ろから抱き締められるように腕を回され、つくしが驚いてビクッと固まると、耳元で囁かれる。

「類っ!」
「送別会じゃなくなって良かったね」

木嶋がつくしとの間に座るスペースを作ると、類はつくしを自分の足の間に座らせ、腰に手を回す。

この場に社長、部長がいなくて良かったかもしれないと木嶋は息を吐いた。
いくら類の方が立場が上だとはいえ、50を過ぎた上司がまだ20代の青年にゴマをするところなどは見たくはない。
しかも、類の瞳にはつくししか写っていないようで、ゴマをするところで無視されるのは目に見えている。

「そうだった!どういうこと?辞めなくていいって。いや、すっごく嬉しいんだけどね…。家でそんなこと言ってなかったでしょ?」
「ん?ちょっと前に聞いたでしょ?今の職場どうって?そうしたら、楽しいって言うからさ。でも、朝一緒に出られないのはもう嫌だしね…いい考えでしょ?」

夫婦の会話を一字一句逃してなるものかと、耳を澄ませていた同僚たちが固まる。

朝一緒に出られないのが嫌…?
そ、それが移転の理由?

「え…でも、本社で、類の側で働かなくてもいいの…?」
「つくしは、つくしのやりたい事をやればいいよ。毎日楽しいんでしょ?でも、あんまり頑張りすぎないでね」
「類…」
「それに…もう充分隣に立てるよ、つくしなら。根性あるからね、俺の奥さんは」

類がフッと笑みを浮かべると、女性たちからキャーっという歓声が上がる。
その声につくしが周りを見渡すと、店の他の女性客も全員が類を見ている。
そして、抱き締められているつくしに対しては、羨望とも嫉妬とも言える視線が付きまとう。

もうとっくに慣れたけどね…。

類はそれを気にも止めず、2人の世界を作り出す。
そんなシンとした空気を打ち破ったのは、空気を全く読めない店の客だった。
どう見ても会社の飲み会だと分かる席に、割って入ることなど普通の神経で出来るはずがない。

「あの〜もしよかったら、この後飲みに行きませんか〜?」

芸能人と言っても不思議ではないほどの、スレンダーな美女が友人を2人連れて類に話しかけてきた。
よほど自分に自信があるのだろう。
断られるとは微塵も思っていないようだ。
類がつくしを抱き締めているのが見えないわけがないのに。

「その子より私たちの方が、楽しませてあげられると思うし〜」

そう言うと、友人とみられる1人が、類の腕にわざと胸を当てるように手を絡ませてくる。

「気持ち悪い…堀田」
「はい」
「え…」

パンッと腕を払うと、振り返りもせずにSPを呼ぶ。

「気持ち悪い、香水臭い、この人たちどっかやって」
「はい」

堀田と共にいた、類付きのSP数人が一斉に女性客を取り囲むと脇を抱えられる。

「なっ、何すんのよっ!!」
「触らないでっ!」

女たちはさっきまでの態度はどこにいったのかと思うほど、ギャーギャー叫びながらSPに連行されるが、類は1度たりとも振り返ることはなかった。

「うわぁ〜ほんとにラブラブなんだ〜」

一連の出来事を食い入るように見つめていたflowerfood営業部社員たちは、島崎の言葉にようやく我に帰る。

「もしかして、いつもこんな感じなの?常務と」
「えっ、う…ど、どうなんだろ?」
「いつもはもっとラブラブだよね」

類がつくしの頬にキスをしながら言うと、ほうっと女性たちからため息が漏れる。

「常務っと花沢さんって、新婚ですよね?」

新婚じゃなかったら、こんなにイチャイチャオーラを出すはずがないとでも言いたいのか。
島崎が口火を切ったことで、ハードルが低くなったのか、他の面々も話し始める。

「新婚って言えば新婚ですかね?まだ4年なので」

つくしが答えると、全員が声を揃えて驚いたような顔をする。

「「「4年っ!!??」」」

「って、2人とも大学生で!?」
「つくしが大学2年のころだからね」
「類は働きながらだったもんね」

類もつくしの同僚、しいては自分の部下にもあたる人間には、一線は引くが無視をするようなことはしない。
それだけ、類も大人になったのかと思うと、寂しいような気もする。
決して無視してほしいわけではないのだが。

「なんで…そんなに早く?」

若手の男性社員が、理解できないとでも言うように類に聞いた。

「早くしないと、また他の男がつくしのこと好きになりそうだったから」

類の言葉に、そうだったのかとつくしは顔を真っ赤にする。

それは類の考え過ぎなんだってばっ。

「あ〜でも、確かに…。花沢さんモテるわよね〜」
「ちょっ…島崎さんまで何言うんですか!?」

類が機嫌を損ねると、つくしの身体的に非常に辛いことになると、経験から分かっている。
下手に煽らないでくれと視線を送るが、島崎は見たこともないぐらい楽しそうだ。

「だって、よく営業行くとご飯誘われてるじゃない?無下にも出来なくて、どうやって断ればいいですか?って聞いてきたの誰だっけ〜」
「ふーん、そうなんだ」

つくしを抱き締める類の周りの空気が、軽く1度は下がった。

「やっぱり、専業主婦になる?」
「島崎さんの冗談だからっ!お願いっ真に受けないで!!」

振り返って類の肩をガシッと掴むと、必死に揺さぶった。

確かに、そんなこともあったけど…っ。

「ぷっ、くくっ…分かってるよ。そんなに必死にならなくても、今更辞めろなんて言わないって」

まあ、今度は目も届くしね…。

類とつくしの仲睦まじい様子に、同僚たちも自然と笑顔になる。

「あれ…そういえばつくし食べてなくない?こういうの好きじゃなかった?」

類が珍しいねと不思議そうに聞いた。
目の前に置かれている料理に、つくしが全く手を付けていないからだ。
いくら話題の中心に自分たちがいたからといって、遠慮するような女ではないはずだ。
むしろ、食事がメーンで会話そっちのけの方が、まだ納得できる。

「あ〜なんか食欲なくて…。風邪の前兆かな?サラダ食べるよ」
「風邪引いたらちゃんと栄養取って寝るのが一番、って言ってなかった?」
「そうなんだけど…。なんか胸やけがして…お腹空かないんだもん」

それを聞いていた島崎が、ピクリと反応する。
他にも何人かの女性が、つくしを見た。

「花沢さん…。もしかして…」

全員の前で話題にするようなことではないと、島崎がつくしにおいでおいでをする。

「…?」
「…最近、生理いつ来た?」

耳に手をあて内緒話をするように、小さな声で言われる。

「ええっ!?突然何ですか?」

何を言い出すのかと思いながらも、最近の予定と照らし合わせながら、あぁ滋さんのところと最終打ち合わせをしていた時だと思い出した。

あれ…?
確か、寒いねって…雪降ってきたよ、なんて話をして…。
挨拶する時、あけましておめでとうって言わなかった?
そうだ…つくし誕生日おめでとう、もう去年になっちゃったね、そんな話を滋さんとした頃だ。

それは1月の頭だ。
今は、3月の終わり…2ヶ月きてない。

「えっ、えっ、まさか…島崎さんっどうしよう!」
「つくし?なに…落ち着いて説明して」

パニックに陥ったつくしに、類はどうしたのかと心配そうにするが、そういう時女は強かった。

「ちょっと常務…すみません。花沢さんと話させてください」

島崎が席を立つと、つくしの隣に移動し、より声を潜めて話し出した。

「それでいつ?」
「…1月の頭です」
「そう…可能性は高いけど、ストレスで遅れたりすることも多いし、あなたみたいな立場の人が、こんなところでそのことを公にするわけにはいかないわよね。もう2ヶ月以上遅れているのなら、検査薬を使えば反応がすぐに出るし、病院に行ってもすぐ分かるはずよ。取り敢えず帰ったら常務に相談しなさいね」
「は、はい…」
「大丈夫よ。どちらにしても私の胸に留めておくから…」

島崎は笑うと、いつもの噂好きの女の顔から、母親の顔をして言った。
つくしも安心して、不安そうな顔を打ち消すように笑った。
もちろんその会話は類にも聞こえているはずで、つくしは恐る恐る類を振り返ると、口元を手で隠すように俯いていた。

「類?」
「ヤバイかも…」
「え?」

「嬉し過ぎる…」

表情を手で隠すようにしているが、頬が微かに赤く染まっている。
そして類の手が、優しくつくしの腹部をさする。

「まだ、分かんないよ?」
「ちょっと待ってて…」

類は席を立つと、居酒屋の店長と思われる人物に話し掛けていた。
そして堀田にも一言二言話すと、そのまま座らずにつくしを立たせる。

「では、私たちは先に失礼しますが…ここの支払いは済ませてありますので、好きなだけ注文してもらって構いません。ほら、帰るよ…つくし」
「あ、うん。皆さんごゆっくり…島崎さん、ありがとうございました」

つくしが去り際に礼を言うと、何も言わずに首を振った。
全員がご馳走様でしたと頭を下げるが、前を向いて振り向かない類の代わりにつくしが軽く頭を下げた。

店の前に付けられたリムジンに乗り込むと、類は仕切りを下ろして話し始めた。

「家に、医者呼んだから。ちゃんと調べてもらおう」
「えっ?家に!?もし…出来てたら…どうしよう。嬉しいけど…ちゃんと周りに認められるまではって思ってたのに…」
「もうみんな認めてるよ…。あとは誰に認められたいの?」
「分かんない…。とにかく、類の隣に堂々と立てるようにって、そればっかり考えてたから…」
「妊娠してるといいね…」
「そう思ってくれるの?…そうだよね、赤ちゃん出来たら嬉しいね」

つくしは、自然と腹部をさすり、まだいるかどうかも分からないのに、類によく似た男の子の顔が思い浮かんだ。



類が見守る中、医師が持ち込んだ超音波エコーで確認すると、すでに胎児の心拍も確認することが出来た。
もうすぐ3ヶ月に入るらしい。

「性別どっちだろ〜」
「女の人って凄いね。こうやって命が繋がっていくんだ…」

類は感心するように、エコー写真をずっと眺めている。

「うん…類だってお母さんのお腹にいたんだもんね…あ、お義母さんたちに連絡しないと!」
「喜びそうだね…。うちの親も、つくしの両親も」

「幸せにしてあげないとね…2人で」

つくしが言うと、ソファに座るつくしの手に自身の手を重ね、キュッとその手を握った。
類はゆっくりとつくしの唇にキスを落とす。



fin

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恋夢23

恋夢23
長いです…。キリがいいところがなくて…。

***


「竹内くんっ!?」

つくしは竹内に駆け寄ると、床に座らせた。
堀田は仕方なく、何かあれば竹内をすぐに押さえ込めるように背後に回る。
類は目の前で苦しむ男に、怒りをどこにぶつけていいかも分からずに、血が滲むほどの力で拳を握った。

「だ、いじょ、ぶ…ヒュッ…だから…」
「大丈夫なわけないでしょ!?…ちょっと待って!」

つくしは鞄の中から携帯を取り出すと、どこかに電話を掛ける。

「あ、田中さん?申し訳ないんですけど、車回してもらえますか?同僚が…」

事情を簡単に説明すると、病院手配しておきますから、落ち着いて喘息の可能性と吸入器を持っているかを確認してくださいと言われ電話を切った。

「竹内くん?喘息なのっ!?吸入器持ってる!?」

返事も出来ないほど苦しいようで、鞄を指さすと頷いた。

「これか?ほらっ!」

木嶋が慌てて鞄を開けL字型の吸入器を竹内に渡す。

「はぁっ…はぁっ…」
「少しは落ち着いた?…堀田さん、車まで運ぶの手伝ってもらっていいですか?」
「はい」

堀田は頷き竹内を後ろから抱えた。
木嶋も反対側を支えて、ゆっくりと階下に降りる。
体格のいい堀田がいてくれて助かったと、つくしは安堵の息を漏らす。

「ねえ、まさかそいつ助けるつもり?」
「類?」

木嶋と堀田が竹内を連れて部屋を出ると、類は能面のような表情でつくしに聞いた。
それだけで、どれほど類が怒っているか気付いてしまう。

それでも…放っておけないよ。



そして雑居ビルが立ち並ぶ一角に、明らかに周りの景色とは異なるリムジンと、そこに向かう男達に、何事かと通行人が立ち止まる。
田中が類の姿を見つけ、頭を下げた。

「田中さんっ、すみません。病院どうでしたか?」

類と言葉を交わすことなく、つくしは類の手を握り2人で階段を降りると、ちょうど堀田と木嶋が両脇に竹内を抱え先に乗り込んだところだった。

「ご安心ください。花沢系列の病院に連絡しておきましたので、すぐに対応してくれるようです。出来ましたら、木嶋様も同行して頂けると、車から降ろす時に助かります」
「はい、分かりました」

つくしと類も車に乗り込むと、ドアが閉められた。

「結局、金持ってる奴は…こうなんだ…はぁっ、電話一本で、病院手配かよ…はっ」
「あたしの力じゃないわよっ!でも、同僚が病気で苦しんでるなら、こういう時に使わないでいつ使うのっ!?ってか、あんまり喋らないでっ!」
「は…はは…バカか…お人好し…すぎんだろ…」

竹内は苦しさとは別の涙が眼に浮かぶ。
こういうところが、好きだったのだと今更思う。
決して取り返しはつかないが。

そして類が、ぼそりと呟いた言葉は木嶋にしか聞こえなかった。

″ほんと、お人好し過ぎだよ…″




病院に着き竹内が医師の診察を受ける間、待合室で診察が終わるのを待っていた。
落ち着きを取り戻したつくしは、そういえば…と木嶋に話し掛けた。

「どうして…木嶋さんがいたんですか?あたし場所、メール出来なかったですよね…それに…類も」
「ああ、お前を行かせた後やっぱり気になってさ、失礼かと思ったんだけど、常務に電話させてもらったんだよ。まさかSPとか付いてるって知らないし…」
「ううん、助かりました…あれ、でも場所は?」
「常務に電話した時、GPSで場所は分かるって言うからそれ聞いて急いで向かったんだ。そしたら堀田さん?がちょうどビルに入っていくところで…あとは知ってのとおりだ」

つくしとしては、GPSの話は寝耳に水だが、もしそれがなかったらと思うとゾッとするので今は何も言わないでおく。

病室から処置を終えた医師が出てくると、類とつくしに頭を下げ説明した。

「とりあえず今日1日は様子見で入院してもらいますが、明日落ち着いていたら退院してもらって大丈夫ですよ」
「ありがとうございました!…それで、あのう…」
「はい?」
「今、会えますか?」

つくしはホッとして医師に聞くと、驚いたのは類で、ダメだと強く手を握られる。

「お会いするのは大丈夫ですが…。あまり興奮させないように注意してください。もし、何かあればコールしてもらえますか?」

類とつくしをチラチラと見ながら、嘘を吐くわけにもいかずに正直に答えた医師は、余計なことをと類の睨み付けるような目つきにギョッとするとそそくさと立ち去った。

「常務…今日はこれで帰らせてもらいます。私が居てもお役に立つことはもうなさそうですので」
「ああ、連絡ありがとう…」

木嶋が類に言うと、類はその時出来る精一杯の常務としての顔で木嶋に言った。
木嶋が一礼をして待合室を出ると、堀田も外にいますと声を掛けて待合室を出た。

類は言葉を交わすことも出来ずに、ただつくしを抱き締めた。
その手は微かに震えていて、どれだけ心配掛けたのかを伺い知ることが出来る。

「類…ごめんね…」
「ほんと…勘弁してよ。心臓止まるかと思った…」
「うん、木嶋さんに言われたのに…黙って付いていったあたしが悪い…ごめんね」
「本当に…会うつもり?」

類がつくしの顔を覗き込むように聞いた。
その顔は会わせたくないと言っているが、つくしはどうしても自分で話を聞きたかった。

「うん」
「あいつがなんでこんなことしたか…俺が教えるって言っても?」
「類、知ってるの…?」

つくしが驚いて目を丸くすると、類はやっと薄く笑った。

「ん、ちょっとね。調べさせてたから」

司に言われて、とは死んでも言いたくはない。

「それでも、やっぱり自分で聞きたい…」
「じゃあ、絶対に俺より前に出ないって約束出来る?近付かないで。あと、あいつに同情しちゃダメだよ?」
「わ、分かった…」





コンコン…

ドアをノックすると、中からは何の声も聞こえてこなかった。
もしかしたら寝ているのかもしれないなと、そうっとドアを開けると、予想に反して竹内は横にはなっていたが、目を瞑っていない。

「竹内くん…身体どう?楽になった?」

竹内はつくしと類を見ることはなく、嘲笑するように自身の顔を歪ませた。

「自分の方が酷い目にあってんのに…なんで人の心配なんて出来んだよ…」
「あの時…あたしが結婚してたから…って言ったよね…。でも、なんか…違う気がしたから。ちゃんと聞きたいって思ったの。もちろん、その後に殴るぐらいは許してよね?」

つくしの明るいその声に、竹内は衝撃を受けた。
あんなことをした自分を許すとでも言うのか。

そして覚悟を決めたように話し始めた。

「俺の親父…花沢物産で働いてたんだよ、本社勤務のエリートだったらしい。
それが、俺が中学の頃…いきなり地方の子会社に飛ばされたんだ。給料も減って…親父はサラリーマンなんてこんなもんだ、それが嫌なら使う側に回るしかないだろって笑って言うんだ。正直ガッカリしたよ」
「そんな…」

つくしが口を挟むことを竹内は許さなかった。
それほどまでに、本当は誰かに聞いて欲しかったのかもしれない。

「仕事の出来る親父だと思ってた…。憧れもあった…。だからショックも大きくて、それ以来親父とは一言も話さなくなって、それも全て親父を左遷させた奴が悪いんだって思った。俺は大学を機にこっちに戻ってきて、唯一受かった就職先があんなに恨んでた花沢の関連会社なんて、なんの因果だよな…」

つくしはただ黙って竹内の話を聞いている。
そして、つくしの前に立つ類は竹内をジッと射抜くような瞳で睨みつけていた。

「でも、そこであんたに会ってさ。いつも一生懸命で、笑ったり怒ったり忙しそうで。そういうの毎日見てたら、もういいかって思うようになったんだ…。別に花沢の上役になんて会うこともないだろうし、俺は与えられた仕事をこなしていこうって、それで俺の隣にはあんたに…花沢さんに居て欲しかった…なのに…」

なんでよりにもよって、好きになった女が敵とも言える花沢の身内なんだ。

「バカじゃない?」

類が竹内に向けて初めて言葉を発する。

「なんだとっ!?」
「竹内くんっ、興奮したらダメだよ…類も言い方があるでしょ?」
「言い方?これでも気を使ってあげた方だと思うけどな…」
「類…」
「おまえの家の事情なんてどうでもいいけど、目に見えるものが全て事実だと思ってるから、そんな答えしか出せないんだよ…」

吐き捨てるように言うと、息を深く吐き出す。
つくしが傷付けられたかもしれなかったことを思い出すと、どうしても昂ぶってしまう気持ちを何とか落ち着かせようとしているように見える。

「どういう意味だ」
「面倒だったけどね、つくしが巻き込まれそうだったから、仕方なく会長に確認したよ…あんたの親父さん…竹内修さんは自分から地方の子会社に異動願いを出したらしい」
「そんなはずないだろっ!?なんでわざわざあんなところに異動願い出す馬鹿がいるんだよ!」

「竹内くんの、ためじゃない?」

つくしが言うと、竹内は訳が分からないといった顔で眉を寄せる。

「その通りだよ。ほら、少し考えれば分かることなんだ」

類は竹内の表情から、まだ何も理解していないのだということを悟り、心底面倒くさそうにため息を吐いた。

「父は竹内修さんのことをよく覚えてたよ。非常に優秀で将来は役員へと話もあったそうだ」
「俺のためって…まさか」
「あんたが初めて喘息の発作を起こしたのは中学生の頃らしいね…。毎日のように夜になると発作を起こすところを見ていたお父さんは、実家がある東北へ引っ越しすることに決めたんだそうだ。会長はそれを聞いてとりあえず出向という形を取ったらしい」
「嘘だ…そんなこと一言も…」

竹内は呆然とし口元を押さえた。

「言えなかったんじゃない?中学生って難しい年頃だし、友達とも離れなきゃならなかったでしょ?……あれ?類…待って…出向、なの?異動じゃなくて…?」
「そうだよ…竹内修さんは本社からの出向になっていた。給料も変わらない。つくしから見てどう思う?大学に行くためにこっちに部屋を借りて、仕送りをもらう生活」

確かに、何故竹内は給料が下がったと思い込んでいたのか。
子会社に異動になったと聞いて、当たり前のように生活も苦しくなるのだと思っていたのだろうか。
竹内の目は一点を見つめ、黙って考え込んでいる。

「そりゃあ…いいご両親だな、と思う」
「だよね…高校の頃のつくしの生活に比べたらね…」

類は、毎日毎日司とのことを考えている暇もないぐらい、つくしがバイトに明け暮れていたことを思い出す。

「そ、れは…親父が無理して…」
「うちの奥さん、高校の授業料すら自分で稼いでたよ。あんたが何をもって不幸ぶってるのか分からないけど…」

竹内は言葉を失い、ただ類の話を聞いていた。

「父親云々言ってたことと、つくしを傷付けようとした話は全く別物だ。どうしたって許されるものじゃない」
「類…」

視線だけで人を殺すことが出来るのではないかと思うぐらい冷たく暗い瞳で、竹内を睨む。
竹内はビクリと肩を震わせると、ゆっくりとつくしを見た。

「た、助けて…くださっ…」

竹内のその言葉で、一気に沸点に到達したかのように顔を赤くすると、つくしは思いっきり竹内を殴った。

「ふざけんなっ!!」
「いた…」
「悪いことしたらちゃんと目を見て謝るんでしょ!?…それに、あたしの家は竹内くんよりもっともっと貧乏だったけど…。親から人様に顔向けできないような生き方だけはするなって教えられた…。竹内くんだって、もっと他に方法があったはずだよ…」
「おまえがしたことは犯罪だから。住居侵入、監禁、殺人未遂…か?」

竹内は青ざめて、初めてことの大きさを理解したらしかった。

「そ、そんなつもりじゃ…」

つくしは類を見つめ、必死に首を振る。
それだけで類には言いたいことが分かってしまった。

そうなるとは思ってたよ…。

「俺も大概つくしには甘いね…。感謝しなよ。つくしは被害届出さないみたいだから。もういいでしょ?帰ろう…つくし」
「うん、竹内くんお大事にね」

つくしはドアに向かうと、竹内が叫んだ。

「は、花沢さんっ!」
「え…?」
「ごめん…本当にごめんな。謝っても許してもらえないと思うけど…」
「いいよ…もう。類は竹内くんのこと許さないと思うから、せめてあたしぐらいは許してあげるよ…じゃあね」

つくしは類と共に部屋を出ると、気付いた堀田が2人の後ろを歩く。
そして、リムジンにつくし達が乗り込んだのを確認すると、頭を下げて車を見送った。

車が走り出すと、つくしが口を開いた。

「類…。竹内くん、仕事は…」

しかし、言いかけてそれはつくしが口を出すことではないと分かっているのか、口を噤むと類をチラリと見た。

「それはいくらつくしの頼みでも聞いてあげられないよ?」
「うん、分かってる…。仕方のないことだって…」

つくし自信がお金に苦労したことがあるからだろう。
仕事を失くしたあとの生活が、どのようになるのか想像に難くない。
ましてや新入社員なら貯金もないだろう。

あいつがこのあとどういう生活を送るかまで、心配しなくてもいいんじゃないの…。

しかし、それが類が好きになった、牧野つくしという人間だった。
どこまでもお人好しで、何度騙されても人を信じる方が好きだと言う。
だから、彼女の周りには自分のような人間が多く集まるのであろうか。
困っていることがあれば、どんなことでも助けたいと思ってしまう。

これでつくしが散財するような、自分のことしか考えていない女だったら、花沢はとっくに潰れているかもね…。

それぐらいつくしに甘いことは、類自身よく分かっていた。

「父親と同じとこに異動させておいた…。異動だからね?それが俺の最大の譲歩。それ以上は聞かないよ?」
「類っ!!ありがとうっ〜!」

他の男のことで、そんなに喜ぶなよ…。

「今日は喋りすぎて疲れた…もう、黙って…?」
「あ、うん、ごめんね…。る、類?」

確かに普段口数の多い方ではない類が、大サービスという程、竹内に話していたように思う。
それは確かに疲れるだろうなと口をつぐむと、類の唇が額にそして頬に落ちてきた。

「な、に?んんっ…ん…っはぁ」

流れるように唇を合わせると、困惑気味のつくしの唇を舌で開けさせる。
舌を絡めていくと、次第につくしの身体から力が抜けた。

「本当に…無事でよかった…」
「ごめんね…類」

唇を離すと、類の手が苦しいほど強くつくしを抱き締める。
どれだけ心配させていたのかを実感して、申し訳なさと自分の馬鹿さ加減に、類の頭を抱えることしか出来なかった。


***

《※本文に喘息の発作についての記述がありますが、喘息はアレルギーによって気管支が過敏になり発作が起こることが多く、空気のきれいなところ?田舎に引っ越ししてもアレルギー源を取り除かない限り、あまり意味はないようです。例えば、花粉やハウスダストなどどこに行っても付いて回るようなアレルギーを持っていたらあまり意味はない…ということですね。
なので、小説の中だけの設定として、深く考えずにお読み頂けると助かります。》


***


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恋夢22

恋夢22



最近…竹内くんがおかしい気がする。

視線を感じ振り返ると竹内と目が合う。
それはただつくしが自信過剰なだけかもしれないが、以前の竹内ならば事あるごとに話し掛けてきたのだ。

仕事でも、以前は事務処理など分からないところを教えあったりしていたものだが、ここ最近は仕事中の会話すら皆無だ。

なんか、悩みでもあるのかな…。

類とのことが知られて、つくしだけが嫌われた…というのであれば、つくしとしてもそこまで気にならなかったかもしれないが、仕事中もどこかボウっとしていてミスも多い。
元々頭の回転が早いのか、つくしが分からないところがあると、丁寧に教えてくれたのは竹内だった。
軽薄な部分はあったが、仕事は真面目にやっていたように思う。

そしてDMJは竹内とつくし2人で今後担当すると木嶋が言っていたが、つくしが司と元々懇意にしていることもあり、1人で担当することになった。
それを司に伝えると、DMJ側の担当者も司から部下へと変わった。
司とは友人だけにやりにくいと思っていたことも確かなので、ホッとしている部分もある。

つくしはデスクワークをしながら時計を見た。
定時を過ぎそろそろ帰ろうかと、木嶋に急ぎの仕事がないかを確認するため席を立つと、後ろから声を掛けられる。

「花沢さん」

つくしが驚いて振り返ると、竹内が立っていた。

「竹内くん…どうしたの?」
「もう帰る?このあと時間あったらちょっと相談に乗ってほしいことがあるんだけど…」

ここまで竹内を変えるほどの何があったのか、顔色も悪く元々の精悍な顔つきは見る影もない。

「あたしでよければ…」

あまりの様子につくしは、ついそう答えていた。



「木嶋さん、急ぎの仕事がなければ上がって大丈夫ですか?」

つくしが木嶋に話しかけると、木嶋は竹内と話をしているところを見ていたのか、周りに聞こえないように声を落としてつくしに言った。

「竹内…何か言ってたか?」
「えっ?あ、このあと相談したいことがあるって。最近様子が変だったからあたしも気になって…」
「そうか…場所は?」
「決まってないです」

木嶋は少しの間考えると、竹内に視線を向けないように注意しながら、つくしと話す。

「俺の連絡先分かるよな?社内ならいいんだけど、もし外で飯食いながらとか言われたら、トイレに立つふりして俺に場所知らせてくれないか?」
「何でですか?」
「ちょっとな…絶対だぞ?」
「分かりました。じゃあお先に失礼します」

つくしは木嶋に頭を下げると、まだ残業で残る同僚にお先にと挨拶をして部屋を出た。

キョロキョロと竹内を探すと、1階のロビーに置いてあるソファで待っている。

「竹内くん、お待たせ。ここでいい?何か飲み物買ってこようか?」
「いや、外に出よう…。会社の人がいるところじゃ話しづらいし」

それもそうかと、つくしはビルを出ると竹内のあとを着いて歩いた。

「ここでいい?」

会社から歩いて10分ほどであろうか、駅の反対側まで出ると、雑居ビルの中に入って行く。
エレベーターが動いていないのか、竹内は階段を登っていくと、奥まった場所にある、スナックの看板を掲げた店のドアを開けた。
駅の周りにはもっと綺麗そうな居酒屋がたくさんあるのに、何故こんな誰も来なそうな場所にある飲み屋へと入るのか、段々とつくしの頭で警報が鳴り始めるが、その時には店内に足を踏み入れていた。

しまった、そう思った時には遅かった。
木嶋に場所のメールをするにも、きっとトイレに立たせてはもらえないだろう。

周りを見渡すと、以前はスナックをやっていたのであろう残がいがあちこちに残る、潰れた店舗だった。

竹内は後ろ手に鍵を締めた。
そのガチャリという音が、やたらと響く。

「ここで…相談?悪趣味だね…」

つくしは何とか平常心を保つと、竹内に向かい合う。
とにかく、あまり相手を興奮させてはならないと、本当は叫んで逃げ出してしまいたかったが、何とか自身を奮い立たせた。

竹内の普段は隠された獣のようにギラついた瞳が、つくしを射抜くように見つめる。

「前にさ…DMJ行った時、おまえと道明寺社長の会話聞いちゃったんだよ…。おまえら昔付き合ってたんだろ?」
「そ、それが…何?昔のことだし」

竹内の話し方すらいつもとは違っていて、つくしはさらに恐怖を覚えた。

その時、ドアをドンドンと激しく叩く音が外から聞こえた。
つくし様と叫ぶ声は、SPの堀田のものだ。

着いてきてくれてたんだ…。

安心して肩の力を抜くと、竹内がつくしを羽交い締めにする。
喉の近くにキラリと光るナイフが突き付けられ、つくしはゴクリと唾を飲んだ。

元々、ビル自体が築何十年経っているのか分からないほどに、どこもかしこもボロボロだった。
ドアも堀田が強く何度も足で蹴ると、勢いよく反対側へと開いた。

「堀田さん…っ、木嶋さんっ!?」
「やっぱり、引き留めておけばよかった…。竹内、おまえ自分が何をしてるか分かってんのか?」

竹内がつくしに向けているナイフを見ると、木嶋は悲しそうに言った。

「嘘ついたコイツが悪いんだよっ!道明寺とのことは昔の話だから、許してやろうとしたのに…。何で結婚してんだよ!?しかも、なんで相手があいつなんだよっ」

そう言う竹内の目はすでに正気を保っているとは言い難かった。
ダラダラと額から汗を垂らし、息は荒く、手が震えていた。
しかし、つくしの喉元にナイフを突き付けられ、堀田にも動くことができない。

「あたしが…結婚してたから?」

つくしが恐る恐る尋ねると、竹内は興奮したように目をギラつかせて言った。

「そうだよ、おまえが悪いんだ…。俺はな…金持ちが大っ嫌いなんだよっ!」
「そんなの…」

あたしだって嫌いだった!

「つくしっ!!」

その時…ドアがまた乱暴に開けられ、現れた人物に、つくしは目に涙を浮かべ身体の力を抜いた。

いつも、どんな時も必ず助けに来てくれる…。

「類…」

竹内の顔に憎しみとも取れる表情が浮かんだ。
それと同時に、竹内の呼吸は早くそして喘鳴へと変わっていった。

ヒューヒューという、息が吸えてないような呼吸の仕方につくしが驚き、ナイフを向けられていることも忘れ振り向こうとすると、類と堀田が動くなっと大きな声で叫んだ。

「た、竹内くん…?」
「おいっ?どうした!?」

木嶋も竹内の異変に気が付く。
竹内が苦しそうに胸を押さえた隙を類は見逃さなかった。
ナイフを足で蹴り上げ奪い取ると、まずはつくしを自身の背中に隠すように庇い、竹内の胸ぐらを掴んで持ち上げた。

いつもは穏やかな類が、ここまで冷酷な顔をするのをつくしは見たことがなかった。

「る、類っ!お願いっちょっと待って!なんかおかしいから…っ」

つくしは類の腕に縋り付くと、やっとのことでその腕を下ろさせた。

「はっ…はぁっ、く、るし…ヒュッ…」
「竹内くんっ!?大丈夫っ?」

背中に庇ったはずのつくしが、竹内の元に駆け寄った。


***


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恋夢21

恋夢21



今日のアポイントを取る際に、結婚式場に改装中のホールと同じ建物内にある、会議室を指定された。

ホールの中は9割方工事は終わっているようだが、まだ受付に人はまだ配置されておらず、つくしたちは直接指定された会議室へと向かった。

コンコンと木嶋がドアをノックすると、中からはいと声がした。

つくしは聞き覚えのあり過ぎるその声に、たまたま偶然にも程があるだろうと困惑するしかない。

「本日、14時に約束しております。flowerfoodの木嶋と申します」
「今回の式場プロデュース担当しております。大河原と申します」

マネージャーも木嶋も担当者だと言う年若い美女に、一瞬驚いたような顔をするが、すぐに姿勢を正し名刺を交換する。
そして、控えていたつくしへおまえもと視線を移すと、つくしは名刺を出すことも忘れて身構えていた。

「おい…花沢…」
「つっくし〜!!!」

やっぱり来た〜!!

「し、滋さんっ!ぐるじい〜」
「ごめん、ごめんっ!まさかこういう会い方すると思わなかったからさ!」

木嶋はまさかまたか?という顔でつくしと親しげに話す滋を見た。
マネージャーは何が起こっているのかも分からずに、鳩が豆鉄砲を食ったような顔で立ち竦んでいた。

「でも、滋さんなんで?会社継ぐことにしたの?」

大河原財閥は、娘を政略結婚をさせなければ存続できないような弱小企業ではない。
しかし、滋の両親としてもその地位や名誉欲しさに寄ってくるような蝿と、滋を結婚させるつもりはさらさらなかった。
そうなると、大河原と並ぶような、もしくは大河原にとっても今後利益に繋がるような相手をと考えてしまう。
それが、政略結婚とどう違うのか、つくしには分からない。

しかし、それさえクリアすれば別に自分は働かなくてもいいんだと滋は言っていた。
つまらない結婚が待ってるんなら、それまでは自由気ままに生きていたいのだと。

「つくし見てたらさ…。どうせ親のしいたレールの上を走らなければならないなら、自分のやりたいように走ってみようって思ったんだよ」
「そっか」

滋はつくしを抱き締めたまま答える。

「それにね、滋ちゃんが式場プロデュースをしたのはね〜」

つくしの両肩に手を置くとニヤリと笑う。

「つくしと類くんの結婚式が、めっちゃ素敵だったからに決まってんじゃん!!もちろん、つくしっていう親友の結婚式だから余計にそう思ったんだけどさ…あああやって誰かのために何かをするのって楽しいって思ったの!」

そういえば、つくしたちの二次会と言う名の本当の結婚式を取り仕切ってくれたのは、ここにいる滋だった。

「あたしも、結婚式楽しかった。あんなに幸せな気持ちになれたのは滋さんたちのおかげだよ…」
「でしょ〜!やったるぜぃ!」

マネージャーと木嶋は、話が止まらない女子2人にいつ話に入っていいものかを考えあぐねていた。

「ふふっ、滋さん…前より、生き生きしてるね。あ…」

ふと視線を感じて振り向くと、ポカンとした顔でつくしたちを見ている上司と目が合う。
そこで初めて仕事で来ていたことに気がついた。

「す、すみませんっ!あたし!」
「花沢…知り合い多いんだね」

嫌味ではなく、心底そう思っているのか木嶋は感心したようにつくしに言った。

「こちらこそ申し訳ありません。つくし…いえ、花沢さんとは高校からの親友なんです。つい嬉しくなってしまって…。じゃあ仕事の話しましょうか」

先ほどとは完全にキャラが変わったとしか思えない滋の変貌っぷりに、男性陣も驚きを隠せない。

そして契約自体もトントン拍子に上手くいくと、滋はまたプライベートの顔つきに戻った。
もし、マネージャーと木嶋だけだったならば、この契約はそれなりに時間がかかったであろう。
つくし自身庶民の出だと言ってはいたが、その人脈はとても庶民の持っているものではないと木嶋は思う。
道明寺財閥に続き、大河原財閥まで。

なるべくしてなったシンデレラか…。

「つくし〜今日の夜暇?つくしの家行ってもいい?」
「うん、類にあとで聞いてみるけど大丈夫のはずだよ」
「やったね!桜子には声掛けたんだけどさ、司たちにはまだなんだよね」
「あ、このあと仕事で道明寺のとこ行くから、ついでに誘っておこうか?優紀にも連絡しておくよ」
「あ、ほんと?じゃあ美作、西門ペアには私が連絡するね」
「滋さん、いいよ。忙しいでしょ?あたしあの2人にも言っておくよ。ほら、あたしは一介の新入社員だからさ」
「ほんとっ?サンキュー」

いくら常務の奥方とは言え、新入社員の口から出る、経済界を牛耳る企業でよく聞く名前が恐ろしい。

ガールズトークはどこまでも続き、マネージャーが話に入っていこうとするが、女たちの会話には隙がない。

「道明寺って…まさか道明寺社長のことか…?」

ボソリとマネージャーが、木嶋に訊ねると木嶋はコクリと頷いた。

「呼び捨てに出来るような関係なのか…?」

マネージャーは木嶋に話しかけたつもりだったのだが、滋は聞き逃さなかった。

「司は、つくしの元カレだもん。呼び捨てにぐらいするよねぇ〜」
「し、滋さん!!」

「「元カレ…」」

マネージャーと木嶋が声を揃えて言う。

「元カレが、道明寺財閥の御曹司で、旦那が花沢物産の御曹司ってなかなかだよね!さすがつくし!そして親友が大河原財閥のご令嬢〜」

これが嫌味でないのが、滋の恐ろしいところだ。
つくしは苦笑すると、あとでメールするねと話を終わらせた。

類と結婚していることを知られている今となっては、誰に隠すことでもないが、自分からわざわざ吹聴する話でもない。
そして、それを知られると大体みんな同じような反応をする。

金目当てのセレブ狙いーーー。

そう思われても仕方がない。
真実を知っている友人たちがいる…。
それだけでいい。

そして木嶋もまた、それを知ってもつくしに対しての印象を変えない数少ない人物であった。


***

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恋夢20

恋夢20


大河原財閥が、業績不振で安売りされていたとあるホールを買い取り、結婚式場へと改装しているという情報があり、木嶋は新規の取引先として考えていた。
取引が成立すれば、大手の取引先が増えることとなる。
取引を確実に成功させたいと木嶋が営業マネージャーに相談すると、マネージャーも担当者と会う際同行することと決まった。

木嶋は最近、竹内とつくしの相性の悪さを懸念していて、念のため今回は竹内を同行させないことにした。
竹内の態度によっては、今後ペアにはしない方がいいかもしれないと思っている。
司と食事をしていた時のように、取引先の前でつくしに絡んだりすればそれこそ会社の信用にも関わる。

「竹内…ちょっといいか?」

先方に出かける前に木嶋は、竹内を使われていない会議室へと呼び出した。

「何ですか?」
「おまえさ…最近おかしくないか?やたらと花沢につっかかるし…前はそれなりに仲良くやってたよな?」
「別に…んなことない…です」
「ぶっちゃけて言うけど…好きだろ?花沢のこと。俺も…だから、結婚してたことがショックだったのは、一緒だからさ…」
「違うって言ってるじゃないですかっ!」

荒く息を吐くと、吐き捨てるように竹内は叫んだ。

「違うんだったら仕事はちゃんとしろよ。おまえの事情は知らないけどな…社会人だろ?しばらくは花沢と担当離すから。頭冷やせ」

何も言わずに立ち竦む竹内を置いて、木嶋は部屋を出た。
そろそろ、大河原のアポの時間が迫っている。



つくしは出掛ける用意を終えると木嶋を探すが、席を外しているようだ。

こういう横の繋がりってやっぱりあるんだな…。

まさか、アポを取った相手が滋だとは思わないが、働き始めてから気が付いたのは、大河原財閥、道明寺財閥、美作商事…どこへ行っても繋がりがある。
それだけ大きな会社なのだ。
つくしの友人たちは、いずれそこのトップに立つことになるのである。

司がつくしを置いてでもNYへ行かなければならなかったという重圧が、今になってよく分かる。
もし取引を1つでも失敗すれば、一体どれだけの額の損失になるのであろう。
そうしない為に子どもの頃からあらゆる英才教育を受け、トップに立つべく人材を作り出すのだ。

まだ幼かった高等部の頃。
司の家のことなんてどうでもいいと、六畳一間の狭い部屋、そんな居場所を守る為に自分だって必死なのだと、そう思っていたことを恥じた。

花沢で働く社員たちを守る。
自分にも出来るであろうか。
少なくとも今はまだ、類の側にいることしか出来ないけれど。

そんなことを考えていると、木嶋が営業部に戻ってきた。

「あっ、木嶋さん!どこ行ってたんですか?マネージャーがもう出掛けるって探してますよ?」
「ああ、悪い。用意出来てるよな?行こうか」
「はい!」


***


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ひるなかの流星・花より男子・日々蝶々・君に届け・会長はメイド様の二次小説・創作置き場です。黒バス黄黒、青黒BLも書いております。
現在はオリジナルばっかりになってしまったなぁ。

こちらを読むにあたって下記注意点をお読みになってからお進みください。

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