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around30→78最終話

around30→78 最終話


類とつくしが役員室のある階でエレベーターを降りると、賑やかな話し声が聞こえてくる。
明らかにそれは双子のものであったが、一体誰と話をしているのであろうか。
声が聞こえる秘書室のドアを開け、室内を覗くとつくしはその場の雰囲気に唖然と立ち竦んだ。
つくしの後ろから顔を覗かせた類も驚いた様子なのは、あの対立していた若村と沢田たちとが、揃って双子を間に挟み笑顔を見せているからであった。

「まこと君は学校でどんなお勉強してるのかな?」
「あのね〜マコ漢字ももう書けるんだよ!お母さんは凄いって!」
「そうなの!?凄いね、お勉強頑張ってるんだね〜」

一体彼女はどれだけ別の顔があるのか、優しげな声色で真と話す沢田は、若村と対立しつくしに悪態をついていた人物と同じ人だとはとても思えない。
若村も心を膝に乗せて学校で習っている歌を一緒になって歌っている。
女性特有のピリッとした空気は鳴りを潜め、母親のような顔で接してくれていた。
声を掛けていいか一瞬迷ったが、双子が先に気が付き駆け寄って来ると、全員の視線が類とつくしに向けられる。

「あ、お父さんお母さん!おかえりなさい」
「おかえりなさい!」
「ただいま。遊んでもらってたの?…皆さんありがとうございます。ほら、2人ともありがとうして?」
「「お姉ちゃんたちありがとうございます!」」

類がよく出来ましたと双子の頭をポンポンと叩くと、双子も満足そうに笑った。

「牧野さん、久しぶりね。さっき心くんが言ってたんだけど…まさか…本当に…?」

若村としても双子が言うお母さん妊娠説は信じ難いことであったのであったのだろう。
類とつくしですら半信半疑だったのだ。

「はい…今病院に行って来たら3ヶ月らしくって…しかも双子なんですよ。あたしたちが信じられない思いです」
「うっそー!!」
「双子ちゃんエスパーみたいだね!」
「赤ちゃん産まれるんだって!」

双子は周りの反応を首を傾げ不思議そうに受け止めると、声を揃えて言った。

「「だから言ったでしょ!?」」

そんな双子の言葉に、大人たちも声をあげて笑う。
それを見ていた双子も顔を見合わせて笑い出した。

子どもの笑顔はみんなを幸せにする。
何でもないことで笑い、人を疑うことを知らず純粋な生き物。
そんな子どもの前では、皆が純粋な心に戻るのかもしれない。



「あのね、類。ちょっと話があるんだけど…」

双子を連れて邸に戻ったつくしは、仕事中の類に話し掛けた。
邪魔かとも思ったが、ずっと何時間もパソコンの前から動かない類に少し休憩してもらう為でもあった。

「ん?どうかした?」

机に向かっていた類が、目頭を押さえて振り返る。
お仕事体験が楽しかったのかなかなか帰りたがらない双子に、仕方なく類も今日は在宅で仕事をするといい帰宅した。
いつまでも秘書室で遊んでいるわけにもいかないし、彼女たちも大量の仕事を抱えているのだ。
そして類はここ何日間の仕事の滞りを取り戻すかのように、山村が付いていないにも関わらずずっとパソコンに向き合ったままだった。
つくしはワゴンに紅茶を乗せて類の近くに持って行くと、類が立ち上がりつくしをソファに誘導した。

「ありがと…ごめん、今平気だった?」
「うん、ちょっと休憩したかったから」
「仕事のことなんだけど…あたし何年かは働かなくてもいい?」
「いいけど…どうして?つくし働きたいのかと思ってた」

類が疑問に思うのは当然で、真と心が産まれてからも大学に通い、その後もすぐに就職したのは、それがつくしの願いであったからだ。
社会を何も知らないまま家庭に入りたくはないと、当時の彼女は言っていた。

「もちろん働くのは好き。働きたい気持ちはあるんだけどね」
「うん」
「双子たちが産まれた時、あたしはまだ大学生だった。赤ちゃんが出来たってことは嬉しかったけど、まだやりたいことも沢山あったの、でもそれはあたしの我儘よね。双子は何も言わないけど、きっと寂しい思いもさせたと思う」
「そう、かもしれないね…俺も遅い時もあったし」
「だから、その分今度こそちゃんと子どもたちにおかえりなさいって言ってあげたい。これから産まれるこの子たちにも真と心にも同じだけの愛情を注いであげたいな、って思ったの。この子たちが大きくなってお母さんそろそろ働いてもいいよって言ってくれるまでは、ね」

つくしは自分の気持ちを全て吐き出すと、自身を落ち着かせるように紅茶を一口飲んだ。

「俺としては、その方が安心する。監察室に引き抜いたのは俺だけど、どこの部署でもモテモテな奥さんだから困ってたんだ」
「それは類の思い過ごし!あたしの方がモテモテな旦那様に困ってます」
「俺が、つくし以外の女を視界に入れると思う?」
「いや…視界にくらいは入れてあげてよ……ふふっ」

隣に座る類の肩に頭を乗せると、安心したようにつくしは目を閉じた。
類も真っ黒なつくしの髪を優しく撫で、額にキスをする。

「夫婦って似てくるって言うよね…あたしたちも似た者夫婦になるのかな?」
「つくしが俺に似るのは困るな…でも、俺つくしみたいに3秒で寝たりとか出来ないし…」
「嘘〜?類、昨日3秒で寝てたよ?」

つくしが口を尖がらせて言うと、類がつくしの鼻をつまむ。

「もう〜!」
「早く産まれないかな…」
「うん、楽しみだね…」

類もつくしも座ったまま頭を寄せ目を瞑ると、2人同時にスースーと眠りについた。
会話がなくなったことを察してか、佐原がノックなしで部屋に入ってくると、ソファで肩を寄せ合い眠る2人に、タオルケットをそうっと掛けて静かに扉を閉めた。


fin

ここまでお付き合い頂き、ありがとうございました。
駆け足で終わりましたが如何でしたか?
今回のお話の過去編もあるのですが、それはまた別の機会に。
そしてネタがなくなったら、また潜入させちゃおうという私の思惑がバレバレの終わり方です。
次のお話は“ペットと呼ばないで“です。
何となく想像つくかな…設定は大人類つく。
around30みたいに長い話は書いてて飽きるので、次は短めでいきたいなと思っています。

オダワラアキ


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around30→77

around30→77



「るっ…専務!?」

突然背後から声がして振り返れば、いつも昼食は役員室で摂っている筈の類が立っていた。
社員食堂になど今まで一度も来たことはないと思うが、今日に限って何故?という疑問が浮かび上がる。
それよりも、類の纏う空気の冷たさに気が付いていないのは工藤ぐらいなもので、隣の席に座る社員たちは類を見て肩をビクリと揺らしていた。

「あ、花沢専務!昨日はご挨拶も出来ず失礼致しました!総務部の工藤と申します。牧野さんにはとても良くしてもらっています!」
「へえ、良くしてるんだ?つくし」

工藤は自分が何かをしたとは思っておらず、失礼のないようにと挨拶するが、つくしはいつから見ていたのかと気が気でなかった。

「え、あ、あの、ね。ほら、工藤くんってちょっと進に似てて…なんか弟っぽいっていうかね…それで…」
「それで…?弁当食べさせてあげるぐらい仲良くなったの?」
「いや、それは……せ、専務はどうしてここに?」

やはりそこから見ていたかと、つくしは出来るものなら逃げ出したい心境に駆られる。
話を変えてみればそんなつくしの思惑もバレバレで、逃がさないよと流し目で言われれば諦める他ない。

「言ったでしょ?昨日、ちょっと騒がしくなるかもって…大丈夫だった?」

言われてみれば、類の言葉はこのことを暗示していたのかとつくしはやっと納得する。
周りを見渡せばこの状況…突然現れた類の話を聞き漏らすまいと、社食に集まった社員は息を凝らすように聞き耳を立てていた。

「い、今が大丈夫じゃないかも…」

こんな状況で何を話せばいいのだろう。
もう全社員が知るところとなっているのに、今更ただの社員だと知らぬ振りして話すことも出来ない。
かと言って夫婦を前面に押し出して会話をするほど厚顔無恥にもなれずに、つくしはふと黙り込んだ。

「朝話すの忘れたんだけど…」

類はつくしの隣の椅子を引き腰掛けると、加藤たちがいることも周りに聞かれていることも全く構わないといった様子で話し始めた。

その時、昼休みとは思えないほどシンとした社員食堂に、2つの聞き慣れた声がつくしの耳に届いた。
しかし、こんな場所にいるはずのない声で、たまたま女性の甲高い声と聞き間違えただけかとつくしは声のする方へ視線を向けた。

「あ、もう来たみたい…」

類の呟きが耳に入らなかったのは致し方ないだろう。
類の言葉と同時に、毎日聞いている双子の声が重なったのだから。

「「お父さーん、お母さーん!来たよ〜!」」

振り返れば、SPの加賀谷に連れられて双子がエレベーターを降りて来たところだった。
英徳の制服のままで、いつも学園に行く際持って行く鞄を背中に背負っている。
つくしは一瞬具合が悪くなり早退してきたのではと思ったが、走り寄ってくる姿は元気そうであるし、例え早退したにせよ佐原が先ずはつくしに連絡を取るはずである。

どこからか、類にそっくりな双子を見て可愛いと声が聞こえた。
つくしにとっても勿論目に入れても痛くないほどに可愛い息子たちであるが、いかんせん本人たちは言われ慣れていることもあり、まんざらじゃなさそうなところがつくしとしても複雑な心境である。

中身が西門さんや美作さんみたいになったら、どうすんのよーーー。

大人になった双子の顔ーーーこの場合思い浮かんだのは類の顔であるが、ポワンとつくしの脳内に思い浮かび、つい…“俺って格好いいからさ“なんて言っているところを想像してしまう。

いやーーー!出来れば中身も類みたいに育って…!

「俺としては、顔も中身もつくしみたいに育って欲しいんだけどな…」
「へっ?」
「中身が西門さんや…のあたりから声に出てたよ?」
「……!」

恥ずかしさから顔を隠しテーブルに伏せてしまったつくしに、双子たちはどうかしたのと類を仰ぎ見る。

「「お母さん?」」
「そうだった!なんでここにいるの?」

つくしがバッと顔を上げ類と手を繋ぐ双子に向き直ると、双子たちはつくしの驚いた顔を見てしてやったりといった風に、ニコッと笑顔を見せる。

「お仕事体験だよ!今日1日お父さんの代わりに、僕たちが専務なんだ!」
「だから、まずはお昼ご飯食べに来たんだよ!」

いやいや…類はここで昼食を摂ったことはないから…と突っ込みたいところを必死に我慢し、聞きたいことは山ほどあったが、取り敢えずつくしは頑張ってねと声を掛けた。
そういえば、学校から来ていたプリントにお父さんの仕事場でお仕事を体験しようという内容のものがあったが、無理であるからと提出していなかったことを思い出した。
今、双子がここにいるということは類が学園長から頼まれたのだろうか。

「ねえねえ、お母さん!ここでご飯食べてもいいんだよね!?」
「そうだね、何が食べたい?買ってきてあげるよ?」

つくしのそばで食べる気満々の双子にダメとも言えず、加藤と工藤にすみませんと小声で謝るが二人とも気にしていないというように首を振った。
しかしいくらお仕事体験とはいえ、昨日仕事を放置し帰宅してしまった類に時間の余裕があるとは思えなかった。
つくしの元へ双子を連れてきたのはそういう事なのだろう。

「類…まだ仕事あるんでしょ?あたし双子見てるから…」
「いや、お仕事体験だし折角だから仕事してもらおうかなと思ってるよ」

午後は早退扱いにしてもらうからと類に話そうとするが、当たり前のような言い方で類がとんでもない事を言う。

7歳の双子に仕事をさせる?フリではなくて?

「仕事って…双子に?」
「うん。俺も自分の仕事があるからずっと相手出来るわけじゃないけど。つくしも一緒に来てくれる?」
「うん…分かった。じゃあ宮田部長に連絡しておかないと」
「ここに来る前に連絡しておいたよ。食べ終わったらそのまま来ていいよ」

つくしが類と話をしている間、両親の会話を邪魔しないように双子は加藤たちと話をしていた。
4人テーブルに椅子を2つ追加し、しかもいつの間にか子どもでも食べられそうな定食が用意されている。

「専務にそっくりね」
「そうですね〜!ここまで似てたら専務既婚説が事実だってすぐ広まりそうじゃないですか?」
「もう広まってると思うけど…」
「あ!そっか…」

加藤たちは双子を見て和気藹々と話し、双子も持って生まれた愛想の良さで大人たちに囲まれながらもニコニコと話に加わっていた。

「「キコンセツってなに〜?」」
「あ〜うん…お父さんとお母さんが結婚してるってことだよ」

工藤が子どもの前で話す話題ではなかったかと、言葉を濁しながら双子に丁寧に説明すると、双子が納得したようにうんうんと頷いた。
さすがに小さな頃からテーブルマナーを叩き込まれているだけあって、社員食堂の定食であっても綺麗な所作で食べている。
類と話をしながらもつくしが双子の様子を気にしていると、モグモグと口を動かしていた真がゴクリと口の中のものを飲み込み、口を開いた。

「結婚したら赤ちゃんが出来るんだよね?」
「そうだね…まあ…うん」

天然と言われている工藤であってもこの話題は何と答えていいのか分からず言い淀む。
続けて心が驚くようなことを工藤に言った。

「僕たちに妹が出来るんだよ!」

同じテーブルの目の前に座るつくしも類も心が言っている意味が分からずに、顔を見合わせて首を傾げる。

「妹は…どうだろうね…。そればっかりは授かりものだから」

つくしが言うと、真が違うと首を振った。

「また桜が咲くときに、双子の赤ちゃんが来るよ。女の子だったよ!」
「僕たち見たんだもんね!すっごく可愛いんだから!」

まさかとは思う。
超能力などを信じているわけではないのだが、ふと定期的に来ているはずのものがここ2ヶ月ほど来ていないことに思い当たる。

「嘘…もしかして…」

つくしが下腹部に手をあてると、類もまさかとつくしを見る。
俄かには信じられないもので、現実主義の類が取る行動は一つだった。

「つくし…病院行こうか。2人とも…山村に頼んでおくから、お父さんの代わりにお仕事しっかりするんだよ?病院行ったら戻って来るから、ちゃんとお部屋で待ってること」
「うん!分かった!」
「赤ちゃん早く産まれないかなぁ〜」

そして信じ難いことではあるが、つくしはこの後病院にて妊娠3ヶ月、しかもまた双子という幸せな診断を受けるのであった。


***


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around30→76

around30→76


双子が寝入った後、夜のうちに柴咲家に連絡を入れると、貴子からは何度も申し訳ないと謝罪された。
むしろ悪いのは双子で貴子には何の責任もないとつくしは話をしたのだが、そこまで大事になるとは思っていなかったようだ。
互いに謝り合う電話に苦笑しながらも、家に来るまでに何事もなくてホッとしたのだと貴子は話した。
こんなことはもうないとは思うが、念のため固定電話の番号も交換し、仕事は牧野姓でしているのだということを伝える。


「類も疲れたでしょ…?もう寝よっか」

つくしは電話を切ると、今日持ち帰った書類に目を通している類に声を掛ける。
今日は早い時間に邸へと戻ってしまったのだから殆ど仕事にならなかった筈だが、類の疲れた顔を見ていると相当緊張状態にあったのだということが分かり早く休ませてあげたいと思う。
類もやはり相当参っていたのか書類を鞄へとしまうとゴロンとベッドに横になった。
つくしも横に潜り込むと、類がいつもの通りにつくしを腕の中へ抱き込み眠そうに欠伸をしながら言った。

「明日から…ちょっと騒がしくなるかもね…」
「え?どうして?」

つくしが聞くと、類はすでに静かな寝息を立てて眠っていた。
リモコンで部屋の電気を落とし、サイドテーブルのランプも消すと、つくしは類の髪にキスを落とす。

「お疲れ様…」



翌日職場に行くと、総務の宮田を始め工藤、加藤や他の同僚たちも心配そうに駆け寄ってきた。
山村から事情を説明してもらっていたものの、やはりつくしの口から聞きたかったのだろう。
矢継ぎ早に大丈夫かと声を掛けられ、あっという間に取り囲まれてしまった。

「皆さん、ご心配お掛けして申し訳ありません。子どもたちは無事に家に帰って来ました…お騒がせしました」

つくしが頭を下げると、皆一様にホッとした様子であった。
もうすぐ、朝の郵便仕分けの時間でいつまでも立ち話をしているわけにもいかず、つくしは加藤と工藤と共に仕事を始めた。

「ほんと…何事もなくて良かったです」
「うん、心配かけてごめんね?」
「いや、心配することしか出来ないんですから、いいんですけど。でも、ビックリしましたよ〜教えておいてください、ああいうことは!突然専務が来るし、牧野さんはタメ口で名前で呼んでるし…頭の中がパニックでしたよ」

予め教えてもらえなかったことに、工藤は少し不貞腐れた様子で唇を尖らせる。
確かに、類のことを専務と呼ぶことも忘れて、すっかり素を晒してしまっていたのだから、周りははてなマークだらけであっただろう。
工藤に聞けば、部長の宮田は専務から内線があったことで何かしらのお叱りや咎めがあるのではと類の到着を待っていたから、そうではないと知りホッとしていいのやら複雑であったようだ。

「花沢専務の…奥さん、なんですよね?」
「うん、ごめんね?言ってなくて…。加藤さんもすみません」

つくしは備品室に向かい歩きながら、2人に頭を下げた。

「何か納得ですよね…専務って秘書室の美女軍団に囲まれてるのに、見向きもしないって噂ありましたから。やっぱり、こういう人がいいんだな〜と」

工藤がうんうんと頷きながら、顎に手を当てて何やら考えている。
加藤もつくしをジッと見つめ、納得するように1つ頷いた。

「私も工藤くんと同じ。お似合いよね…凄く」
「えっ?そう…ですか?」
「…牧野さん綺麗だし。結婚してなかったら俺がプロポーズしたいぐらいですよ…なーんて冗談ですけど」

工藤が冗談めいて言うが、加藤だけはそれが強ち冗談ではないことを気が付いていた。
つくしの明るさは周りをもいい意味でも巻き込み、そして皆が惹きつけられる。
男性も女性も例外ではないのだから、その吸引力は凄まじい。

後継者である専務の妻であれば、もっと会社内の実権を握る部署にいてもおかしくはないのに、決して驕ることなく雑用やお茶汲みすら懸命に取り組んでいる。
加藤は同じ女として、そんなつくしのことを専務の妻だと知る前から、尊敬の思いすら抱いていた。
才気煥発な男であれば、つくしの内側から湧き出る利発さにすぐに気が付くはずだ。
次期後継者の妻がつくしのような女性ならば、花沢物産は安泰であろう。



何だか今日はやけに見られるな…とは思っていたのだが、類の近くにいると常に視線を感じていたから、つくしの勘違いかもしれないと、さほど気にもしなかった。
しかし、それが気のせいではなかったと知るのは、昼休みに加藤たちと食堂に行った時だった。

ボソボソ…あの人が…専務の…
結婚してた…子どもも…

これって、あたしのことだよねぇ…。

いくら鈍いと言われるつくしでも、社員食堂を利用する人たち全員の視線を一手に集めていれば、気が付かない方がおかしいだろう。

「牧野さん、目立ってるわねぇ。昨日の今日で…早いわ」
「そうですね…でも、気にすることないですよ!ほらっ、俺は気にしないし!」
「工藤くんはちょっと気にした方がいいわ…」

加藤が工藤の背中をポンポンと叩く。
つくしたちは、なるべく目立たない端の席に座ることにするが、それを目で追うように人々の視線が移る。
どこに座ろうが目立つことに変わりはないらしい。

加藤たちが社食を買って席に戻り、いつものようにランチタイムが始まった。
そして、工藤がつくしが弁当を開けるのを今か今かと待っている。

「今日も美味そ〜!俺の唐揚げとその海老のやつ交換しません?」
「うん?いいよ…はい」

つくしが箸にとって工藤の皿に乗せようとするが、その途中で口を開けた工藤がパクッと海老のフリッターに齧りつく。

「うん!美味い!」
「ちょっと工藤くん、お行儀悪いよ?」

まるで双子を叱るように、20歳を過ぎた青年を叱れば、工藤は悪戯っぽい笑みを湛えて箸を差し出す。

「はい、牧野さんもあーん」

唐揚げをつくしの口元近くに持ってこられても、口を開けて食べるわけにもいかず、どうしようかと思案していると、どこからかどよめきが起こる。
天然2人はそんなことにも気付かずに、ハタから見ればカップルのようなじゃれ合いをしていた。

「つくし…浮気中?」


***

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around30→75

around30→75



時刻が17時半を回り、まだ外は明るいものの子どもたちに門限として伝えている時間はとうに過ぎていた。
やはり自分たちで帰って来られない状況にあるのではないかと、類も嫌な予感ばかりが頭を過る。
帰って来て着替えもしないままであったが、スーツの内ポケットに入れたままの仕事用携帯が振動し着信を告げた。
内心、こんな時に仕事の電話を掛ける無能な相手に舌打ちしたい気分であったが、着信の相手は事情を知っているはずの山村であった。
訝しみながらも不機嫌さを隠そうともせずに電話に出た。

「なに?……ああ…えっ?ちょっと待って」

類は携帯をスピーカーにして、つくしにも聞こえるようにテーブルに置いた。

『結論から言いますと、お子様たちが見つかりました。今SPが迎えに行っています』

つくしが息を呑み身を乗り出す。
何故山村のところに連絡があったのか、類も不思議な様子だ。

「何があった?」
『奥様の荷物が総務に置きっぱなしになっていて、携帯が何度も鳴っていると、総務の宮田部長から秘書室に連絡がありまして、こんな事態ですので電話の相手を確認させて頂きました』
「誰からですか!?」
『柴咲様からでした…それで…』

懇切丁寧な山村からの話によると、つまりは…
総務に足を運んだ山村が、つくしに代わって電話に出ると、貴子は安心したように、良かったやっと出た…と言ったらしい。
つくしの友人関係もそれなりに把握している山村は、最近ママ友達となった貴子のことも名前だけは知っていた。
そこで、自身の身分を明かし携帯を会社に置いて帰ってしまったことを話すと、双子が航と遊ぶ約束をしたからと貴子の家に2人で来てしまったことを話したと言う。
つくしが心配しているだろうと貴子は何度も連絡をしていたのだが繋がらずに困っていた。
貴子はつくしの携帯しか知らず、もしかしたらまだ仕事中かもと、花沢物産の代表電話に連絡を取ったそうだ。
しかし、花沢つくしという社員は存在しないと言われ、花沢邸の固定電話の番号は知らなかったため、訳が分からずに何度もつくしの携帯に連絡を取るしか方法がなかった。
貴子としては、すぐに連絡が取れると思っていたし、そんなに大事だとは思わずに直接的な知り合いではない為、双子の父親である類に連絡を取ろうとは思わなかったようだ。
そして、17時を過ぎそろそろ家に送って行こうと思っていたのだが、もう一度だけと携帯に連絡を取ると、山村が電話に出たことで漸く双子の居場所を伝えることが出来たのだ。

類が山村からの電話を切ると、つくしが大きく息を吐きグッタリとソファの背もたれにもたれかかった。

「良かったぁ…も…誘拐だったらどうしようかと思った…」
「ん…そうだね」
「類…?どうかした?」

双子が無事だと知ったことで、つくしはやっと肩に入っていた力を抜くことが出来たのだが、類は表情は固いままだ。

「…この家の生まれじゃなかったら…つくしだって誘拐かもなんて思わなかったよね」

小学生が17時過ぎまで帰って来なかったら、もちろん心配はするだろうが、真っ先に公園に行っているのか、友達の家に行っているのかと想像するはずだ。
もしかしたら誘拐かもしれないなどとはすぐには思わないだろう。

「何言ってるの?どんな家だって、子どもが何も言わずにどこかに行ったら心配するに決まってる。例えば類がど貧乏だって、同じだよ」

半分は本当で、半分は嘘であることも類には分かっているが、不自由な思いをさせていても、共に生きていきたいのだ。



帰りの車の中で、SPの加賀谷に怒られたのだろう、双子が半泣きで邸に帰って来た。
つくしもドッと疲れが出て、怒る気力も懇々と説教する気力もなかったから、普段から悪いことをしたらきちんと怒ってほしいと伝えているが、甘やかさずに接してくれていることにホッとする。

「お母さーん、ヒック、ごめんなさ…っ」
「うぅっ〜お父さん心配かけて…ごめんなさい…」

類が真を、つくしが心を抱き締めながら頭を撫でると、つくしの目にも涙が浮かぶ。

「おかえり…無事で良かった。ほんとに、もうっ…ほんとにあんたたちはみんなに心配かけて!ちゃんと謝ったの?」
「うん…ごめんなさい…」
「よく2人だけで友達の家に行けたね…。でも、約束して?外に出る時は必ず加賀谷たちと行くこと…分かった?」
「はい。お父さん…ごめんなさい」


こうして、双子の初めておつかい…いや、初めての探検は幕を閉じた。


***


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around30→74

around30→74



話せる状態ではないつくしに代わり、類が宮田に話しかけた。

「悪いけど…」
「分かっております。早く家に…っ」
「ああ…つくし、行こう」

泣きながら頷くと類にしっかり肩を支えられながら、エレベーターでロビーへと降りる。
途中すれ違う何人もの社員が何事かと視線を向けるが、相手が相手だけにどうしたのかと聞くことも出来ず、ただその後ろ姿を見送った。

花沢の運転手の迎えを受けて車に乗り込むと、やっとのことでつくしが口を開いた。

「ごめんね…あたしばっかり、取り乱しちゃって…しっかりしなきゃ…お母さんなんだから、ね」

まだ涙声ではあるが、作り笑いを顔に浮かべてガッツポーズを作る。
その姿が痛々しくて、類は安心させるようにつくしを抱き締めた。

「俺の前で無理して笑わなくていいから…泣いたって叫んだって怒ったっていいから、無理はしないで」
「ん…でも、泣いてたら双子が帰って来た時心配するでしょ?どこかに遊びに行ってるだけかもしれないし…」
「そうだね…きっと何事もなく帰って来るよ」

長年花沢邸で働いている運転手も、涙を堪え事故だけは起こさないように平静を装い邸へと向かった。



邸に帰るとあちこちで顔を青ざめさせた使用人が、仕事も手につかない様子で類とつくしに頭を下げた。
誰のせいでもないのに、皆申し訳ありませんと泣きそうな顔をする。
特に佐原はショックのあまり貧血を起こし、控室で休んでいるようだった。

時刻はもうすぐ17時を過ぎようとしていた。
外で遊ぶ時は必ずSPを連れ、夏は17時、冬は16時には家に帰るように言ってあった。
しかし、つくしの子ども時代を思えば、2人で外に出てみようと思った双子の気持ちも分かるのだ。
友達を誘い公園に遊びに行ったり、お小遣いを貰って近所の駄菓子屋に行ったり…少しドキドキしながら初めてつくしがそんな経験をしたのは、確か小学校低学年であったように思う。

類たちがそうであったように、子供心ながらSPの存在は邪魔であっただろう。
危険な遊びはもちろん厳禁、1人での行動も制限され、家では家庭教師が付くのだから息が詰まる思いをしていたのかもしれない。
つくしから見たら、勉強も楽しみながら進んでやるタイプに見えていたが、双子が本当にそう思っていたかは分からない。
つくしは野原を駆け回っていたような子どもであったから余計に思うのだ。

本当は息が詰まるような思いをさせてしまっていたら、どうしようーーーと。

「つくし…大丈夫だよ」

リビングに立ったまま黙り込むつくしを気遣うように、類が声を掛ける。
考えれば考えるほど、嫌なことばかりが頭に浮かぶのは類も同じなのかもしれない。

「あと1時間待って、帰って来なかったら警察に連絡しよう」

警察と聞いてつくしの肩がビクリと震える。
帰って来なかったら…帰って来なかったら…
誰かに怖いことをされていないか、痛いことをされていないかと、抑えられない恐怖がつくしを襲い、奥歯がカチカチと音を立てて震えだす。
類に支えられながら、ソファに座ると誰も一言も発しないシンとした室内に電話の音がけたたましく鳴り響く。
ビクッと肩を揺らしたつくしの背中を撫でながら、類が直接電話に出る。

「はい……あ、そう、分かった。双子が他にも行ったことのある場所…探してみて」

一瞬双子が見つかったという連絡かと、つくしの中にも期待が生まれるが、類の話からそうではないことが分かる。
受話器を置くと、双子を探してくれているSPからだと言って、類も疲れたように額を押さえた。


***

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オダワラアキ

Author:オダワラアキ
オダワラアキの二次小説・二次創作置き場へようこそ。
ひるなかの流星・花より男子・日々蝶々・君に届け・会長はメイド様の二次小説・創作置き場です。黒バス黄黒、青黒BLも書いております。
現在はオリジナルばっかりになってしまったなぁ。

こちらを読むにあたって下記注意点をお読みになってからお進みください。

このサイトは原作のある漫画の二次創作、小説です。

同人誌や、二次小説(2次創作・夢小説)に抵抗のある方はウィンドウを閉じてください。
原作者様、出版社とは全く関係ありません。

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