現在の閲覧者数:
FC2ブログ

彼と彼女の事情 9

彼と彼女の事情 9
玻鶴様リクエスト
類視点



毎年この時期がやってくると、邸の中が妙に落ち着かない。
居心地が悪いとかではないが、気恥ずかしい…という感情が一番近い。

「あ、ねぇ見て?チビたちが父の日の似顔絵描いたんだよ。上手に描けてるよね」

先ほどまで忙しなく動き回っていたつくしが、リビングのソファに座る類に2枚の画用紙に描かれた絵を広げて見せる。

「へぇ、上手だね」

絵の評価としては幼稚園児にしては上手いレベルだが、チビたちにはそれを大袈裟に褒めてやらなくてはならない。
それが何というか…気恥ずかしい。
今までそこまで感情を表に出すこともなく過ごして来たのに、まさか大人になってからこんな試練が待っていようとは思わなかった。
上の双子の時はまだ、つくしも自分も手探りであったにも関わらず子どもながらにしっかりした子たちだった。
ありがとうと言えば、それだけで満面の笑みを浮かべるのだから楽だとも言えた。
しかし目に入れても痛くないほど可愛い、愛する娘たちが描いてくれた絵が嬉しくないわけがない。ただ、恥ずかしいだけなんだ。

「お父さ〜ん、見た〜!理子一生懸命描いたんだよ!」
「歌子の方が上手に描けてるでしょ!?」

リビングで画用紙を広げているところに、チビたちが走り寄ってくる。
我先にと類の持った画用紙を奪い、目の前に掲げた。

「2人とも上手に描けてるよ、ありがとう」

類がポンポンと頭を撫でると満足気に笑い、画用紙の下を指差した。

「ここ、読んで!」
「凄いでしょ!?」
「歌子のとちゃんと繋げて見てね!」

よくは見えなかったが、最近書けるようになった平仮名で何か書いてあるようだ。
チビたちの希望通り二枚を繋げて上に持ち上げる。

「あと…さん…?あとさん?ああ、お父さん…かな?あいし………」

続きを読んで思わず口に出すのを止めてしまう。
チビたちは読んでという期待を込めたキラキラした目を向け、キョトンとした顔で類を見上げる。

「お父さん、愛してるって書いたの!凄いでしょ〜」
「いや、ここは…大好き…とかがいいんじゃないかな…」
「だって、お父さんお母さんにいつも言ってるでしょ?愛してるって!」
「先生にどういう意味って聞いたら大好きってことだよって教えてくれたもん!」

「………」

つくしが笑いながらリビングを出て行く。
ちょっとフォローしてくれないのと、類にしては珍しく慌てた様子でつくしの背中を見送った。
しかし、つくしによく似た大きな瞳でジッと見つめられれば、可愛くて愛おしくてあっという間に陥落してしまう。

「そうだね…お父さんも愛してる」

理子と歌子を胸に抱き締め子ども特有のサラサラとした髪を撫でると、チビたちはギュッと腰にしがみつく。
そういえば、どこからか香るいい匂いに釣られて類がリビングのドアに視線を送ると、ちょうどつくしが真と心を連れて戻って来るところだった。

「お待たせ〜!今年は類の好きなフルーツグラタンだって!2人ともますます料理の腕前上がったんじゃない?理子と歌子もさっきまで手伝ってたんだよね?」

そう毎年、父の日には真と心が料理を作り、チビたちからは絵を贈られる。
6人分のグラタンが乗ったワゴンにはメッセージカードも添えられている。
今年はチビたちも手伝いたいと言ったために、つくしから父の日の似顔絵を渡されたのか。

〝お父さん、いつもありがとう〝

その一言が、気恥ずかしく…でも、涙がこぼれそうになる程嬉しいんだ。

「ねぇ、ところでさ…お父さんとヨウくん、どっちの方が愛してる?」
「「……ヨ…」」

その時、つくしがチビたちの口元を慌てて塞いだ。


***


皆さまからの拍手、コメントとても励みになります!
ありがとうございます!


にほんブログ村 小説ブログ 二次小説へ
にほんブログ村


ブログランキングに参加しています!ポチッとお願いします(^-^)


スポンサーサイト

テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

彼と彼女の事情 8

彼と彼女の事情 8
ノエノエ様リクエスト
心くんの場合
皆様リクエストありがとうございます(o^^o)
月に何度かあるモチベーションの低下…そんな時にはリクエスト〜大変助かっております♬



「ただいま〜!!」

英徳学園中等部に在籍する花沢心が、いつもの通り部活が終わり帰宅部の真とは別々に邸へ帰ると、長年花沢邸で使用人をしている佐原が玄関口で出迎えた。
母が父と結婚する前から勤めているというから、真や心たちにとっては3人目の祖母のような存在で、母よりも余程優しいために甘えが出てしまう。
心が靴をポイっと脱ぎ捨て玄関を上がると、佐原がやれやれといった様子で直しにかかった。

「心さま!靴はきちんと揃えてお入りくださいませ!」
「あとでやるー!ねぇ、お母さんは?」
「お父様がお帰りになられてますので、お部屋にいらっしゃいますよ」

心はふうんと、類に似た相貌で口を尖らせた。
佐原は小さな頃から母親べったりで甘えん坊の心が、1人取り残されたような表情を見せていることに笑いを堪える。
真の性格は父親に似たが、心は隠し事が出来ないところや表情豊かなところが母親そっくりだった。
佐原に笑われたと知れば、暫くは口を聞いてはくれないだろう。

「俺、部屋行ってくる!」
「はいはい…」



両親の部屋の前に立つと、中から聞こえてくる話し声に耳を澄ませた。
チビたちも一緒だと思っていたが、違うらしくいつもの騒がしさがない。

「類…ダメだよ。もうすぐ双子が帰ってくるし…チビたちも預けてるし…」
「大丈夫…もう中学生になるんだよ?最近2人きりの時間なかったでしょ?チビたちは佐原たちが見てくれてるから、ね?」
「でも…っ、ん」
「ダーメ、ほら口開けて…」

心は眉を寄せ、思いっきり部屋のドアを開けた。
バンッと音を立て、開けられたドアが跳ね返る。
椅子に腰掛け涙目で父の顔を見る母親の姿に心がキレた。

「お父さん!何してんのっ?」

父はドアの大きな音にも心にも視線を向けることなく、母の顎を持ち上げていた。

「ああ、ほら喉真っ赤…やっぱり風邪ひいたんだよ…」
「喉が痛い〜。あっ、心おかえり…ごめんね出迎えられなくて…」

母は涙目のまま、心に視線を向けた。
父も手を離すとおかえりと声を掛ける。

「あ、ただいま…。えっ…?お母さん、風邪ひいたの?」
「うん、そうみたい…口内炎かと思って類に見てもらったんだけどね…滅多に風邪ひかないのになぁ」
「最近忙しくて疲れが溜まってるんじゃない?子どもたちのことは俺がやるから、少し横になってなよ」
「ん、ありがとう…」



父と共に部屋から出ると、父が不思議そうな顔で聞いた。

「そういえば、妙に慌ててたみたいだけど、どうかした?」
「えっ…いや、何でもない…お母さん風邪早く治るといいね!」

心は両親のアレコレを想像していたなどと言えるはずもなく、類によく似た顔を真っ赤に染め自分の部屋に走って行った。

「心、まだまだ甘いね。それにしても…俺に似た顔でつくしみたいな表情されると…ぶっ、おかしっ…」

この日、妻であるつくしがそばにいないにも関わらず、お腹を抱えて笑う花沢家当主の姿があちこちで見られたという。


***


皆さまからの拍手、コメントとても励みになります!
ありがとうございます!


にほんブログ村 小説ブログ 二次小説へ
にほんブログ村


ブログランキングに参加しています!ポチッとお願いします(^-^)


テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

彼と彼女の事情 7

彼と彼女の事情 7
ノエノエ様、ゆみみん様リクエストです
around設定なのでタイトルを夏の日の一コマから、カレカノへ変更しました。




本当にそっくりだと思う。
つくしの小さい頃は写真でしか知らないけれど、真っ直ぐに伸びた黒髪に意志の強そうな大きな瞳も、言いたいことをズケズケ言ってくるところ、何と言ってもーーー。


「ね、類…子どものすることだからね…」
「……」

つくしが隣に立つ類をチラリと見ては、ハラハラしながら教室内にいるチビ達に視線を向ける。
年に数回あるこの保育参観、保護者達は色々な想いを抱えてつくしと同様にハラハラと見守っている。
室内は園児と保護者たち合わせて50人ほどの熱気で、空調の意味を成していない。
皆一様に手に持ったハンカチで顔を仰いだり、額を拭ったりしている。

「なぁなぁ、おまえリコっての?そっちはカコ?2人合わせてリカコじゃんか!?おまえら俺の子分にしてやってもいいぜ!なんなら盆踊りのペアにしてやってもいいし!」

チビたちに対しての横柄で俺様な態度は誰かさんを彷彿とさせる。
なんだよ、盆踊りのペアってチビたちをダンスに誘ってるってこと…?
類の機嫌は益々下降の一途を辿った。

「はぁっ?何言ってんの?なんであたし達があんたの子分にならなきゃいけないわけ!?」
「ほんと、シツレイね!あんた誰よ!?しかも盆踊りにペアなんてないわよ!」
「おまえら…俺のパパは社長だぞ!言いつけてやるからなっ!」

髪の毛がくるくるパーマじゃないだけ幾分マシだし、未だ独身を貫いている司の子どもではないが、この俺様男を引き寄せる遺伝子は脈々と受け継がれているらしく、花沢理子、歌子姉妹は英徳学園幼稚部で大層オモテになっていた。
しかもーーー。

「言いつけてみなさいよ!あんたが社長なわけじゃないし、そんな子どもの言うことはいはい聞くお父さんの会社なんてロクなもんじゃないわ!」
「こら…リコちゃん、それは言い過ぎだと思うよ?」

短髪少年の横から現れた、薄茶色の髪で無駄に落ち着いた声の少年がリコを宥めると、リコもカコもサッと顔色を変えた。

「「ヨウ君…」」

え、なんで…チビ達顔赤いの…?
いつもの勝気な態度はどこに行ったのかと思うほど、あっという間に女の子になってしまう。
肩まで伸びた髪を耳にかけたり、前髪を直したり…君たち幼稚園児だよね。

「タケル君も女の子には優しくしないとダメだよ…?」
「お、おう…」
「ほら、みんなで遊ぼう、ね?盆踊りもみんなで一緒に踊ればいいでしょ?」

タケルと呼ばれた短髪の少年も何故かヨウには逆らわずコクコクと頷いている。
そしてヨウはチビ達の手をキュッと握ると、つくしの言うところの王子様スマイルを向けた。

「「うんっ!」」

今にもブチ切れそうな類の機嫌を直したのは、やはりこの人。
他の親たちの手前、類に耳打ちで話し掛ける。

「ねぇ、やっぱりあたしの娘だよね…好きなタイプはまるで一緒」

クスクスと笑うつくしを見ていると、まぁいいかと思え………るわけないだろ!

「まぁ、類はあんなに社交的じゃない分、ヨウ君の方が大人かな…」


***


皆さまからの拍手、コメントとても励みになります!
ありがとうございます!


にほんブログ村 小説ブログ 二次小説へ
にほんブログ村


ブログランキングに参加しています!ポチッとお願いします(^-^)


テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

彼と彼女の事情 6

彼と彼女の事情 6
around設定なので、タイトル変えてカテゴリをaround番外編としました。
kyoro様からのリクエスト



「ただいま帰りました」
「真さま、おかえりなさいませ」

花沢邸に長年仕える佐原が真を玄関で出迎えるが、もう中学生になろうというのに毎日玄関までおかえりと出迎えてくれる母親の姿がない。

「お母さんは?」

30度を優に超えた外の暑さとは裏腹に空調の効いた邸に汗が一気に引いていく。

「お父様がお帰りになってまして…」

佐原のその言葉だけで、真は理解する。
年甲斐もなく30過ぎてもラブラブな両親は、真と心が物心ついた頃にはすでに今の状態だった。
部屋に入りたくはない…が、ただいまと挨拶をしなければ後がうるさい。
どうしようかと悩みながらも、取り敢えず両親の部屋に向かった。

コンコンーーー

真は強く扉をノックした。
それには思春期故の訳があるのだが、あの人たちはそんな真の心中など察してくれるわけがない。

「類…ダメだよ。もうすぐ双子が帰ってくるし…チビたちも預けてるし…」
「大丈夫…もう中学生になるんだよ?最近2人きりの時間なかったでしょ?チビたちは佐原が見てくれてるから、ね?」
「でも…っ、ん」
「ダーメ、ほら口開けて…」

ああ、やっぱり…ね。
仕方ない、邪魔をすればお父さんに睨まれそうだし、夕飯の支度で忙しい時間帯なのだから、佐原の元へチビたちを迎えに行こう。

「全く…外は暑いし…邸も暑いし…」

真はそうボヤきながらも、類に似た瞳を細めて楽しそうに笑った。


***


皆さまからの拍手、コメントとても励みになります!
ありがとうございます!


にほんブログ村 小説ブログ 二次小説へ
にほんブログ村


ブログランキングに参加しています!ポチッとお願いします(^-^)


テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

彼と彼女の事情 5

彼と彼女の事情 5

トーリ視点です。



なんつーか、まぁ…最初のイメージは、真面目そう。
他人と距離を縮めるのが苦手だと自覚がある自分にしては、牧野つくしとの距離はちょうど良かった。
自分の外見に惑わされずあれやこれやと質問してこないし、二人きりになったとしても無理に話し掛けて来ない。
でも、初めての潜入の時、緊張した面持ちで寒い日であるかのように手を擦り合わせているのを見て、何となく自分から声を掛けてしまった。

「緊張してんの?」

そう話し掛けてみれば、ピタリと手を止めて目を見開く、その顔が何だか可笑しくて思わず笑いそうになる。
そして、仕事を一緒にしていくうちに惹かれていくのは必然だったのかもしれない。
しかし、恋心はあっという間に旦那の登場によって砕け散り、自分の立場も妻に手を出しかけた不届き者となった。
類がやたらと見せ付けるように彼女を抱きしめるのは牽制なのだと分かっていても、少しだけモヤモヤと広がる嫉妬心と花沢類という人間に対しての興味は止められなかった。
彼女はどちらかというと普通、綺麗だし可愛いが街を歩いていても10人中8人が可愛いという程度、しかしあの男はどれだけ離れていてもそうとわかるオーラを持っている。
脚光を浴び続ける芸能人のように、キラキラと輝く場所にいる存在だ。
そんな男が一社員の自分に嫉妬し、人目も憚らず妻への愛を見せ付けるのだから、本人に言えるわけもないが面白くて仕方がない。

しかし、彼女のいない場所での花沢類という人間は、仕事にも自分にも厳しく笑顔一つも見せないような男であった。
だから正直、秘書室での業務は彼女が側にいる時以外は、必要最低限しか顔を合わせないようにしていたのだ。

そして、彼女が総務部へ潜入になると同時に、花沢物産への転職扱いとなり完全に自分と彼女の縁は切れてしまった。
仕方がない…それが使われる者の使命だから。



仕事が終わり監察室のある地下から階段を使い外に出ると、外はもう真っ暗だった。
3月にしては冬の名残が強く残る寒い日だ。
トーリはブルッと震え、手に持って出たマフラーをグルグルと首に巻き付けた。
今は、夕子のバックアップをしているが、地下は窓がないため天気すらよく分からず、外に出て雨が降っているなど驚くことも多い。
首を竦めながら歩いていると、10メートル先を歩くつくしの姿があった。
もういつ産まれてもおかしくないのではと思うほど、重そうなお腹でゆっくりと足を進めている。

車じゃないのかよ……大丈夫か?

転んだりしたらどうしようかと先を歩くつくしにハラハラしていると、徐々にゆっくりと歩くつくしとの距離が詰まる。
その瞬間つくしの身体がグラリと揺れた。
トーリは反射的に走り、倒れそうになるつくしを支えた。

「何やってんだよっ!転んだりしたら…」
「はぁ…あ、松坂くん…久しぶり…ありがとう」
「もう正体バレてるんだから、車でくればいいだろ?ってか、早く産休取れば?」

トーリの言い方が些か冷たいものになってしまったのはつくしを心配してのことなのだが、自分で言った言葉でつくしが傷付きはしないかとハッとつくしの表情を見る。
しかし、気付いてもいないようでつくしはお腹を撫でながら深く息を吐いた。

「うん、 明後日から産休に入るんだけどさ…思ったよりお腹が大きくなっちゃってね。でも病気じゃないんだから少しは歩かないとと思って…車は少し先に停めてもらってるんだ」
「車まで専務に付いてきてもらえないのかよ…あの人ならそれぐらいのことするだろ?」
「類もそう言ってたんだけど…そんなに暇じゃないでしょ?それに入院ももうすぐだから…っ、いた…はぁ」
「おいっ…どうしたっ?」

辛そうに顔を歪めるつくしを前にすると、妊娠の知識も全くないトーリにとっては出産が恐ろしいもののように感じて、どうじていいかも分からずにつくしの肩を掴んだ。

「はぁっ…ちょっとお腹が張っちゃって…病院行った方がいいかも…っ」
「車まで歩けるか?」
「うん…松坂くん、後で類に連絡しておいてくれる…?もしかして入院になるかもしれないから…っ」

つくしは重い身体を引き摺るように一歩ずつ足を進めていく。
壁に手をついて歩くつくしの肩と腰を支え、転ばないようにトーリもゆっくりと隣を歩く。
お腹を押さえて荒く息を吐く様子に、男には決して経験出来ない妊娠の大変さを思い知った。

「病院まで付いてくから、専務には車の中で連絡すればいいだろ?」

たった10メートルの距離をやっとの事で歩くと、息も絶え絶えのつくしの状況を運転手に説明し病院へと向かう。
会社からも近い大きな総合病院は、運転手からの連絡を受けて看護師たちがロビーで待っていた。

「花沢さん、大丈夫ですからね〜赤ちゃんの様子みましょうね」
「ご主人には連絡しましたか?」

看護師が言うとつくしがフルフルと首を振った。
車椅子を出して待機していた看護師がつくしを乗せて処置室に連れて行く。

「あ、俺が電話しますので!」

結局は車の中でも苦しそうな様子のつくしを放置することも出来ず、類に連絡することが出来なかった。
トーリが手を挙げ看護師に言うと、看護師は初めてトーリに気が付いたかのように視線を向けた。

「ご家族の方ですか?」
「いえ、同僚です。彼女のご主人の連絡先は知っているので」
「じゃあ、お願いします。もしかしたらこのまま出産になるかもしれませんので」

看護師が早口でまくし立てると、処置室のドアが大きな音を立てて締められた。



「…ということで、このまま出産になるかも、と」

トーリが電話可能な場所まで移動し、類へと電話を掛ける。
電話の向こうでゴトッとお決まりの受話器を落とした音が聞こえる。

「専務?大丈夫ですか?」
『えっ…あ、うん。でも…入院は再来週の予定だから…相当早いよね』

そんなこと知らねえし、慌て過ぎだし…。

電話越しに聞こえる音は、他にもバサッと書類が落下した音や、ガタガタと引き出しを開け閉めする音…それらが類の動揺を如実に伝えていた。

「あの…こっちに来られますか?」
『ああ、今すぐ行くから…松坂悪いけどそれまでつくしに付いててもらえる?』
「はい…それはもちろん」

電話を切ると、トーリは類の言った言葉を反芻する。
入院は再来週だから、相当早い?
早いとどうなるんだよ、あいつ大丈夫なのか…。
トーリは携帯を握り締め処置室のドアの前に移動すると、何も出来ることもなくただ廊下の椅子に座り中から人が出てくるのを待った。
トーリも類と同じようなものだったかもしれない、こういう時男はどうすることも出来ずただ慌てるばかりだ。

電話を切ってから10分も経たずに、類が病院の廊下を早歩きでやってくる。
処置室の前に座るトーリの姿を見つけると、珍しくも慌てふためいた様子で駆け寄って来た。

「つくしはっ?」
「まだ処置室から出て来ません」

車で来たはずなのにつくしと同じような荒い息遣いで、額に汗を浮かべてネクタイを緩める様子は、仕事中には見たことのない珍しい姿だった。

「車で来たんじゃないんですか…?」
「いや…途中で…事故があったみたいで渋滞してて…はぁっ…走って来た…ヤバ」

類は荒い息を整えようとトーリに隣に腰を下ろす。
トーリが嫉妬してしまいそうになるほど長い足を廊下に投げ出して額を押さえると、ちょうど処置室のドアが開き看護師が中から出て来るところだった。
類は看護師に状態を聞こうと椅子から立ち上がると、看護師が類に気付きもう一度処置室のドアを開け叫んだ。

「先生!花沢さんのご主人いらっしゃいました!」

いつもなら大抵類を見た女性は頬を染め一瞬固まる、そんな様子が当たり前のようにトーリの中にあったのだが、さすがに病院のスタッフはプロ意識が高いということだろうか。
淡々と仕事をしているように見え、花沢物産の秘書に見習わせたいという関係のないことまで頭に浮かんだ。

「あ、松坂…助かったよ。ありがとう」
「いえ、無事に産まれるといいですね」

類が入ると、パタンと処置室のドアが閉められる。
肩の力がやっと抜けたように、トーリはもう一度椅子に座り込んだ。



類が処置室に入った後のことはトーリには分からないが、その次の日無事に産まれたとつくしから連絡があった。
双子の女の子で体重が少ないため暫くは入院になるが、そう珍しいことではないから心配しないでとメールにはあった。
子育てのことはトーリには全く分からない、でもつくしと双子が退院した後の夫婦の様子が簡単に想像出来てついクスリと笑ってしまった。

「ええっ!?トーリ今笑った!?」

それを目ざとく見つけた夕子が、ヤバ、珍しいもん見た〜と監察室の一室で大笑いをしているが、トーリはフンと鼻を鳴らし仕事に戻る。

甲斐甲斐しくつくしの世話を焼き、産まれたばかりの双子をベタ可愛がりし、落ち着いた頃にはいつものようにバカップルよろしくイチャイチャし始めるんだろう。

初めはさして興味もない仕事だったが、今は毎日が少しだけ楽しい。
本当にほんの少しだけだが。

これからも、夫妻のそばで今後の花沢物産を見守っていくのもまた楽しいかもしれない。
トーリはパソコンの画面を見ながら、もう一度笑みを浮かべた。


fin


皆さまからの拍手、コメントとても励みになります!
ありがとうございます!


にほんブログ村 小説ブログ 二次小説へ
にほんブログ村


ブログランキングに参加しています!ポチッとお願いします(^-^)


テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

プロフィール

オダワラアキ

Author:オダワラアキ
オダワラアキの二次小説・二次創作置き場へようこそ。
ひるなかの流星・花より男子・日々蝶々・君に届け・会長はメイド様の二次小説・創作置き場です。黒バス黄黒、青黒BLも書いております。
現在はオリジナルばっかりになってしまったなぁ。

こちらを読むにあたって下記注意点をお読みになってからお進みください。

このサイトは原作のある漫画の二次創作、小説です。

同人誌や、二次小説(2次創作・夢小説)に抵抗のある方はウィンドウを閉じてください。
原作者様、出版社とは全く関係ありません。

小説の無断転記、複製、配布を禁じます。

最新記事
カテゴリ
フリーエリア
リンクフリーです
オダワラアキの二次小説置き場



検索フォーム
リンク
最新コメント
花男お友達ブログ

駄文置き場のブログ 星香様


clover crown aoi様


明日咲く花 asuhana様


上を向いて歩こう 青空心愛様


gypsophila room   Gipskräuter様


天使の羽根 蜜柑一房様


おとなのおとぎばなし miumiu様


類だ〜いすき りおりお様


Beautiful days やこ様


君を愛するために こ茶子様
月別アーカイブ
Twitter