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熱量 番外編


熱量 番外編

beautiful daysやこ様に捧げたお話です。



触れ合った唇が驚くほど熱をもって、つくしの首筋を辿る。
類の座る椅子に乗り上げ抱きかかえられたままの状態で、社長室の鍵も閉めずに行われる愛撫にダメだと分かっていながらも抵抗することは出来ない。
ショートパンツから覗く細い足を、下から上へと撫でるように類の手が動けば、無意識に類へ身体を預け腰が揺れる。革張りの大きな椅子がつくしが身動ぐたびにギシっと音を立て、益々互いの気持ちが高まっていった。
「あっ…はぁっ、ん…類…」
「ねえ」
「……?」
類はTシャツを捲り上げ、つくしのブラジャーのホックをパチンと外す。類の唇がつくしの白い首筋を辿りながら、シャツに隠れた赤い実を口に含んだ。
類からの愛撫ですでに隆起していた突起は、類の口の中で益々固くしこる。
「いやぁ…っ…ぁ、それ…ダメ…」
「ココも…総二郎に触らせたの?」
「そ、んなこと…してなっ…」
確かに総二郎とキスはした。しかしそれ以上のことは何もなかった。それに、類は分かっていない…つくしがどんな気持ちで総二郎のキスを受け止めたのか。きっと総二郎からしてもただの慰めだったのだろうと思う。
「どうだろ…本当か、確かめないとね…」
類は片方の乳首を口の中で舐め転がすと、もう片方を指でつまんだ。
「あぁぁっ!」
「総二郎と何もしてないにしては…感度良過ぎない?さっきから腰揺れてるし…ね、触って欲しい?」
「わかんな…っ、類だけ…だから…っ、あぁっ」
キュッと敏感に立ち上がる突起を強くつままれ、つくしは身体を震わせた。類はつくしのショートパンツのジッパーに手をかけると、つくしの腰を浮かせて足から抜き取った。
「その格好って結構そそるよね」
捲り上がっていたつくしのTシャツを一度下ろすと、ギリギリショーツが見えるか見えないかの位置に裾がくる。そこから覗く足が類の官能をさらに呼び、類はつくしの後ろ側から手を回し、開いた足の間を撫で上げた。
「あっ、ん…」
「足触ってるだけだよ…?気持ちいいの?」
「類…っ違う人、みたい…っ…意地悪ばっか…」
荒い息を吐きながらつくしが涙ながらに訴えると、類は足を撫でる手を止めずにつくしの唇に軽いキスを落とす。
「ただの嫉妬…誰にも触らせたくないんだ。笑ってる顔も泣いてる顔も感じてる顔も…俺だけのものにしたい…だから言ったでしょ?俺の熱量の方が多いんだって」
「あたしだって…同じだよ。西門さんと…キスしても、類のこと思い出しちゃう…恋に溺れるってこういうことなのかな。類のことしか考えられないの」
「俺…そろそろ限界…でも、牧野はここじゃ嫌でしょ?俺のマンション来る?」
類の下半身の熱も触れ合っていることでずっと伝わってきていたが、昂った性器をグッと押し付けられると、つくし自身もまた我慢がきかないところまで来ていると知らされる。
つくしが頷こうとした瞬間、キュルキュルと場違いな音が室内に鳴り響き、それは湧き水のように溢れ出ていた2人の激しい情欲を一瞬にして変えた。
「ぶっ…そういえば、お昼食べてなかったね…ご飯食べに行こっか」
「……お願いします」
フルフルと震えながら笑いを堪えている類に、つくしは物言いたげな視線を送った。
「あっ!そうだ!ねえ、ご飯ならあたしが作るからうちに来て?久しぶりに類にご飯食べて欲しいから、ね?」
つくしの言葉に類は一瞬驚いた顔をするもののしばらく顎に手を当て考える素振りをした後、ニヤッと悪戯っぽい少年のように口の端をあげて笑った。
「そうだね。じゃ、牧野の家に行こうか」
理由も分からずに、早まったかと思わずつくしが言い知れぬ不安に警戒してしまうほど、類の機嫌は良かった。



「えっ、えっ…ちょっ、待って!ここ?ここでするの?」
つくしの狼狽が類に伝わっているかは分からないが、なんとも嬉しそうな顔で類がつくしのTシャツに手をかける。つくしは類から逃げるように布団の上へジリジリと後退りしていた。
「だって、家に来てって誘ったのは牧野でしょ?言ったよね、俺…限界だって。ほら、夕方になれば窓開けるだけでだいぶ涼しいし…汗かいたらシャワーすればいいんだしね」
あっという間に履いていたショートパンツも脱がされる。扇風機の風が心地よく肌に伝わり爽快感があるが、いくら2階とはいえ目の前には戸建て住宅も建ち並ぶエリアだ。窓までは30センチほどの高さがあるとは言っても見えないとは限らない。
「で、でも、ここじゃ…声とか…窓開けたままじゃ見えるかもしれないし…」
「俺が牧野の裸を他の奴に見せると思う?」
「お、思わないけど…でも…っ」
類はつくしの呟きをことごとくスルーし、自らもポロシャツを脱ぎ捨てつくしに覆いかぶさった。つくしもなかなか自分では決断出来ずにいたが、類と触れ合いたいと思う気持ちは同じだ。しかも、ちょうど食欲も満たされたばかりということもあり、再び身体を覆う熱は先ほどよりもはるかに熱い。
「もう、黙って…」
「んん…っ、ぁ…ふっ」
類に唇を塞がれ今度はブラジャーとショーツをあっという間に取り払われる。寒いわけでもないのに、つくしはブルリと身震いし、覆い被さる類の背中に腕を回した。
つくしと同じぐらい熱をもった類の舌が口の中を動き回り、つくしの舌を絡め取る。クチュクチュと唾液が混ざり合う音だけで、つくしの身体の奥がジンジンと疼き、ジワリと足の間から湿った愛液が吐き出されるのを感じた。
触れられてもいないのに立ち上がった乳首を人差し指でこねるように動かされ、塞がれた唇の奥でつくしは喘いだ。
「んんんっ…はぁっ、ん…」
類の足に秘部を擦り付けることで、つくしは自慰にも似た感覚に陥りただ自らの快感だけを追っていた。
「そんなに我慢出来ない?牧野の蜜で服が濡れちゃうよ…」
クスッと笑いながら類が言う。つくしが顔を赤く染めている間に、類は自身のズボンを脱ぎ捨てた。引き締まった腰回りの中心、ボクサーパンツにつくしが視線を向けると類のはち切れんばかりに昂った性器が生地を押し上げている。つくしは自分だけが欲しがっているわけじゃないのだということに気付くと、嬉しさや愛おしさに包まれた。
「類も…?あたしのこと欲しい?」
「うん…ずっと、こうしたかったよ」
胸の膨らみを辿っていた手が、ゆるゆると下に降りつくしの内股を撫でる。何度も足を擦り付けていたことで、すでに湿り気を帯びていて、つくしは無意識に類を受け入れようと足を開いた。
「あっ…ん…ん…もっ、変になりそ…」
「窓空いてるからね…声抑えないと聞こえちゃうよ」
「だって…はぁっ、あっ…」
誘うように開かれた足の間に類は指を滑り込ませると、トロリと濡れた秘部の周りを焦らすように触れる。流れ出た愛液を秘部に擦り付けながら、プツンと立ち上がる赤い実を同じように擦ると、つくしの身体が大きくしなった。
「────っ!!」
つくしが身体を震わせた瞬間、類の手がつくしの口元を覆った。ギュッと類の肩にしがみ付き、どうにか迫り来る快感を逃すが、全身が痙攣したように震え息を整えるまでに時間がかかる。
「はぁっ…はぁっ…な、んか…身体が、変…っ」
「変じゃないよ…気持ち良くなったってこと。これからもっと気持ちいいことしてあげるから、ね?身体の力抜いてて…」
類はつくしが息を整え放心している隙に、濡れた秘部に指を突き立てた。
「あぁぁっ…」
「牧野の可愛い声…聞かせたくないよ。我慢出来る?」
「だ、って…声、出ちゃう…無理だよ…ぁん」
その間も類は休むことなくつくしの秘部を指で擦り続け、軽く湿った音はいつしかグチュグチュという卑猥な音に変わっていった。類が指を引き抜くたびに足の間を流れ落ちる愛液が、敷布団のシーツを濡らしていく。
「類…はぁっ…ダメ…また…きちゃう…っん」
「ほんと、感じやすいね…いいよ、イキな」
ザラザラとした感触の秘部に、もう一本指を増やし突き立てる。つくしの感じるポイントを探しながら、類が指を動かしていくとつくしの身体がビクビクと震え、中が蠢くのを感じた。ココか、と最奥を何度も突くとあっという間に秘部がギュッと締まり、つくしは絶頂に達した。
「────っ!!」
つくしがビクビクと身体を震わせている間に、つくしの口元を押さえながら類は蠢く秘部に熱り勃った性器を突き立てた。
「んんんんん──っ!!」
十分に潤った秘部はグチュっと類の性器を飲み込むが、初めての経験につくしは身体を強張らせる。感覚が下半身に集中し、ギュッと秘部を締め付けると類が苦しそうに眉を寄せた。
「牧野…っ、ちょっと…力抜いて…」
「あっ、はっ…ど…っすれば…いいのか…分かんな…よ」
「大丈夫…ただ感じてくれればいいから」
類は結合部に指を寄せると、ぷくっと膨らんだ実をつまむ。流れ出た愛液をすくい取ると立ち上がった実を指で軽く摩るように撫でた。
「ひゃぁっ…ん、あっ…今、ダメ…っ」
「気持ちいい?ほら…凄い、また濡れてきた…」
類はつくしの身体から徐々に力が抜けていくのを感じ取り、ゆっくりと性器を引き抜き浅いところを何度か抽送していく。腰を揺らすスピードを上げれば結合部からはクチュクチュと卑猥な音が漏れ聞こえ、つくしの秘部が類を受け入れるべく開いていく。
「はぁ、ん、あっ、あっ…な、んか…凄い…気持ちいっ」
「ん…っ、俺も…もっと、奥していい?牧野、ここ掴まってお尻上げて」
「え…やっ…恥ずかしいよ…」
「牧野も俺も…もっと気持ち良くなるから、ね?」
普段の自分では考えられないが、この時はきっと熱に浮かされていたのだろう。つくしは言われるがまま、窓の空いたベランダの柵に掴まると、下半身を類へ向けて腰を上げた。柵までは高さが30センチほどあり、下からではせいぜい腕が見える程度だ。しかし、ここで声を出し喘いでいれば何をしているかなど一目瞭然で、向かいの住宅に住む人間が2階の窓を開ければ、つくしの裸も後ろに立つ類の姿も丸見えだ。
「やっぱり…こんなの…無理だよ…っ」
「声出さなきゃ、バレないよ…部屋の中暗くて見えないしね…挿れるよ」
屹立した性器を押し当て、類はゆっくりとつくしの中に入っていく。ヌチュっと愛液が奏でる音にすらつくしは敏感に反応しビクンと身体を揺らすと、自ら口を押さえながら荒く息を吐き出していた。


「んっ、んっ…はぁっ…んぁ」
「…っ、く…」
類が腰を打ち付けるたびにつくしが掴む鉄の柵がギシっと音を立てる。声を必死に我慢している分、秘部から流れ落ち太ももを伝う愛液はつくしの快感を表すかのように大量だった。類が秘部を抉るように腰を打つたびにグチュっと結合部からどちらのものかも分からぬ体液が溢れる。微かに漏れる類の喘ぎ声と、軋む鉄の音が淫猥でいつしかつくしは類の動きに合わせて腰を振っていた。
「はぁっ、はぁっ…ん…いいっ…それ…」
「中…痙攣してる…っ、もうイキそう?」
「ん…も…ダメ…かもっ」
「俺も…イキそ…っ」
類はつくしの最奥を穿ち、ブルっと身を震わせた。つくしもガクガクと膝が震え身体は小さく痙攣を繰り返す。そんなつもりはなかったと言えばただの言い訳だが、あまりの快感につくしの中へ全てを放っていた。
類が全てを吐き出した性器をずるりと引き抜くと、つくしの秘部がキュッと締まり、類の放った体液がトロトロと溢れ出していた。つくしの卑猥な姿に類はゴクッと唾を飲み込み、再び勃ち上がりそうな自身を必死に収めた。
「やば…ハマりそう」


アパートの狭い布団に横になり、裸のまま互いに昂った熱を冷ましていると、類の手がつくしの唇をなぞるように動いた。うつらうつらとしていたつくしが、薄っすらと目を開けて類を見ると、チュッと音を立てて軽く唇が重なった。
「ど、うしたの…?」
「お腹空いた」
元々食に興味が薄く、とりあえず生きていけるだけの栄養さえ摂取出来ればそれでいいという男が、空腹を訴えるなど滅多にないことで、つくしは眠い目を擦りながらも身体を起こした。
「珍しいね…でも、確かにあたしもお腹空いたかも…もう夕飯時だしね。何か作ろっか」
「俺、ずっと空腹だったみたい…」
つくしはお腹に回る類の手を退かそうと試みるが、あっという間に布団に戻されてしまう。まさかね、と怪訝な顔つきで類を見るが、そのまさかであったらしく、類はその綺麗な顔に微笑みを湛える。
「嘘…」
タオルケットに隠されたつくしの下半身に当たるのは、屹立し興奮状態にある男性の性器であることに間違いない。
「食べさせて…ね?」
「なんか…性格変わってない?」
否とは言えない、そんなに熱い目で見つめられたら────
つくしは再び、類の発する熱の中に翻弄されていった。


FIN


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熱量 13最終話

熱量 13最終話
最後にお知らせがあります〜♬




「今日来てもらったのは、御社との契約解除についてですが、電話で伝えたとおり今月末ということでお願いします」

類が立ったまま、時間をかける気は無いとでも言うように淡々と話し始めると、龍臣は顔を真っ青にし唾が飛びそうな勢いで口を開いた。

「電話でも言ったでしょう!花沢と契約を切られたらうちはっ…」
「倒産まではいかないでしょう?うちに代わる大口の契約でも取ったらどうですか?元々半年毎の契約更新だ、うちはきちんと契約解除について契約書に沿って進めているだけです」
「どうしてですかっ!?納品している商品に何も問題はないはずです!まさか……つくしのこと、ですか?そんなことで…?」

龍臣の言葉に、類が眉を寄せる。
口を挟むなと言われたとおり、つくしは口をつぐみ黙っていることに徹していたが、類の一方的な行いは龍臣の会社を窮地に陥れるもので、ハラハラしながら動向を見守っていた。

「そんなことで?あなたもそんなことで、彼女を退職に追いやり、美作を訴えようとまでしていたでしょう?私も同じことをしているだけですよ…」

ハッと目を見開き龍臣が何も言えず押し黙ったところで、堪えきれずにつくしは声をかけた。
つくしは類にそんなことをしてくれと頼んだ覚えはないし、いくら黙っていてと頼まれたところで聞ける話ではない。

「類…もうやめて…。そんなことしたら長谷川で働く人たちに迷惑がかかる。あたしのこと以外できちんとした理由があるのなら口を出すのもおかしいし、仕方がないかもしれないけど…会社を私物化するようなことしちゃダメだよ」

つくしが椅子から立ち上がり話し始めると類は目を細め笑みを浮かべた。
龍臣にそんな類の表情を見る余裕はなかったと思う。
それは元々こうなることを予測していたのではないかと思うものだったのだ。

「だ、そうですよ…長谷川さん」

類とは反対に、龍臣は口を真一文字に結び、ただ黙り項垂れている。
会社を私物化し、つくしを退職させ訴訟を起こそうとしていた龍臣には耳の痛い話なのだから当然だろう。

「彼女は私にとって大事な女性です。彼女を傷付けた罪は大きい、本当ならあなたのところを潰すぐらいじゃ足りないんですけどね…嫌われたくないんですよ、彼女には」

何を言うのかと驚いて目を見開いていたつくしに、類はチュッと音を立て軽く口付ける。
唇はすぐ離されたものの、よく出来ましたという類からのご褒美のようだ。しかもこんな時なのに、ほんの少し嬉しい気持ちもあり、それを悟られないようにとつくしは顔を真っ赤にして俯いた。
そんな2人のやり取りも全く視界に入っていないのか、龍臣はバッと顔を上げ縋るように類を見上げた。

「じゃ、じゃあ…契約は…」
「期間満了までは今まで通り…ただ、もし彼女に今後手だしするようなことがあれば、その時は容赦しません」
「分かりました…弊社も取引を続けていただけるように精進してまいります」

龍臣が一礼し立ち上がる。安心したことで一気に疲れが出たのか肩を落としたまま、つくしに一瞬だけ視線を向け社長室を出て行った。

「類…わざとでしょ?」

龍臣が来ることも知らされておらず、自分だけが蚊帳の外にいたような気さえして、つくしは恥ずかしさを隠すためでもあるが、拗ねたように類を見つめる。
類はドアが閉まったことを確認すると、龍臣が来る前と同じように、つくしを膝を跨がせるように座らせ、腰に腕を回した。
再び触れられることに心臓が早鐘を打つ。それよりも話をしなければとつくしは抵抗もせずに類の言葉に耳を傾けた。

「別にうちは長谷川電工と取引出来なくっても困らないからね、つくしのことは抜きにしても本当に次の契約は分からないよ。今回のことはやられた分やり返そうとしただけだけど、あんたそういうの嫌うじゃん」
「当たり前でしょ…さっき振られたぐらいで訴訟起こしてたらどうのって言ってたの誰…?あたしが止めなかったら、本当に取引やめてたの…?」
「さあ、でも向こうが会社を巻き込んで来たからね…あきらは友達だし?牧野のおかげで向こうも命拾いしたんじゃない?」

そう飄々と言ってのける男は、デスクに置いてある一枚の書類をつくしに差し出した。
つくしがなんだろうと視線を走らせると、信じられないことに書類には雇用契約書と書かれていて、すでにつくしの名前も記載されていた。

「…牧野には来週からうちで働いてもらうことになったから」
「はぁっ!?」
「本当はさ、俺の奥さんになって俺だけのためにいて欲しいけど…断るの目に見えてるし。あきらから話聞いて大急ぎで社長に許可取ったんだから、仕事で俺のサポートしてよ…ね?プロポーズはそのうちまた、ちゃんとするから楽しみにしてて」

つくしの働く場所を勝手に決め、まだ付き合ってもいないのにプロポーズをする男は、あんなに友人としての立場を崩さなかったのが嘘のように、つくしへの愛の言葉を吐き続ける。

「そういえば…話途中だったね…どうして総二郎だと焦るのか、だっけ?」

この1時間足らずの間に色々なことがあり過ぎて、車の中でした会話を聞いたつくしですら忘れていた。
そう、類が言ったのだ…あきらの邸でつくしの隣に総二郎がいて焦ったと。

「え…あぁ…うん」
「多分あんたってさ…俺たちのこと好きだよね。それもかなり信用してる…だから怖いんだよ」
「…?よく分からないけど…確かに信用してる」
「例えば、総二郎がホテル取ったからって誘ったら、誘い方によるだろうけど、あんたついて行くんじゃない?」
「……」

つくしは言われたことに覚えがあり過ぎて、類からサッと目をそらした。
そんなつくしの行動がすでに類の言ったことを肯定しているとは気付かずに。
言葉に詰まるつくしに、類はふうんと目を細めて話を続けた。
つくしが恐る恐る類の表情を盗み見れば、明らかに不機嫌そうに眉を寄せていた。

「行ったんだ…予想はしてたけど。じゃあキスくらいはされてる?」
「…ずるい…質問攻めにしないでよ」
「ずるいのはどっちだよ…長谷川にはちゃんと一枚壁を作って接してたのに…総二郎の前ではそうやって簡単に壁を壊すだろ。だから焦るんだ…」

類はつくしの腰に回した手をギュッと自分に引き寄せる。

「総二郎と…キスしたの…?」

キスされるかと思うほどに顔が近付いて、つくしがうっとりと目を瞑ると、類は怒ったように首筋に噛み付いた。
チクリとした痛みに顔を顰め、つくしは目を開けた。

「…っ」
「ほんとムカつく…そういう顔、総二郎にも見せたんだ?」
「類だって…綺麗な人といっぱいキスしてるでしょ?」
「俺が好きなのはあんただけだよ…」
「だったら、ちゃんと…して?」

類の首に手を回し、つくしは自分から唇を重ねた。
ずっと、本当はこうしたかったという想いを伝え合い、互いに抑えがきかないほど深く唇を貪る。
自ら絡ませた舌が類の舌に絡め取られると、息苦しさに角度を変えた。

「ん…っ、はぁっ…」

唾液が混ざり合う湿った音がピチャピチャと響く。
つくしは類の唇から離れ難く、呼吸が荒くなるたびに類の上唇を甘噛みし、啄ばむような口付けを繰り返した。

「俺のこと、好き…?」

熱を持った瞳をつくしに向けながら、つくしの肌に手を這わし否とは言わせない口調で類が聞いた。

「あたしが好きなのも…類だけだよ。ね…凄い、類の心臓の音が聞こえる…」
「うん…凄いうるさい心臓の音。あんたと俺で…同じぐらいの熱量で好きになれればいいのに。悔しいけど…俺の方が絶対あんたのこと好きなんだから」
「一緒だよ。ほら、類と触れ合うだけで…こんなにドキドキしてる」

つくしは類の手を取り胸の中心にあてた。
触れ合った場所から伝わる心臓の音は、どちらのものか分からなくなるほど早い鼓動を奏でていた。


fin

ここまでお読みいただきありがとうございます♬
Rがないなんてアキさんじゃないっ!とお思いのそこの方へ朗報(笑)
実はこの続きのRをBeautiful daysやこ様のところへ献上させていただきました♬
どうして?と思われるかもしれませんが…まぁラインでその手のお話で盛り上がった勢い、とでも言っておきましょう。
書くつもりはなかったこの後のR…長いですよ…ノリノリ過ぎて三部作ですよ(笑)
コメントで、アキさん○○でHはどうですか!?とくださった方!願望叶いました(笑)
今日9日公開です!興味ありましたら、こちらからどうぞ↓

前編 9時 http://yakoyakoyako1213.blog.fc2.com/blog-entry-653.html
中編 15時 http://yakoyakoyako1213.blog.fc2.com/blog-entry-654.html
後編 21時 http://yakoyakoyako1213.blog.fc2.com/blog-entry-655.html




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熱量 12

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「うん、俺たちあいつらにどれだけ心配されてるんだろうね…」

類はクッと声を立てて笑うと、つくしに事の成り行きを説明した。
珍しくも類があきらの邸に早く着いたのは、あきらからの呼び出しを受けてのことだったという。



「こんなに早くに呼び出して…話って何?」

類は不機嫌さを隠そうともせずに言った。
いつもなら惰眠を貪っているはずの朝、あきらからの電話で叩き起こされてここに来た。
どうせ後で会う予定だったのに、つくしのことで話があると呼び出された。
なのに、当の本人はゆったりと紅茶を飲んでいて、それが眠さからくるものなのかつくしに何かあったのかという焦燥感から来るものなのかは分からないが、類を苛立たせた。

「総二郎に頼まれたんだ。…あいつなりにお前らのこと心配してんだぜ?」
「心配?」
「牧野がどうして彼氏を作ろうって思ったのか…ちゃんと考えてみろよ」

そう言ってポイと渡された封筒の中を類が不審げに開くと、1人の男の調査報告書のようだった。
写真も添付されているが、どこかで見たような気もする顔だとその程度でしか思い出せなかった。
しかし報告書を読み込んでいくうちに、長谷川龍臣というこの男はつくしの恋人で、つくしに振られた腹いせに有りもしない結婚話を会社に漏らし、つくしを退職にまで追い込んだのだということを知った。

「総二郎は…これを類に渡しておいてくれって言ってた。あいつの気持ち知ってんだろ…?」
「そりゃあね…本当は総二郎が自分で動きたかったんじゃないの?」

類は手に持った書類からあきらに視線を移し、その真意を探るように見つめた。

「まあ、あいつらしいっちゃらしいが…牧野の王子様はいつだって1人なんだと。俺らは良くも悪くも似てるからな…多分総二郎が本気で落としにかかれば牧野をモノにすることだって出来たはずだ…けど」
「けど?」
「気持ちは分からないでもない。あいつも…お前の隣で笑ってる牧野が好きなんだよ」

類にもその気持ちは分かる。
本当は誰よりも自分の手でつくしを幸せにしたいと思っているのに、育って来た環境や今の現状がそうさせるのかどこか自信はなかった。
他の誰かがつくしを幸せにしてくれるのならば、つくしの幸せな顔をずっと見ていられるのならばそれでもいいかと思ったこともある。
しかし、総二郎と廊下で仲睦まじく話す姿を見ただけで、嫉妬にかられる自分がいて、あきらから聞く話は類には初めて知るものばかりなのも気にくわない。
自分が行動しなかった結果なのに、どうして自分に助けを求めないのだと心が冷えていくような孤独感に苛まれ、つくしに対して怒りにも似た感情が突き上げてきた。
滅多に感情が揺れることなどないのに、彼女のことを考えるといつもこうだ。
胸が締め付けられるような気分で総二郎を妬む、類にとっては信じられる数少ない親友なのに。


「類…?どうかしたの?」

話し始めてから数分で何かを考え込むように黙り込んだ類を心配し、つくしは振り返りながら声をかけた。
類は虚ろに宙を彷徨っていた視線をつくしに戻すと、またいつも通りの穏やかな笑みを浮かべた。

「あぁ、ごめん」
「長谷川君のことは…元はと言えばあたしが悪かったんだから…気にしてないよ」
「退職にまで追い込まれて何言ってんの…しかも、あいつがしたのはそれだけじゃないよ」
「どういうこと?」

つくしに振られた腹いせに、結婚の噂をばら撒き退職に追い込むだけじゃ足りなかったのか。
龍臣は優しい人だった。つくしに好きな人がいると知りながらも一度も会話の中でそれを匂わせたことはないし、いつまで経っても部屋にも入れないつくしをただ待ってくれていた。
そんな人を自分が変えてしまったのだろうか。

「美作が開発していたスマートフォン向けの基盤…その権利を今になって主張してきているらしい。牧野が長谷川から仕入れた情報を、美作に流しているんだとね。牧野が辞めてすぐ…婚約解消を美作電機に伝えた長谷川が、そう言ったそうだよ」
「え…」
「今、訴訟を起こす準備をしていると…そこまで話が大きくなってる」
「そ、んな…長谷川君が…?」

もちろん、つくしは龍臣から仕事に関わる何かを聞いたことなど一度もないし、そもそもデート中に仕事の愚痴などを漏らすのが嫌いな人だった。
だから話すのはもっぱら、大学時代の友人のことや誰それが結婚した、美味しいレストランを見つけた…などそんなことばかりだったと言うのに────。

「あきらが訴訟になる前に長谷川の父親と話をして訴えは取り下げさせた…この件は息子の独断で行ったことであって社長は知らなかったらしい。でも、あんたに振られた腹いせにしてはやり過ぎ」
「美作電機の人たちまで…巻き込んじゃった…」

自分があんな風に別れを切り出さなければ、こんなことにはならなかったのにと、つくしは自分を責めた。
類はしゅんと肩を落とすつくしの頭を軽く撫で、つくしの身体を反転させると向かい合うように座らせた。

「きゃぁっ…って、ちょっと類!びっくりするでしょ!」
「ごめん…顔見て話したかったから。あんたが気にすることじゃないでしょ…?女に振られたぐらいでいちいち訴訟起こしてたら、日本中で争いごとだらけになっちゃうよ」
「そりゃそうだけど…」

類に頭を引き寄せられたことで、つくしは類の首筋に顔を埋めながら話すことになる。
胸元辺りに置いた手を背中に回してもいいだろうかと、手を下ろしたり類のシャツを掴んでみたりしていれば、頭上で類がクスリと笑った。
つくしの手を取り背中に回すよう類に誘導され、恥ずかしさからつくしの頬は真っ赤に染まる。
真面目な話をしているのに自分は何を考えているんだろうと、居た堪れない思いだ。

「まぁ、美作電機の社長も寝耳に水の話だったし…このことで共同開発中のプロジェクトはたち消えになった。だから、あきらも結構怒ってるってわけ」

類は腕にはめた時計をチラリと見ると、そろそろ時間かと呟き俯いたままのつくしの額にキスをする。

「今から来客がある。少しの間…何も喋らずに我慢できる?絶対に悪いようにはしないから」
「来客?」

類はつくしを膝の上から下ろし、自分は立ち上がると元の椅子につくしを座らせた。
黒の革張りの大きな椅子に華奢なつくしが座れば、どうも不釣り合いな気がして居心地が悪い。
本当に関係のない自分がここにいてもいいのだろうかと、つくしは心配そうに隣に立つ類を見上げた。
ドアをノックする音が聞こえ、類が別段慌てた風でもなくただどうぞと声をかけると、先ほどの黒縁メガネをかけた男性が社長室のドアを開け、後ろの人物を招き入れる。
開かれたドアから顔を覗かせた男に、つくしは能面のような表情で凍りついた。

「長谷川君…どうして…」
「つ、くし…っ!?」
「俺が呼んだんだよ」

ドアの前で棒立ちになる龍臣に、類は手の動きだけでソファーを進めた。
龍臣は類の面貌見てあからさまにギョッとした顔をするが、つくしと類とを交互に見つめながらも素直にソファーに腰かけた。

「まさかあなたが…花沢物産の…。どこかで見たことがあるとは思っていたけど…そういうことなんですね」

類はまだ表には出ていない、あくまでも社長である父親のサポートで仕事をこなしているだけである。
それでも、経営者会議や経営者の集うイベントなどでは父について行くことも多いため、その容貌も相まって業界内では顔が知られていた。


***


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熱量 11

熱量 11
類のお株を取り戻すために必死です(笑)




互いに言葉に詰まる。
つくしは視線を外すことなく、類の驚きに見開かれた瞳を見つめていた。

「どうして望みがないって思ったの?俺、好きだって言ったよね?」
「だって、それは…ずっと前だし…友達としての好きでしょ」
「あんた、友達に好きだって言う?総二郎やあきらや司に好きだって言ったことある?」

口調も荒く責められるように言われつくしは口をつぐむ。
類様と控えめに声がかかると、つくしはそこで初めて運転手の存在を思い出した。
年配の男性運転手は、どうやら不穏な空気を感じ取り声をかけたらしいが、類は一言大丈夫だからと言うと、運転席との間にある仕切りを閉めてしまう。
類がつくしの頬に手を伸ばすと、つくしはピクッと肩を震わせ目を閉じた。
先ほど総二郎が撫でていた場所を辿るように、類の手がつくしの頬を撫でる。

「ごめん…怖がらないで。嫉妬してるだけだから」
「嫉妬…?」
「好きだよ…牧野のこと友達なんて思ったことない。総二郎に触られてんの見て…俺おかしくなるんじゃないかって思った。あんたと彼氏見たときは、そんな風に思わなかったのに…」

類は握ったままのつくしの手を引くと、腕の中にすっぽりと抱きしめつくしの髪にキスを落とす。
類の心臓の音が、ドクンドクンとつくしの耳に響いてきて、同じ速度で奏でる音に安心したようにつくしは頬をすり寄せた。
ずっと望んでいた類の言葉が何度もつくしの頭の中をリフレインする。
嬉し過ぎてなのか、どこか現実味を帯びずに夢見心地でつくしは類の言葉に聞き入っていた。

「…牧野があんな男のこと好きになるわけないって…だから、いずれ俺の隣に戻って来るって思ってた。余裕ぶってたのかな…また何もなかったようにそばに居られるってね。そうしたらいつの間にか、あんたの隣に総二郎がいた…焦ったよ…」
「どうして…西門さんだと焦るの?」

つくしが類の言葉を待ち胸に顔を埋めたまま聞くと、触れ合った場所から突然ブーブーと振動を感じつくしは驚き肩を揺らす。
類はごめんと断りを入れてつくしの身体を離すと、胸ポケットに入れた携帯の着信に出る。
着信元をチラリと確認しただけですぐに電話に出たことから、仕事なのかもしれない。

「はい…はい…あぁ、分かった。今から行くよ…」

昔ならば、休日に類を呼び出すなどあり得ないこと、だった。
一日中ベッドの中にいることが最大の幸せだと思っていて、三年寝太郎と称された男は、今では会社からの呼び出しに素直に応じるようになったらしい。
つくしと会っていても、いつの間にやら夢の中…なんてことはしょっちゅうで、本気で寝過ぎなのではと心配した事もあるぐらいだ。

「牧野、ごめん。これから会社にちょっと寄らないとならない」
「うん、分かった。じゃあ、どこかで降ろしてもらえればいいよ?」
「いや…一緒に来て?すぐ終わるから…それに、まだ話は終わってないよ」

類は後部座席の内線から電話をかけ運転手に行き先変更を告げると、再びつくしの手を取った。
当たり前のようにつくしに触れる類の行動に、つくしは振り回されっぱなしだ。
しかし、つくしの予想通り仕事であったようだが、全く関係のない自分がついて行ってもいいものなのだろうか。

「もうすぐ着くから…話はそれから、ね?」
「あ、うん…」

類の言葉通り何分も経たないうちに、車は駐車場へと入って行き、総二郎がそうしたように類もまたつくしの手を取り車から降りる。
きっと総二郎は誰に対しても同じように振る舞うんだろう。しかし、類が特別扱いをするのは自分だけであってほしいと思うのはわがままだろうか。
類はつくしと手を繋いだまま、受付を通り過ぎ奥のエレベーターへ乗り込んだ。
休日に出社する者はそう多くはなく、ロビーは閑散としていて、誰に注目される事もなくつくしはホッと息をつく。
音もなく上がっていくエレベーターの階数表示を見上げていると、10秒足らずで目的階へと到着した。

「…今父さんが出張でいないから…留守を任されてる。って言っても、まだペーペーだからね、そもそも重要な案件を残して行ってないはずだけど」

つくしは手を引かれ長い廊下を進みながら、類がポツポツと話す言葉を聞いていた。
社長室とプレートの入ったドアをノックなしに開けると、類はつくしを先に部屋の中に通した。

「入って…その辺に座って待っててくれる?すぐ終わるから」

類は冷蔵庫からペットボトルの水を取り出し、つくしの前のテーブルに置いた。
つくしはありがとうと目の前のペットボトルに手を伸ばし、蓋を開け口に含んだ。
朝家を出てから、水分を摂っていなかったからか喉はカラカラで、コクコクと喉を流れる水で身体が潤っていくようだ。
類はデスクにある書類を読みながら、PCに何かを打ち込んでいく。
つくしには仕事のことはまるで分からなかったけれど、類も将来を見据え歩き出しているのだと実感した。
カチカチとキーボードを打つ音だけがつくしの耳に届く、ぼんやりと室内を見渡していると社長室をノックする音が聞こえた。

「はい」
「失礼します…類様、社長から例の件許可が出ました」

ドアを開け入って来たのは黒縁メガネをかけた年齢は40代前半ほどの男性だった。
私服のポロシャツにベージュのパンツスタイルの類とは違って、きっちりとスーツを着こなしているところを見ると、秘書だろうか。
慇懃に頭を下げ、手に持っていた封筒を類へと手渡すと、ソファーに座るつくしにも軽く会釈をする。

「そう、良かった。さっさと済ませたいと思ってたんだ…休みの日に悪かった」
「いえ」

男性はもう一度類へと頭を下げると、入って来たドアから出て行った。
ドアがパタンと閉まるのを確認し、類はつくしへ向き直る。

「牧野…ちょっとこっちおいで」

類が手招いてつくしを呼び、言われるがまま類のデスクに近付いていくと腰に手を回され、類の座る椅子に倒れ込んでしまう。

「ちょっ、ちょっと…類っ?」

抱っこされているような格好で、類の両手がつくしの腰からお腹のあたりに回り、吐く息がかすかにつくしの首筋にかかる。
密着した背中からは類の高い体温が伝わり、つくしは類の腕にそっと自分の手を重ねた。
類の唇がつくしの首筋へ触れると、つくしを抱き締める腕の力が強まる。

「本当は今すぐ襲いたいぐらいなんだけどね…その前に悪者退治しなきゃ。じゃないと、牧野が集中出来なそうだし?」
「悪者退治?」


***


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「そんなとこで何してんの…?」

つくしが何ヶ月ぶりかに聞いた愛しい男の声は、不機嫌に冷たいものだった。
類に自分の想いを知って欲しいと思ったばかりなのに、頭から水をかけられたかのような気持ちになる。
玄関から総二郎に手を引かれ、いつの間にかリビングの前まで来ていたらしい。
壁際で佇むつくしに寄り添うように立つ総二郎を、ちょうどリビングから出て来た類が睨むように見つめる。

「類…」
「何って、話してただけだぜ?なに、イチャついてるように見えた?」
「ちょっと、西門さんっ?」

総二郎の言葉で類の周囲の空気がピリッと張り詰めたものに変わる。
つくしは2メートルほど先に立つ類を不安げな顔で見つめていたが、類を煽るような総二郎の言葉は止まらない。

「なぁ、つくしちゃん知ってるか?」
「へ…?」

頬に触れていた総二郎の手が急に下に移動し、つくしの背中に近い腰のあたりを撫でた。
チークダンスを踊るような格好で身体が密着し、つくしが狼狽し抵抗するより先に総二郎がとんでもないことを口にする。

「お前のココ…ほくろあるよな」
「え…嘘…っ、なんでそんなこと知って…」

なんでそんなこと知ってるの、そう言いかけてつくしはハッと、ホテルに総二郎と泊まった日の朝を思い出す。
総二郎が寝室に消えた後、なかなか眠気がやって来ずに、つくしはホテルのソファーでしばらくボンヤリしていた。
そして、いつの間にかそのままソファーで眠ってしまったようで、朝つくしよりも早く起きて来た総二郎に身体を揺すられた。
それだけならまだ良かったのかもしれないが、バスローブ姿のまま寝てしまったつくしは、物の見事に結んだ腰紐は外れていて、パンツ丸見えどころか胸元も大きく肌蹴ていて総二郎の前にあられもない姿を晒す羽目になってしまったのだった。
あ、とつくしが忘れていた自分の痴態を思い出し、顔を真っ赤に染める。

「思い出したか…?お前、肌白いから…綺麗だったよ」

足を広げて、凄い格好でソファーに眠る自分のどこが綺麗なもんかと、総二郎を睨みつけるが、さして気にもせずに総二郎はつくしの頬へキスを落とす。
それは側から見れば、拗ねたつくしのご機嫌をとる恋人の行動のようだった。

「総二郎…牧野から離れてくんない?」

地を這うような低い声がつくしの頭上から聞こえる。
すると、横から伸びて来た手に身体を引き寄せられ、つくしは懐かしい香りに抱きしめられた。
久しぶりに感じた類の体温に、つくしは心臓の音が聞こえやしないかと肩を強張らせる。
それに類が気付いたのかはわからないが、抱きしめられていた腕が少しだけ弱まった。

「あーあ、残念。でも、牧野はまだ誰のものでもない」

大して残念そうでもなくホールドアップの体勢で総二郎が言うと、類はつくしを腕の中に抱き締めたまま眉を寄せる。

「お前にはもう関係ないんだろ?牧野が恋人と別れようが、その恋人に結婚の噂ばらまかれて会社辞める羽目になろうが、気付きもしなかったもんな…っていうか、そもそもなんで牧野がそんな男と付き合ったのかって考えたことあるか?類」
「西門さん…知ってたの!?」
「バレないわけないだろ…お前ほど分かりやすいやついねえよ」

まさか総二郎が知っていたとは思いもしなかったが、残業で毎日遅くまで働くつくしを度々会社の前まで迎えに来ていたのは、きっと相当心配をかけていたのだろうと思い至る。
それに、考えても見ればそれまでは予告もなく会社の前で待っていたのに対して、辞めた後からはどこにいるかと連絡が入っていた。
今まで気にも留めなかったが、つくしが何月何日付けで退職するのかを知っていたとしか思えない。
それまで黙って総二郎の言葉を聞いていた類が、おもむろに口を開く。

「総二郎、俺帰るから…あきらに言っておいて。牧野、行くよ」
「ちょっと…っ、類!?」

つくしは怒ったような態度の類に手を引かれ、再び玄関まで戻った。
さっきまでは総二郎と手を繋いで歩いていたつくしが、類と手を繋ぎ帰って行くのを美作家の使用人たちはどう思うのかと、余計なことばかり考えてしまう。
そして結局あきらには挨拶も出来ないまま、類の乗って来た車に乗せられた。

運転手に家に行ってと伝えたっきり、類は無言のまま車の後部座席に座る。
しかし、つくしの手を離すことはなく握ったままだ。
会えば必ずつくしに見せていた類の柔らかい微笑みは鳴りを潜めて、不機嫌な様子で眉を寄せ前を向いている。

「類…?な、にか…怒ってる…?」

つくしは類の不機嫌の理由も分からずに、恐る恐る話しかける。
てっきり無視されるのかと覚悟をしていたが、予想とは裏腹に類が口を開いた。

「あの男と別れたの…?」
「あ、うん…」
「どうして?」
「え、と……」

類のことが好きで忘れられないからと、そう言えばいいだけなのに、類はどういうつもりで質問しているんだろうと、つい言葉の裏を探ってしまう。

「ごめん、狡い質問した…今日あきらに言われたんだ。総二郎と同じこと」
「同じこと…?」

つくじが何のことだろうと首を傾げると、類はやっと怒っていたように見えたその顔に、ほんの少しだけ笑みを浮かべる。

「牧野が…なんで彼氏作ろうと思ったのか考えろって。でも…いくら考えても、それは俺にとって都合がいいだけの理由しか思い浮かばないんだ。だから、聞いた…どうして付き合ったのか、どうして別れたのかって」

そんなことを言うから、つくしは期待してしまう。
もしかしたら、類も少なからずつくしを想っていてくれるのではないかと。

「類にとって都合がいいだけの理由って、何…?」
「分からない?俺かなり態度に出してたつもりだけど…」

類の長い睫毛の下に光る茶色の瞳がつくしだけを写していて、その瞳に吸い寄せられたかのように、つくしは目が離せなかった。
もしかしてと、つくしは胸の鼓動が速くなるのを感じる。
車の中は思っていたよりもシンとしており、類に心臓の音が聞こえませんようにと、つくしは繋がれていない方の手を胸の前でギュッと握った。

「牧野が…俺のこと好きで、俺を忘れるために彼氏を作ろうと思ったとか…我ながら無理矢理なこじつけだと思うんだけどね。俺はそう思いたかった」

類は伏せ目がちに車のシートに視線を移し、苦笑する。

「そうだって言ったら…」
「え…?」
「あたしがあの人と付き合ったのは、類を忘れたかったから。望みもないのにそばにいるのが辛くなってしまったから…それで合ってるよ」


***


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