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遠出でもしようか

日々蝶々【遠出でもしようか】
川澄×すいれん。高校を卒業し、それぞれの道を歩む2人。
なかなか会う時間は取れないけれど、会うことのできる1日を大事にしたい。
そんな思いから…。




高校を卒業して、川澄は大学へ、すいれんは専門学校へとそれぞれの道を歩みだした。

川澄は、一人暮らしを始めてから、やっと携帯を持ち始め、すいれんとの電話やメールはそれなりにしているが、会えるのは月に2〜3回だった。
電話で声を聞くたびに、会いたい気持ちは募るばかりで、周りに色々言われながらも毎日会えていた高校生の頃が懐かしい。

(早く会いたいなぁ…)

すいれんはカレンダー見て、本日何度目かのため息をついた。


明後日の土曜日、川澄が実家に戻るため、家に遊びに行かせてもらうことになっている。
川澄の母はとても優しく、あまり口数の多くはないすいれんも、落ち着いて話すことが出来た。
本当ならお昼ご飯を食べてから行く予定だったが、お昼も一緒に食べればいいという川澄の母の好意に甘えて、午前中から会うことになった。

(明日は…金曜日、明後日は…土曜日、寝ちゃえばあと1日…)

早く土曜日にならないかと、おやすみのメールを川澄へ送り眠りにつく。



何度訪ねても、最初のこの瞬間だけは緊張する。
目深に被っていたキャップを脱ぎ、身だしなみを軽くチェックする。
今日は膝より少し上の、淡いブルーの花柄ワンピースを着ていた。
いつからか、あやからの洋服チェックもなくなり、勇気を持って着たい服を着るようになった。
あやもそれを応援してくれている。
まだキャップは手放せないけれど。

すいれんは持ってきたお菓子の袋を開けギュッと掴み、インターフォンを押した。
インターフォンからの応答の代わりに、家の中から、バタバタと階段を駆け下りるような音がする。
程なくして、ドアがガチャっと開いた。

「お…はよ…」

「おはよう、どうぞ」

すいれんは靴を揃えて、まずはキッチンにいる川澄の母のところへ挨拶に行く。

「おはよう…ございます。お邪魔します」

「あら、おはよう!ご丁寧にどうも!」

緊張の面持ちでぺこりと頭を下げると、持ってきたお菓子を袋から出して、テーブルに置いた。

「お菓子また作ったので…食べてください…」

「いつもありがとね〜。このあいだ貰ったのも美味しかったわ〜。あ、お昼出来たら呼ぶから部屋行ってていいわよ」

すいれんは照れたように赤くなると、また軽くお辞儀をして、川澄の待つ部屋に行く。

川澄の母は、口数は少ないが、当たり前の礼儀や挨拶が出来るすいれんのことを、非常に気に入っていた。
まだまだ若い2人でも、いつかはあの子が娘になる…そんなことを考えながら、ウキウキと昼ご飯の用意を始めた。


川澄の部屋をノックすると、入ってと声が聞こえる。

「お邪魔…します」

初めて来た時も、今日も、川澄の部屋はそれなりに片付いていて、性格出るなあとすいれんは部屋を見渡す。

「2週間ぶりだね」

「うん…電話で話してたけど…」

(会いたかった…)

すいれんは声に出さずに見つめると、川澄はそれに応えるように言った。

「会いたかった」



「学校どう?騒がれたりしてない?」

川澄は、会うたびに心配そうに聞いてくる。

「うん…楽しいよ」

安心させるようにすいれんは笑った。

すいれんの通う製菓の専門学校は、調理部門と製菓部門で学校自体が分かれていて、製菓専門学校は男女比率7:3程度のため女子が多く、すいれんにとっては過ごしやすい環境でもあった。
入学した当初こそ騒がれることが多かったが、年齢にもバラツキがあり、やはりすいれんに告白する勇気のある男性などなかなかいないため、毎日楽しく学校に行っている。

「女の子の友達…出来たの」
すいれんが嬉しそうに話す。

「そっか…どんな人?」

「なんか…可愛い子」

可愛い子と言うすいれんの方が、絶対に可愛いだろうと心の中でだけ思う。

(自分のことは、本当に、分かってないんだな…)

だからこそ川澄は心配になるのだが、1人で歩いていけるようにと決意したすいれんに水を差すようなことはしたくはなかった。

(ただ、守ればいいわけじゃない…。それじゃ前と変わらない)

本当は、何の苦労もしないように全てから守ってあげたかった。
でも、それはすいれんの望むことではない。
校内で騒がれても、前を向いて歩いて行けるようになったのは、本人の強い想いがあったから。

すいれんは、専門士や製菓衛生師の資格を取るために、実践はもちろんだが、理論ではパンの歴史や調理の基礎などを学んでいることを話した。

すいれんが川澄の大学の話を聞こうとすると、1階からご飯出来たわよという声が聞こえた。

「行こうか」

「うん」


川澄の母が用意してくれたのは親子丼で、すいれんが甘い卵が大好きだと前に話していたことを覚えていてくれたらしかった。

「うちは、男2人だから、女の子の食べる量が分からなくて、すいれんちゃんこっちに来てご飯盛ってもらえる?」

「はい」

すいれんは自分の分をよそって、川澄の分と共に持っていくと、川澄の母に驚かれてしまう。

「これしか食べないの?遠慮しなくてもいいのよ?」

「いつも…これぐらいなんです…。あの、食べるのが遅いから…お腹いっぱいになっちゃって…」

「やっぱり、女の子だわぁ〜。うちの子達から、そんなセリフ聞いたことないもの」

「川澄くん…食べるの早い、ですよね」

すいれんが思い出したように笑って言うと、母もそうそうと笑う。
手を合わせていただきますと言うと、三つ葉の香りがふわりと立つ親子丼を口に運んだ。

それからすいれんは早々に食べ終わる川澄の横で、必死に口を動かす。


「お母さんこのあと買い物に出掛けて、夕飯前に戻るから、すいれんちゃんゆっくりしていってね」

すいれんがご馳走さまでしたと言うと、お皿を洗いながら川澄の母は言った。



食事も終わりまた部屋に戻り、川澄の大学の話を聞いた。
川澄は医療系の大学、看護学部ではなく医療学部に所属している。
医療学部は、理学療法や臨床検査学科があり、どちらかというと病院での裏方の仕事に就くことが多い。
すいれんが何故と聞く前に、看護はコミュニケーション能力必須なんすよ…と川澄は言った。

「私たち…苦手、だもんね…」

「うん、誰にでも笑顔で優しく…とかな。あ、でも柴石さん看護師だったらいいかも」

言った後にすいれんのナース服を想像してしまって、顔を赤くする。


ポツポツとゆっくり話す2人の時間は、本当に早く過ぎていき、あっという間に夕方になった。

「もう…こんな時間…」
すいれんは時計を見て、目を曇らせる。

(帰らなきゃ…って言いたくない…な)


「今度は…遠出でもしようか…?」

川澄の言葉にすいれんは戸惑う。
どういう意味に取っていいのか分からなかったからだ。

「え…と、旅行…?」

頬を赤く染めながら小さな声で聞く。


すいれんとしても、そういう知識は一応あるわけで、きっとその相手は川澄しかいないとも思ってはいるが、ハッキリと言われたわけでもないのに、自分だけが意識するのはとてつもなく恥ずかしい。


「旅行…っていうか…いや、もちろん旅行は嬉しいっすけど…」

すいれんの旅行という言葉に、川澄は驚いたように真っ赤になって目をそらした。

(私ばっかり…意識してるみたい…恥ずかしい…)

「あのっ、2人で…、ちょっと遠くに出掛ければ…一緒にいられる時間が長くなるかな、とか思って」

変なことは考えてないっすよ、と慌てて真っ赤な顔の前でブンブンと手を振った。

「嬉しい…。川澄くんと、いっぱい一緒にいたい…」

川澄も自分ともっと長く一緒にいたいと思ってくれている、それだけで胸が熱くなって、涙が溢れそうになる。
すいれんは、川澄の背中に顔を寄せると後ろから抱きついた。

「…柴石さん」

背中に伝わるすいれんの体温に、川澄の心臓が一気に跳ね上がる。

「変なこと…考えてないって言ったけど…キス、してもいいっすか?」

前に回された手がピクリと震える。

「嫌とか、絶対に言わないから…聞かないで…」

川澄はゆっくりと振り向くと華奢な身体を抱き締め、触れるだけのキスをした。
何度もついばむようなキスをすると、どちらからともなく、ほんの少し唇を開き、徐々に深くなる口付けにすいれんは頭がぼうっとしてしまう。

「はぁ…っ、ん」

角度を変えて互いの口腔内を舐めるようにキスをすると、室内にはチュッチュッと舌を絡める音と違いの熱い吐息が漏れ聞こえる。
そして、すいれんの身体から力が抜けていく。

「…ん…はぁ」

川澄は、すいれんの喘ぐような吐息と濡れた唇に、理性で何とか抑えていた欲望が熱を帯びていくのが分かった。
身体を密着させているすいれんに、それがバレやしないかと思っているはずなのに、どこかで気が付かれてもいいという思いもあって、口付けながらすいれんの腰をグッと引き寄せた。

「んっ…ん、あっ…」

(これって…なんか、どんどん気持ちよくなってくる…どうしよう)

キスだけで立っていられなくなったすいれんは、震える手で川澄の肩口あたりをギュッと掴む。
川澄もまた、すいれんの腰を強く抱いた。

川澄がこれ以上はマズイ理性ギリギリの所で、チュッと音を立てて唇を離すと、すいれんが熱を帯びた視線を向けてくる。

「もう…おしまい…?」

離れがたくて、潤んだ瞳で見つめると、川澄は嬉しいような困ったような顔をして言った。

「続きは、遠出デートの時…かな…?」

川澄に言われ、すいれんは真っ赤な顔で頷いた。


fin



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