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月に叢雲花に風 11

月に叢雲花に風 11



佐藤が住宅展示場での仕事を終え社に戻ると、同期入社の同僚が興奮した様子で佐藤を給湯室へと引っ張っていく。

「佐藤!ちょっと…」

無駄話に目を光らせているお局様がいないかを、キョロキョロと見渡し誰もいないことを確認すると、同僚は堰を切ったように話し出した。

「会った!!」
「あった?何が…?」

興奮した様子の同僚が、何を言いたいのかまるで分からずに、佐藤は首を傾げる。

「だからっ、お前がエレベーターで会った子に、俺もエレベーターで会った!役員秘書かと思ったら違ったぞ!?ほれっ!」
「え…!?名刺…!?」

佐藤に話したくて堪らなかったのであろう、同僚はポケットから名刺を取り出すと佐藤の前に翳した。

「flowerfood…営業事務、花沢…つくし…?」
「花沢ってことは、経営者一族の遠縁とかなのかもな…。平社員みたいだし」
「役員秘書じゃなかったのか…」

まだ自分と同じ年ほどの彼女が、手の届かない職種でなかったこと、一社員であることに、佐藤はホッと胸をなでおろす。

「感謝しろよ!?お前が書類を拾ってもらったことでお礼をしたいから、今度食事でもって言っておいたぜ?」
「それナンパじゃん…」

同僚は得意げに言うが、明らかにナンパ目的の誘いに乗ってくる女性など、なかなかいないだろう。
何故だか、彼女はそういうタイプではないと確信もあった。

「だったら、うちのメンツ集めて花沢系列会社で親交を深めませんか?みたいな飲み会にしてみるか?それなら向こうも来やすいだろ」
「おまえ、よくそういうこと思いつくよな…。でも、彼女…来るかな…」
「ま、そればっかりは分からんけど…。俺に協力できることはしてやるよ」

同僚は佐藤の肩をポンポンと叩くと、自分のデスクへと戻って行った。
そして、その日のうちにつくしへとメールが送られることとなる。





翌日の昼時、類からは仕事が立て込んでいるとは聞いていたものの、昼食時間すら取れないほどだとは思っていないつくしは、いつもどおりに常務室のドアをノックする。
つくしに話しかける時の柔らかい声とは異なる、少しイラついたような声でどうぞと室内から聞こえると、つくしはそろそろとドアを開けた。

「あれ?つくし…?あぁ、もうこんな時間か…」

入ってきたのがつくしと知ると、途端に声色が柔らかいものへと変わる。
そして、類が醸し出す空気も変わるのだということは、山村のホッとした表情からも伺えた。

「忙しいみたいだね…簡単に食べられるもの分けておこうか?それとも、何か手伝えることある?」
「つくし、今日そっちの仕事他の人に回せる?」
「うん。急ぎの仕事はないよ?部長に連絡しないとだけど…。あたし何をすればいい?」
「連絡は俺がしとく。この稟議書に目を通して、おかしな内容があったら教えて…と、その前にご飯食べてからでいいよ」
「類が忙しくしてるのに、あたしだけ隣でご飯食べてるのやだし、終わったら食べるからいいよ」

類の隣に座ると、山村が助かりますと大量の稟議書をつくしの前に置いた。

類から仕事を頼まれるなど、今までにないことで、午後からの会議までに終わらせないとならない為、猫の手も借りたいところだったと山村からこっそり教えてもらった。
しかし、上役の決裁印が必要な事案を部下に任せるわけにいかずに、類1人で膨大な書類と格闘していたのだ。
いつもならば、経費の決裁などは専務に一任しているところだが、たまたま専務が不在の今日、急ぎの稟議書が大量に回ってきたことが理由だった。
そして2時間後には会議に出なければならない類が、猛スピードでPCと書類を見比べオンラインで稟議を通していく。

今でもずっと、暇さえあれば類のしている仕事を山村から学び続けているつくしは、猫の手どころか神の手だ。

「つくし様…本当に助かります」
「無理しないでね。疲れたら、止めていいから」
「うん。ありがと…。でも、会議までに終わらせないといけないんでしょう?急がないとね…って早速、これ金額おかしい、一桁違う。上長印なし」

つくしが稟議書に目を通しながら、その詳細を読み込んでいく。
山村に何度も教えて貰い、過去の書類にも目を通していたことがこんなところで役に立つとは思ってもみなかった。

分からない内容については、類と山村に聞きながら、つくしも大量の書類を片付けていった。
部署の上長に確認を取ってからの最終決裁の為、間違えなどはほとんどないが、100枚を超える書類の中ではやはり2〜3件の不備がある。
仕事をしているのは人間なのだから、仕方のない範囲だ。

「類、あたしこれ直接行って直してもらってくるよ。内容的にも急ぎだし…」

つくしが席を立とうとすると、それを類が止めた。

「いや、向こうに来させるからいいよ。急ぎの書類を早めに出さない担当者が悪いし、それで間違えている書類を出してきたのも向こうなんだから」

お互いフォローし助け合うことは、つくしにとっては当たり前のことだ。
類が苦笑気味なのは、そんなつくしの性格を分かってのことだろう。

ワンマン経営を行っているわけではなくとも、多くの社員にとって類は社のトップの1人であることは間違いない。
それを忘れられてしまうような、馴れ合いはしてはいけないということか。

つくしには未だによくは分からないが、まだ20代の類がその威厳を保つ為には必要なことなのかもしれない。

「うん。分かった。じゃあこれ…稟議却下の書類」
「ん、ありがとう」

書類を受け取った類は、内線を掛け担当者を呼び出す。
書類を作成した担当者ではない、それを通した部長だ。
5分もしないうちに、呼び出された各部の部長が常務室へやってきた。

「も、申し訳ありません…。不備があったようで…」

50代のハゲ頭をペコペコと何度も下げると、類から書類を受け取った。

「押印する前にきちんと確認。来月から契約社員採用する為の稟議書、かなり急ぎだろう。これ今日通らなかったら、次の決裁来週だけど、間に合うの?」
「ま、間に合い…ません…。来週には、面接する予定でして…。どうしても今日中に…」
「俺はあと1時間後には会議に入る。それまでに提出できなかったら、この稟議却下になるから」
「は、はいっ!失礼しますっ」

腕にはめた時計を見ながら、額に汗を光らせてバタバタと常務室を出て行く。
その後にやってきた部長たちも皆同じだった。
つくしは誰もいなくなった常務室で、つい、ふふっと笑い声を上げてしまう。

「どうしたの?」
「あ、ごめん…。だって…」
「ん?」
「優しいな…と思って。厳しくいなくちゃいけないんだろうけど、やっぱり類って優しいんだよね…」

会議まで1時間もないはずで、会議の準備もしなければならない。
そんな類が、直して持ってくるのを待っていてやると遠回しに言うのだ。

「そう?俺もつくしに絆されたかな?」
「違うよ。元々だよ…。あ、時間ないよね?まだやることある?」
「ご飯食べようか?10分くらいは休憩させて欲しいしね」

類がドアの方をチラリと見て言うと、そこへ見計らったように山村が常務室に戻り、10分後にまた来ますと声を掛けてすぐに出て行った。


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月に叢雲花に風 10

月に叢雲花に風 10



佐藤の同僚がその女性をエレベーター内で見かけたのは、あれから何日か後のやはり昼時のことだった。
売却される土地の下見に行き社へと戻って来ると、重箱のような包みを抱えた女性が15階からエレベーターに乗り込んできた。
何とはなしに佐藤が15階からと言っていたことを思い出すと、その女性は30階のボタンを押す。
その時たまたま、エレベーター内が2人きりであった事も、友人のために動いた彼を後押ししたのかもしれない。

「あ、あのっ!俺20階の花沢不動産で働いている者なんですけど…。実は俺の友人があなたのことをとても気にしていて…もしよろしければみんなで食事などしませんか?これ、名刺です!」

彼女だと気がつくと、興奮状態で話しかけていた。

「え?え?あ、ありがとうございます…じゃああたしも…」

つくしはエレベーター内で突然矢継ぎ早に話しかけられ、訳も分からないまま営業の仕事の癖もあり、名刺を渡されたら返すということをしてしまう。

そして花沢不動産が入る20階に着くと、男性は軽くお辞儀をして降りて行った。
その足取りは完全に浮き足立っている。

「何だったんだろ…」

つくしは受け取った名刺をとりあえずポケットにしまうと、そのことをすっかり忘れてしまっていた。



そろそろ、終業時間かという頃、つくしの仕事用アドレス宛に花沢不動産からメールが届いた。
怪しいフリーメールなどは全てブロックされるため、一応目を通そうとメールを開くと″花沢系列の会社で親交を深めませんか″と始まっていた。

よく読んでいくと、いつだったか書類を拾って渡した男性が働く会社らしく、そのことを覚えているか…のようなことも書かれている。
とても大事な書類であったらしく、ずっとお礼が言いたかったのだが、どこの誰かも知らずにずっと探していたのだと。

そして食事会のお知らせが載っていて、日程についてはflowerfood側で決めてほしいとあった。

つくしはメールをプリントすると、島崎の元へと持って行く。

「島崎さん…花沢不動産の人からこんなメールを貰ったんですけど、どうすればいいですか?」
「えっ?何々?親睦会?へ〜楽しそうね!日程はこっちが決めていいなら、今週末にでもしましょうよ!花沢さんは、常務も呼んじゃえば?」

宴会好きの島崎は歓送迎会などで幹事をすることが多く、店の予約などは新人のつくしの仕事であるが、全員への声掛けは島崎にしてもらうことが多かった。

「類は…どうかなあ…。今日は遅くなるって言ってたし、明日の昼にでも聞いてみますね」
「いいわねぇ〜毎日2人っきりの役員室でランチ!常務も少しは安心したんじゃない?こっちに移転して」
「どうなんでしょう…秘書の山村さんなんかは、本当はお昼も仕事入れたいみたいでちょっと困ってますよ?」

1時間きっかりと食事を取れる時間など、本当はないのだと分かっているが、類にそれを言うと昼に会えないと心配でならないと返されてしまう。
山村としても、類の仕事が手につかなくなるぐらいならと、昼の時間を確保しているのだ。

「ますます束縛されちゃうのね〜!それでこそ常務!あっ、親睦会の人数確定させなきゃね!」
「じゃあ、あたしは花沢不動産の人たちに金曜でって返信すればいいですか?」
「そうね!楽しみだわ〜」

島崎はニヤリと含み笑いをした。
それはきっと食堂であった彼らだろうと分かっていたから尚更だ。


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月に叢雲花に風 9

月に叢雲花に風 9
佐藤くんの回です〜




花沢不動産に勤めて4月で2年目となる佐藤は、姉が3人という女所帯で育った環境からか女性に対して苦手意識が高かった。
しかし、姉3人とは異なり唯一、若い頃にモデルをしていたという母に似て、子供の頃から芸能界にと声がかかるほど綺麗な、男にしては可愛らしい顔立ちをしていた。

本人の性格が芸能界に不向きだと、早々に見抜いた母がそういった話を全て断ってくれていたので助かったが、高校に上がる頃には校内にファンクラブのようなものまで出来てしまい、盗撮やストーカーは当たり前のような高校時代も、自身の女性嫌いに輪をかけてしまったのかもしれない。

佐藤にとって女とは、ギャーギャーと煩く、化粧品や香水臭く、感情で動く生き物だった。
それでも、今まで恋人がいなかったわけではない。
高校時代、携帯が主流の中、靴箱にラブレターという時代錯誤の方法で告白してきた後輩がいたのだ。

他の子とは違うのではないか…そう思い何度か会って話すうちに、付き合うことになった。
しかし、付き合った次の日には全生徒に付き合っていることが伝わり、誰が噂を広めたのかと怒り心頭で彼女に話すと、何ということはない彼女自身がふれ回っていたのだ。
今にして思えば、ファンクラブまで出来てしまうような男の彼女になったことで、自分に自信がなさ気だった彼女は心配になってしまったのであろうと分かる。
まだ子どもだった自分は、ごめんなさいと泣きながら謝る彼女を許すことが出来ずに、そのまま終わってしまった。
そして、佐藤が別れたという話もまた翌日には伝わっていた。
彼女が自身で言うはずはないのだから、付き合ったことが広まったのも、もしかしたら彼女だけのせいではないのかもしれない。

それから高校を卒業し大学へ進学、徐々に大人になる過程で、大人同士の付き合いも覚えた。
大学に入れば、高校の時ほどは騒がれなくなり、社会人となれば尚更だ。

入社した会社が花沢系列であることも、佐藤にとっては非常に良い偶然だった。
それは花沢本社の常務が、自分なんかよりよほど女性たちの視線を一手に集めていたからだ。
花沢一族の後継者とあれば相当のセレブリティで、眉目秀麗ともあれば女性が放っておくはずがない。
しかし、とうの常務はとっくに既婚者らしく女性たちの目の保養としかなっていないと聞く。

佐藤にとっては煩わしい女性の視線から解放され、穏やかに毎日を過ごせるようになり、1年が過ぎた。

彼女を見かけたのはそんな時だった。

エレベーターで彼女を見た時、その瞬間から目を離すことが出来なかった。
近くで見るとよく分かる、肌の透き通るような白さに目を惹かれた。
そして声をかけられた時、後からエレベーターに乗ってきた彼女を、斜め後ろからずっと見ていたことがバレたのかと思い焦った。
肩まで伸びた艶のある黒髪と、力強く輝く瞳から目が離せずに、書類を渡してくれた彼女をジッと見つめてしまい、おかしな男だと思われたのだろう…その後大爆笑されてしまった。

今にして落ち着いて考えると、一目惚れだったのだろうと思う。

「なぁ佐藤、15階ってflowerfoodって花沢系列の会社が新しく入ったらしいぜ」

佐藤がぼんやりと物思いに耽っていると、同僚が早速調べてくれたのだろう情報をこっそりと教えてくれた。

「役員の秘書が、系列の子会社に何の用で来るんだろう…」
「まぁ、うちにだって一度も来たことないしな〜」

佐藤が至極もっともな疑問を持つが、同僚がそれの答えなど知るはずもない。
しかし、役員直通のエレベーターを使っていなかったということは、また会える可能性が高いという事だと、佐藤の恋を応援する同僚にそうだなと相槌を打った。


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花火 4

花火 4

日々蝶々の12巻にひるなかとのコラボが載ってました〜(≧∇≦)
本誌買ってないから知らなくて、ちょっと嬉しかったです!

***


そして迎えた花火大会当日。
ゆゆか宅に浴衣一式を持ち、着付けしてもらうと、ゆゆかが化粧ポーチを取り出す。

「一応、自分でもしてみたんですけど…」
「知ってる。悪くないわよ?でもね、今日は浴衣だから、ガッツリメイクじゃないほうがいいのよ」

すずめとしては、頑張って普段はしないマスカラやチークを施したのだが、ゆゆかによって濃すぎると落とされてしまう。
元々雪国生まれのためか肌は白く、顔にもシミやほくろは一切ないすずめは、ほとんどファンデーションを必要としなかった。

「そうなの?せっかく頑張ったのになぁ」
「まあ、いいんじゃない?三つ編みノーメイクのあんたが、馬村くんのために化粧するようになったことを思えば、大進歩だし」
「ま、馬村のためっていうか…」

そうに違いないのだが、実際にそこを突っ込まれると居た堪れなく恥ずかしい。
照れるすずめのことなど、全くの無関心でスルーすると、ゆゆかはさっさとすずめの化粧を直していく。

ファンデーションの代わりに、ラメの入ったパウダーを顔やデコルテに軽く置き、分からない程度にアイラインを引く。
眉はほとんど書かず少し足す程度、最後にピンク色のチークを淡くぼかして完成だ。

「はい、和風美人もどきの完成」
「うわーゆゆかちゃん凄い!私がちょっとおしとやかに見える!」

鏡を見たすずめが、驚き感動したようにゆゆかを褒める。

「でしょう!感謝しなさいよ!」

ゆゆかはすずめの肩をバシッと叩くと、自分の化粧も手早く直した。

「痛い…」
「ほら、まだ時間あるでしょ!?ちょっと付き合って!」
「どこ行くの?」
「ファミレス…」

ゆゆかはそう答えるが、珍しく歯切れが悪かった。

「え…夜花火見ながら食べないの?」
「そ、そんなの…先輩と一緒にいてガツガツ食べられるわけないじゃない!あんたとは違うのよっ!」
「ふーん、恋する女子って大変なんだね…」

馬村と出掛けるとむしろ食べてばかりなすずめには、ゆゆかの気持ちはよく分からなかった。

「他人事みたいに言ってんじゃないわよ…まったく、羨ましいようなそうでないような…とにかく!付き合いなさいよ!?」

ゆゆかに引き摺られるように、近くのファミレスへと入り、ゆゆかはガッツリクラブハウスサンドを食べると、お互いの待ち合わせの時間も近くなり、ゆゆかとはそこで別れた。

別れ際に、見かけても絶対に声を掛けるなと言われたことは言うまでもない。





「馬村〜!ごめん!待った!?」
「いや…お前にしては早いな」

息を切らせてすずめが待ち合わせ場所の駅前に到着した時刻は、待ち合わせ5分前。
その時間に着いたのは、もちろんゆゆかのおかげである。
ここから電車で1つ先の駅へ行ったところが、花火大会会場となる。
花火は夜7時からの予定だが、夕方の時間帯でもすでに電車内は混み合っていて乗れそうにない。

何分かすると次の電車が到着し、前の人に続いてすずめたちも乗り込むと、後ろから乗ろうとする人に押されるように電車内の真ん中辺りに来てしまう。

「結構人多いね〜わっ、あっ」

すずめが人混みに埋もれるように立っていると、電車が動き出しバランスを崩した。

「ちょっ、大丈夫か?」

馬村が咄嗟に、すずめの脇から腕を入れ支えると、思ったよりもその距離は近く、すずめのシャンプーの香りがフワリと鼻をくすぐる。
周りから押され、すずめはちょうど馬村の胸の辺りに顔を埋めるように身を寄せていて、馬村の清涼感のある石鹸のような香りが漂う。

「う、うん…。馬村は…大丈夫?」

恥ずかしさから馬村の顔を見上げることは出来ないが、きっと今のすずめは頬が真っ赤に染まっているに違いない。
これだけすずめが側で触れているのだから、馬村とてもちろん顔中真っ赤だろう。

しかし、混雑している電車でラッキーだったと互いに思っていることなど知るよしもない。
すずめは馬村に分からないよう、広い胸に頬を摺り寄せた。
馬村もまた、すずめの髪にキスをするように唇を近付けた。


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月に叢雲花に風 8

月に叢雲花に風 8



「つくし…そんなに慌てて食べると喉に詰まるよ?」

昼休みの残り時間はあと10分、つくしとしては5分前には席に着いておきたいところで、類にそう言われても慌てるなと言う方が無理な話だった。

「だって〜お腹空いたし…うっ…ゴホッ」
「はい、お茶。つくしに誘われるまま最後までしちゃったしね」
「ゴホッゴホッ!…類!」
「誰も聞いてないんだからいいでしょ」
「そういう問題じゃない…あ〜もう行かなきゃ!類は?まだ食べる時間ある?」
「いや、俺もそろそろ山村来るかな」

つくしがそっかと返事をしながらも、バタバタと片付けを始める。

「今日帰り遅い?」
「いや、適当に部下に任せて早めに帰るよ。…つくし」
「なに?」

弁当箱を持ち立ち上がったつくしの手を取り、引き寄せると強く抱き締めた。

「よそ見したらダメだよ?可愛くても男は男…ちゃんと覚えておいてね」
「よそ見なんてしないし、あたしがどれだけ類のこと好きか分かってないでしょ?」

つくしは拗ねたように唇を尖らせて類に言った。

「へぇ、どれぐらい好きなの?」
「えっ、そ、それは…」

まさかそう返されるとは思っていなかったのか、頬を染めたつくしが言い淀む。

「……………ぐらい…」
「なに?」

つくしは時計を見てもう行かなきゃとドアへ向かうと、類の顔を見ずに言った。

「こんなとこで、平気であんなことしちゃうぐらい好きなのっ!!じゃあっ!」

そしてドアを開けると、目の前に驚いた顔の山村が立っていた。

「や、や、や、山村さんっ!聞こえて…ました?」

挙動不審な動きのつくしの前で、山村は動じることなく和かに言った。

「いいえ、何も。つくし様、下までお気をつけて」
「あ、はい。じゃあ」





昼休みを取った木嶋が食堂へ行くと、かなり混雑していて席を取ることが難しそうだった。
それもそのはずで、価格の安さとメニューの充実ぶりがテレビで取り上げられるほどで、殆どの社員が外に食べに行かずに自社の食堂を利用しているからだ。

「木嶋くん!ここ!」

声のする方を見ると、島崎が木嶋に手を振っていた。

「島崎さん、早番だったんですね。助かりました」

木嶋がトレーを持ち、島崎の前に座る。
昼休みは交代制で、11:30からと12:00からの1時間、それに12:30からの1時間と分かれている。
早い時間の方が席はもちろん空いているが、12:00からの当番だと席が空くまで待つこともあるらしい。
それでも、200人以上は座れるように作られているのだから、大企業というのは恵まれているものだと木嶋は思う。

「本社っていいわよね〜。海老カツ美味しかったわ。この定食で300円なんだったら、外に食べに行かなくなるわよ」
「メニューが豊富ですしね。3月までの毎日コンビニ弁当に比べたら天国です」

木嶋が自身の注文したカツ丼に舌鼓を打っていると、隣の席にいた若い男性社員たちの話し声が聞こえてきた。

「なあ…エレベーターでさ、30階で降りる女性って、やっぱり役員秘書とかだと思うか?」
「そりゃそうだろ?もしくは役員かじゃねぇか?ああ、あとは掃除のおばちゃんとかだな」
「いや、そういうんじゃなくて…。凄い若い子なんだよ。俺と同じくらいだと思う」
「じゃあやっぱり秘書か?つーか佐藤その女の子が何なんだよ?まさか惚れたとか!?」

木嶋は島崎をチラリと見ると、島崎がニヤリと笑う。
やはり同じことを考えているようだ。

「えっ、いや…何となく、気になっただけ…だけど」

佐藤は照れたように頬をかく。
気になっただけではないのは、一目瞭然の反応に周囲は驚きを隠せない。

「へぇ〜佐藤がなぁ…。おまえ女なら選り取り見取りって感じなのに、女っ気ゼロだし興味もなさそうだしで心配してたんだぜ」
「ここで働いてんならそのうちまた会うだろうし…食堂にも来るんじゃん?」
「どういう感じの子?」

佐藤は思い出したように、手をポンと叩いた。

「ああ、そういえば15階から乗ってきてた気がする。セミロングで髪とか全然染めてない感じの清楚系?あ、でも俺が挙動不審な感じだったから大爆笑された」
「何だよ、おまえ。もう喋ったのかよ!案外手早いな〜」
「いや、違うって!書類拾ってくれたんだよ!あ!つーか、俺行かないと…会議だ!」

佐藤たちがトレーを持ち席を立った。
それを木嶋は見送ると、自分の食事がほとんど手付かずの状態であることに気がつく。

「やっぱり、花沢さんの話よね?」
「それ以外ないでしょう…」
「木嶋くん、ライバル多し…ね」
「ちょっ…島崎さんっ!滅多なこと言わないでくださいよ!俺はもう…」

つくしに対して思うことは何もない、そう言うことが出来ないのは、結婚している相手に告白することすら出来ずにくすぶっているためだ。

「そんな顔するぐらいなら、告白しちゃえばいいのに。玉砕するだろうけど」
「俺の我儘で後輩を困らせるわけにはいきませんから…島崎さん時間ですよ?」
「あら、ほんと。ま、いつでも相談に乗るわよ?」
「困ってないんで大丈夫です」

島崎はやれやれと言うように、肩をすくめ、あとでねと仕事に戻っていった。


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月に叢雲花に風 7

月に叢雲花に風 7
最後まではしない?から、R付けなかったけど苦手な方すみません!




類の唇に軽く口付けると、すぐにそれが深くなると思っていたつくしは、類から何の反応も返ってこないことに、肩透かしを食らう。

「類…?」
「何?…それより、もうキス終わり?もう1回して…」

熱の籠った瞳はいつもと同じなのに、類からは冷めた反応しか返ってこない。
妊娠が分かってから、身体を合わせることをしていなかった為に、つくしは触れるだけのキスでも声が出そうになってしまい、自分の身体ではないようだ。

類が腰掛ける革張りの大きな椅子に、つくしが類の足を跨ぐように乗り上げ、もう一度触れるだけのキスをした。

「……ん…」

反応のない類に焦れたように、つくしが舌を差し込むが、唇を離すことはしないものの、反応が返ってくることはなかった。
類がいつもそうしているように、舌を吸ったり、歯茎の裏を舐めたりするうちに、身体の奥深くがジンジンと疼いてくる。

「…ん…はぁ…」

触れ合っている下半身も、互いに昂ぶっているのが感じ取れるが、類の手はやはりつくしの身体に触れないままだ。

「類…も…おねが…っ」 

涙を浮かべて懇願するように類の固くなった性器をスラックスの上から擦る。

「どうして欲しい?」

下半身を撫でるつくしの手を、類が優しく握る。
その刺激さえ、今のつくしにとっては敏感に反応してしまう。

「……っ」

どうして欲しいかなど分かりきっていて、尚もそう聞いてくる男は、つくしが言わない限り触れてくることはないだろう。

「…し、て?」
「何を?」
「そんなの…言えなっ…」
「時間、なくなるよ?」

意地悪く囁く低い声は、艶を帯びてつくしを誘う。
足の間が濡れているように感じるのは、気のせいではないだろう。

「類が…欲しいのっ…」

つくしは、類のスラックスのベルトを外すと、足の間に座り込む。
ファスナーを下ろし、ボクサーパンツの上から熱り立った性器にカリッと歯を立てた。

「……っ」

そして、下着だけを咥えてずらすと、興奮して先が濡れている性器をペロリと舐めた。

「はぁ…」

先っぽをチロチロと舐めていると、類が堪らずにつくしの頭を押さえた。

「んんっ…」

つくしが大きく口を上下に動かしていくと、口の中のものがより大きく膨らみ固くしなってくる。
それはつくしを、より一層興奮させた。
類の手を取ると、つくしは自分の胸元にその手を置き、服の上から胸を自身で刺激するように動かしていく。

「あっ…ん、ん…」

視覚から入ってくるつくしの官能的な様子に、類も限界を感じていた。
類は靴を脱ぐと、足の間に座り込んでいるつくしの太ももに足を置き上へと滑らせていく。
類の足が太ももの内側へと入ってくると、つくしは自然に足を開いていた。

「ああっ…!はぁ…」

足の指がつくしの秘部にたどり着き親指で擦るように動かすと、そこはストッキングの上からでも分かるほどに濡れて、指の刺激でさらに愛液が溢れ出してくる。

「そんなに触って欲しかったの?」

コクコクとつくしが頷いて、潤んだ瞳で見上げる。

「も…我慢出来な…っ」

類はつくしを抱き上げると、隣接へと続くドアを開けた。
そこは、休憩室のようでソファベッドと冷蔵庫、テーブルのみが部屋には置かれていた。
つくしをソファベッドにゆっくりと下ろすと、類は服を脱がしていく。

「こういう格好も煽情的でいいね」

スカートとストッキングを脱がされて、ショーツも取り去ると、つくしが下生えを隠すようにブラウスを引っ張った。
つくしの手を退けると、太ももを大きく開いていく。

「やぁっ…」

恥ずかしさから身を捩るが、大きく開かれた足はビクともしない。

「よく見せてくれないと、可愛がってあげないよ?」

類にそう言われると、つくしの足から力が抜けた。
その様子にフッと笑みを浮かべると、開いた足の間に頭を埋めていった。

「あぁぁん!あっ、あっ…はぁ」
「ココ…もうイキそうなぐらいヒクヒクしてる」

類の宣言通り、プッツリと立ち上がった突起をチロチロと舐めると、つくしの身体が大きく震えた。

「ああぁぁっ!!…ん、はぁっ…はぁ」
「ここからは邸に帰ってからしてあげるから…我慢して」
「類…」

つくしは酷いというように視線を向けるが、この場でつくしを抱きたいのは類とて同じだ。
しかし、最近夜になると眠いと目を擦り、妊婦としての体調の変化に戸惑っているつくしに無理強いは出来ない。

そもそも会社で仕掛けたのは類であるが、最後までするつもりは始めからなかった。
しかし、すでに限界まで勃ち上がった自身を治めるのはかなりの忍耐が必要だ。

「類…あたし…類にも我慢して欲しくない」

つくしは類の状態を気付いた上で、そう言ってくる。

「午後も仕事出来る?疲れちゃうんじゃない?」
「じゃあ…口でする、から」

お願いと甘えるように、ベッドで類を誘うつくしを前に我慢など出来るわけがなかった。

タイムリミットはあと、40分…。
類は時計を見ると、何とか理性を保ちながら、待ち侘びるつくしへと深く口付けた。


***


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月に叢雲花に風 6

月に叢雲花に風 6



エレベーターが30階に着くと、ちょうどエレベーターホールに歩いて来た山村と会った。

「ああ、奥様…。わざわざご足労頂きまして申し訳ありません」
「いえ。常務の部屋は…」
「こちら側になります。では、私はこれで…。1時間したら伺いますね」

エレベーターホールを挟んで東西に会長、常務の役員室があり、その他の部屋は秘書室や休憩室、会議室となっていた。
つくしが部屋のドアをノックすると、入ってと類の声が聞こえた。

「失礼します…」

ドアを開けて中に入ると、類はデスクに座って書類を片手にパソコンに何かを入力していた。

「なんでそんな他人行儀なの?」

手を止めて驚いたようにつくしを見る。

「いや、だって…他の人もいるかもしれないと思って…」
「つくしと約束してるのに、部屋に誰かいれるわけないでしょ?山村にも休憩行かせたし」
「うん。さっき会ったよ」
「そういえば…ちょっと遅くなかった?電話切った後何かあったの?」

類からの内線を受けた後、もちろんすぐに上に向かったのだが、途中20階で降りて一悶着あり、さらにエレベーターをもう一度待って上へ来たことで、それなりに時間が掛かってしまったようだ。

「あ…それがね〜」

つくしは先ほど会った青年の話を類に聞かせた。
しかも青年の慌てふためいた様子を思い出しつい笑ってしまう。
類の機嫌が下降の一途をたどっているとも知らずに。





4年前、つくしと念願叶って両想いになり、そしてスピード結婚をしてやっと自分のものになったのだという安心があった。
そもそも、自分のライバルになるような男は司以外いないと思っていたし、つくしに惚れられている自信もあった。

なのに、結婚生活を振り返ってみれば、予想以上にセレブの男にモテるつくしに、常にヤキモキさせられて、やっと自分の目の届くところに来たと思えば、またこれだ。

他の男のことを、チワワみたいに可愛い男の人でね、動きも犬っぽいのと楽しそうに夫に話す妻。

俺が妬くの分かってて、ワザとそうしてるんじゃないよね?

つくしにそんな器用なことが出来るわけはない。
全て計算で類にヤキモチを妬かせる為の行動だとしたら、どれだけ楽か。

「ね…つくし?」
「うん?何?」

そんなことを考えていた類に、ふとある考えが過る。

鈍感過ぎるのも、罪だよね…。

自身の容姿が人よりかなり優れていることは、とうに分かっていた。
類としてはまるで興味はなかったが、高等部時代自分たちが女にあれだけ騒がれていたのは、経済力とその容姿にあったのだろう。

類を初恋の相手だとするつくしでさえも、初めは類の容姿に惹かれたのだ。
つくしに対して自身の顔付きが武器になるのならば、それを最大限に生かさない手はない。

「キスして?」

下唇を舌で舐めながら強烈な色香を漂わせて、あくまでも″お願い″する。
つくしは予想通りチワワの話を止めて、顔を真っ赤にすると、恥ずかしそうにモジモジし始めた。

「ね、おいで?」

類は椅子に腰掛けたまま、つくしの手を取った。
だが、無理やり引き寄せるようなことはしない。
つくしから来させなければ意味がない。

「お弁当…食べない…の?」

首を傾げながら案の定のセリフ。

「キスしてくれたら…食べようかな」
「ずるい…」

口を尖らせてそう言う顔は、強烈なぐらい可愛い。
つくしが諦めたように、類の側に立つ。
ゆっくりと形のいいふっくらとした唇が降りてきた。


***

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今日はお休みします

いつも読んでくださりありがとうございます!

バタバタしてて更新出来ませんでした(^^;;

楽しみに待っていてくださった方スミマセン!
この忙しさ…来週は落ち着くといいんですけど(^^;;


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月に叢雲花に風 5

月に叢雲花に風 5



「お待たせしました!花沢です」
『つくし?なんか息荒くない?走ったりしてないよね?』
「し、してないよ…?」

類のことだ、つくしの顔を見れば嘘などすぐに見破るのだろうが、電話でも分かりやすい程に動揺している様子にバレないわけはない。

「走って転んだりしたら危ないよ?」
「うん…分かってる。ごめん…」
「今日12時に上来れる?前に来たことあるよね?」
「あ〜あの時はまだ、28階だったよ?30階も一緒?会長の部屋もあるんでしょ?」

つくしがまだ学生の頃、類にお弁当を持って来たことがある。
その記憶を思い起こすと、28階の役員室でのあれやこれやを思い出してしまい、つい電話をしながらも赤くなる頬を抑えることが出来なかった。

「ああ、そう言えばそうだったね」

クスッと類もまた何かを含んだように笑う。

「じゃ、じゃあっ!12時に上に行くねっ!」

つくしはそれだけ言うと、類の返事を待たずに受話器を置いた。





そしてもうすぐ昼になろうかという時間。
つくしは類との待ち合わせの為に席を立った。

本社ビルの15階から24階までは、花沢のグループ会社が多数入っている。
そして25階より上が役員室だ。
1階からは役員専用のエレベーターがあり、25階より上にしか停まらない。
つくしがflowerfoodが入る15階から30階に行こうとすれば、各階停止のエレベーターしかないのだ。

始めは類が15階に来ると言っていたのだが、それはあまりに目立つ。
同じエレベーターに乗り合わせた社員が気の毒で目も当てられない。
そこで、つくしが上へ行くことでやっと納得した。

エレベーターホールの中央に位置する上下の呼び出しボタンを押すと、6基あるエレベーターのうち1基がすぐに到着した。
そして、つくしが30という階数を押すと、同じエレベーターに乗ってきた他の社員たちがチラチラとつくしを見る。

この視線に慣れることなんて、一生ないと思う…。

つくしは移転後1日目から、早くも重いため息を吐いた。

本社の面々、上役の方々とは類を通して会う機会も多く名前も顔も頭に入っているが、グループ会社となると顔をあわせる機会すら滅多にない。
flowerfoodの社員たちが類の顔を知らなかったように、グループ会社のほとんどの者が本社役員の顔など知る由もないしその妻となれば尚更だ。

エレベーターが20階に停まった時、目の前に立つ書類を持った男性の手から1枚の小さな紙が落ちた。
そして気が付かずにエレベーターを降りて行ってしまう。

あっ、と思った時には体が動いていた。

「これっ!落としましたよ!」

つくしは足早に歩く男性に声を掛けると、拾った紙を差し出した。

「あ、あっ!すみません!ありがとう…ございま…す…」

つくしと同じ歳ぐらいであろうか、慌てたようにワタワタとする青年は、つくしの顔を見ると頬を赤らめた。

つくしは、今時珍しいくらいの清楚系で、薄化粧を施している顔にはニキビ1つない。
白い肌に少しだけ火照ったように、頬がピンク色に染まっている。
それはただ、男性の落し物を届けなければと少し急いで歩いたからであるが、男性はその表情から目が離せない。
サラリと流れる黒髪は艶があり、つい触りたくなってしまう。
それが、分かりやすいぐらいに顔に出ていた青年は、相手がつくしでなかったのならば、今日中にカップル成立になっていたかもしれない。

「あの?」

いつまで経っても自分の落とした書類を受け取ろうとしない青年に、つくしは困ったように声を掛けた。

「はっ、はいっ!」

青年はまさか話し掛けられるとは思わずに、両手をピシッと腿に付け直立不動のポーズをとった。

可愛い人だなぁ…。

男に形容する言葉ではないが、青年はそれ程に可愛らしい顔立ちをしていた。
例えるなら人間版チワワのようで、大きな瞳に少し癖っ毛のありそうな黒髪は、耳の下辺りまで伸びている。
可愛らしい顔付きとはいえ、背格好はそれなりで類よりかは少し低いだろう身長と、骨張った大きな手が男性らしく見せていた。

「これ、落としましたよ?」
「あっ!そうでした!すみません…」
「あははっ!大丈夫ですかっ!?」

つくしが堪らずに笑い出すと、青年も恥ずかしそうに頭をポリポリと書きながら笑みを浮かべた。


***


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月に叢雲花に風 4

月に叢雲花に風 4



「おはようございまーす!今日からまたよろしくお願いします」

flowerfood移転後初めて15階のフロアを訪れると、以前の少し古めかしい社内は一変し、机や椅子までもが新しい物へと変えられていた。
今日1日はデスク周りや倉庫の片付けで、外回りの仕事は誰もいれていない。

「よっ!朝見たぜ〜!常務とイチャイチャしながら出勤してくるとこ」
「木嶋さんっ!イチャイチャなんてしてません!」
「あれが、通常モードですかい…」

木嶋は、はぁとため息を吐きながら、ごちそうさまとぼやいた。

「花沢さん!ちょっと!」

つくしが部長に挨拶に行こうとしていたところ、ちょうどタイミングよく部長本人からお呼びがかかった。

社長と営業部長には、類本人からつくしの妊娠のことを話したようだが、他の同僚たちにはまだ話せていない。
島崎は飲み会の際に気が付き、つくしの身分を考え誰にも言わないでいてくれた。
しかし、営業職から営業事務へと仕事を変えてもらうことになるのだから、同じ部署の全員にきちんと報告しなければならない。

幸い、3月で辞めることになると思っていたこともあり、つくしが持っていた仕事は全て木嶋や他の同僚へと引き継ぎ済みだ。

「部長、おはようございます」
「おはよう。花沢常務から聞いたよ。まずは…おめでとう」

祝いの言葉を述べる部長が、いかんとも言い難い表情を浮かべるのは、営業へと復帰してくれるはずのつくしが、内勤へと変わったことに対するものだろう。
余りあるツテと元来の性格が幸いして、稼ぎ頭と言えるほど営業成績はトップクラスだった。
ドラマのように営業成績を壁に貼りだしたりはしなくとも、部長を始め営業部の同僚たちはつくしの仕事っぷりを敬していた。

「ありがとうございます」
「これから産休に入るまでは、営業事務としての仕事をしてもらうことになるが、君はどういう仕事でもよく出来るから心配はしていない。体調に気を付けて頑張って」
「はい!…あの、妊娠したことと営業事務として働くことをきちんと皆さんに言いたいんですけど…」
「ああ、そうだね…。じゃあ朝礼の時にでも挨拶してくれるかい?」

始業開始の9時になると、部長の号令で朝礼が始まった。
そこで、つくしは妊娠したこと、これからは営業事務として皆のことを影ながら支えていきたいということを話した。
一様に祝福ムードに包まれた社内に、つくしがほっと息をつく。

実のところ少し不安に思っていたことは確かだ。
部長が微妙な表情をしたように、営業部の面々が妊娠したつくしを受け入れてくれるとは限らない。
営業として復帰するのであれば話は別だが、今までなかった営業事務担当という仕事を作り、そこに妻を在籍させてしまった類の評価が変わってしまうのではないかと懸念していた。

ここに残るのは、あたしの我儘なのに。

しかし営業部の同僚たちは、つくしを上役の妻として見ることはなく、一同僚として対等に接してくれる。
それが本当に嬉しかった。

全員が各々片付けへと入っていく中、つくしも手の足りていないところを手伝いに行こうかと考えていると、島崎においでと手招きされる。

「はい、これ。鞄にでも着けて?駅で配ってることが多いんだけど、花沢さん殆ど電車乗らないでしょ?だから、貰ってきたの」

島崎に渡されたのはマタニティマークだった。
妊娠の自覚があまりないつくしだったが、お腹に赤ちゃんがいますと書いてあるキーホルダーを受け取ると、何故だか嬉しさで涙が出そうだ。

「ありがとうございます…」

「ほんと、良かったわね…。何か出産に不安に思うことがあったら相談に乗るわよ?これでも子持ちだからね」
「ふふっ、これでもって…ちゃんとお母さんに見えますよ〜?旦那さんのこともお子さんのことも大好きですもんね」
「あら、バレちゃった?まあ、花沢さんには力になってくれる人がたくさんいるってこと…覚えておいてね?」

つくしが常務の妻と知った後、気まずい空気が流れる中、一番先に話しかけてくれたのは島崎だった。
自分は周りの人間に恵まれている…そのことが痛いほどによく分かる。





つくしのデスク周りだけは朝出社した時すでに綺麗な状態であった為に、午前中は倉庫の資料整理などを手伝っていた。

「花沢さ〜ん!内線鳴ってるよ〜!」
「あっ、はーい!」

いつもの癖で倉庫から走り出そうとしたつくしを止めたのは、一緒に倉庫整理をしていた既婚者の面々だった。

「花沢さんっ!走らないで〜妊婦でしょ!」
「怖いなぁ〜こっちがハラハラするよ」
「あっ!ごめんなさい!」

元々高いヒールを履くのはパーティの時だけで、あとは高くても2〜3センチが多かった。
常日頃から走ることを前提に低いヒールを履いているわけではもちろんないのだが、まだ妊婦だという自覚が足りないのかもしれない。

つくしは下腹部を撫でると、鳴り続ける電話へと手を伸ばした。



***


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現在はオリジナルばっかりになってしまったなぁ。

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