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幸せの決断 9

幸せの決断 9


つくしの調査書に目を通し終わると、明日からの出張の準備を進める。
準備と言ってもホテルに泊まるのだから、スーツを何着かだけでそれは殆ど使用人任せだった。
類は調査書を手に取ると携帯を操作して電話を掛ける。

「俺…ああ、久しぶり。あきら…頼みがあるんだ…」




藤崎は仕事帰りにいつものバーのカウンターで1人酒を嗜んでいた。

妻のつくしのことは、6年経っても変わらずに昔と同じ気持ちで可愛いと思っているし、愛していると胸を張って言えるだろう。
しかし、外で働く男にはどうやっても家に帰れば1人の時間はなくなり、それがストレスになってしまうことも否めない。
つくしといることがストレスなわけでは勿論ない。
1人になれないことがストレスなのだ。

それでも、結婚したことを後悔したことなどはないのだから、少しの不自由さもまた幸福だと思う。

妻は藤崎が夜どこかで飲んで家に帰ろうと、友人たちと遊びに行こうと、遅くなると連絡さえすれば煩くいうことは全くなかった。
そして、干渉してくるようなこともなかったから、時間が許せば行きつけのバーで一杯飲んで帰ることが常となっていて、今日の夜もそれは変わらない。

しかし、いつもと変わることと言えば、藤崎が座るカウンター席から3席離れた椅子に若そうな女性客が座っていることだ。
薄暗い店内はジャズが程良い音量で流れていて、店の端に置かれているグランドピアノで生演奏が聞ける日もある。
店の雰囲気と決して安くない酒のせいか年齢層の高い客が多く、若い女性客は珍しかった。
いつも藤崎と話しているマスターは、今日はその女性客に取られてしまったと1人酒をチビチビ飲んでいると、聞くつもりはなくとも話の内容が耳に入ってくる。

「外に出るのが好きだから、アウトドア系がいいかなと思ってるんですけど…」
「アウトドア…そうだな…キャンプとか、釣りとか…あっ、ゴルフとかは!?藤崎さんゴルフ詳しいですよね?」

急にマスターに話を振られ驚いて2人へと視線を向けた。
何気なしに聞いていた会話で女性は何か特技となる趣味を見つけたい…そのような会話をしていたように思う。

「へ〜そうなんですか?面白いですか?」
「そうだね。面白いけど…ラウンドデビューするには初期投資に結構掛かるから、初めはゴルフスクールとかゴルフバーとかで練習するといいかもね」

藤崎は女性に割りと気に入られるタイプの彫りの深い顔立ちをしていて、180近くある身長もその一因になっているという自覚があった。
1代で会社を大きくしただけあって社交性に関しては、トップ営業マンも敵わない程だ。
連れて行って欲しい…女性客にそう言われるような気がして、学生の頃はモテることに喜びを感じていたこともあったが、女性の本質を知ってしまえばそれは煩わしいものでしかなく、迷惑そうな表情になってしまうのは仕方のないことだろう。

「ゴルフスクールって、打ちっぱなしとかにあるところですか?」

予想通り女性客は藤崎に向き直ると、話に食いついてきた。
もう一杯ぐらい飲みたかったが適当なところで帰るかと、マスターに勘定を頼む。

「そうだね…この辺りだと、車で15分くらい行ったところの国道沿いにあるよ」

藤崎自身もよく行く場所を教えたのはまずかったかと思い直すが、まさか本当に会うことはないだろう。

「そうですか。ありがとうございます。ちょっと自分でも調べてみて興味持てそうだったら行ってみます」

藤崎の思いとは裏腹に、あっさりと引き下がった女は、その後も藤崎に特に興味を示すこともなくマスターとキャンプの話で盛り上がっている。
自意識過剰過ぎたかとホッとするが、藤崎の見た目で寄ってこない女性は2人目だった。
もちろん1人目は、今の妻であるつくしなのだが、結婚後も見た目とステータスに惹かれて寄ってくる女が後を絶たず、毎回ウンザリしていた藤崎にとっては、年若い女性客との出会いは人生で2回目の衝撃的な出会いだった。



藤崎は時間があれば毎週でもラウンドを回りたい…と思うほどのゴルフ通だった。
バーで偶然ではあるが女性客にゴルフの話を振られたことで、最近忙しさから行けていないことを思い出し、仕事の合間か終わった後少し体を動かすかと打ちっ放しへと足を向けたのだ。

「あれ…君は…」

靴を履き替えていると、目の前のベンチに座った女性に見覚えがあり、つい口に出してしまった。
藤崎にとっては印象深かったのだ。

「はい…?」

会ったのは昨日のことだと思うが、女性は藤崎を覚えていなかったようで、誰だったかを思い出すように、目をキョロキョロとさせた。
その姿がつくしとどこか似ていて、つい藤崎は笑ってしまった。

「あ、すまない。昨日のバーでゴルフの練習場、ここを進めたのは俺だよ?」
「あ、ああっ!昨日の!?」

大きな瞳をさらに大きく見開いて、漸く思い出したと手をポンと叩く。
藤崎を前にしても着飾らないその態度には好感が持てた。

「趣味、ゴルフにしたんだね。どう?楽しい?」
「そうですね…スクールに入ってみたんで、結構楽しいです!コーチに毎日教えて欲しいぐらいですよ」
「そう…良かった。ラウンドデビューはまだまだ先かな?」
「はい、これから続けるにしても、まだ自分のゴルフクラブも持ってないので、まずは道具を揃えないといけないですね」

昨夜、特に藤崎に興味を持たなかったからか、ガツガツとくる女性には十分に気を付けているのだが、この手のタイプには気が緩みがちになってしまう。
だから、知り合ったばかりの女性に、普段なら絶対に言わないことを言ってしまった。

「初心者用揃えるなら、いい店教えようか?」
「いえいえ、そこまでお世話になるわけにはいきませんから…」

女性はやはり恐縮したように藤崎の申し出を断る。
そうされると余計に、自分の得意分野でもあるのだから何とかしてやらなければ…そう思ってしまった。

「知り合ったついでだし、気にすることはないよ。これからちょうど店に行こうと思ってたんだ。買う買わない別にして、場所だけ教えようか?」
「あ〜ごめんなさい。今日はこの後ちょっと予定があって…後日なら是非お願いしたいところなんですけど…ってすみません!その方が図々しいですよね!」

女性は自分の言ったことに驚いて口元を押さえる。
藤崎の誘いを断るときは、本当に申し訳なさそうな表情、謝るときは慌てた表情でコロコロと表情を変える女性に、つい魔が差した。

「じゃあ、後日…にしようか」



『類?何だよ…久しぶりだな。おまえから頼みごとって珍し過ぎて怖いぜ…』
「女、紹介してくんない?」
『はぁっ!?おまえが女!?マジでどうした?』

あきらの声は電話越しでも相当驚いているのが分かるほどの声量で、類は思わず携帯を耳から離した。

「うるさいよ、あきら。しかも誤解だし。いい…?清楚系で黒髪、明るくて押し付けがましくない、ゴルフ好きもしくは趣味アウトドア系。口の固い女。いる?」
『おいおい…犯罪は勘弁してくれよ?』
「そんなバカじゃないよ。取り戻すだけだ…俺の…」
『俺の?』

類は電話ごしでフッと笑うと、じゃあ頼んだと言って電話を切った。

***


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LOVE LOVE LOVE

LOVE LOVE LOVE

司BD記念 初のつかつく?です。
短編1話完結です。
これ本当につかつくだと思いますか?(笑)
だって類が大好きなんです…(^^;;



何で?どうして?信じらんない!

つくしの頭の中にはずっと同じ言葉がグルグルと回っていて、眉間にはシワが寄っている。

自分でも可愛くないとは思う。
でも、やり過ぎなのはあいつの方。

教室移動のため教科書を持ち廊下を歩いていると、下を見ながらブツブツ言っていたつくしは勢いよく誰かにぶつかってしまう。

「った…ご、ごめんなさい!前見てなくて…」
「…その顔あんたの趣味?」
「は、花沢類っ!」

類のすぐ後ろは柱になっていて、もしぶつかったのが類でなかったならば、つくしは頭を強打していたに違いない。
ぼーっとしながら歩いていたつくしを、わざと受け止めてくれたのだと思えるぐらい類とつくしの仲は良かった。

「いるよね…こういう小動物…おもしろっ…ぶふっ…」

類はつくしの眉間に手をやると、指でグリグリと押しながら笑い出す。

「あたしで遊ばないでよっ…もう、元はと言えばっ…」

類のせい…ではない。

しかし、あいつとのケンカは花沢類とあたしの関係が原因と言えるーーー。

「元はと言えば?何?」
「何でもない…」
「ああ、司?さっき暴れてた…またケンカしたんだ?」

何でもお見通しかこのやろうと言いたげな目付きで類を見やると、またしてもつくしの表情が可笑しかったのか肩を震わせて笑っている。

「う…だって…」
「ほら、場所移動するよ…」

さりげなくつくしの腰を支え、いつもの非常階段へと誘導する様は流石としか言えない。
非常階段のドアを開け、誰もいないことを確認すると類が口火を切った。

「で…どうしたの?」
「花沢類〜っ」

目に涙を浮かべながら類に泣きつき、そしていつものごとく、司の愚痴を聞かせることになるのだ。

「あたしだってさ…言い方とか可愛くないと思うよ?でもさ、消しゴム拾ってくれた人にお礼言うぐらいで怒るって何?しかもさ、関係ないのにまた類のこと持ち出して、俺に隠れて密会してるだの何だの…」
「ああ、密会ってこういうの?」
「そう…色んな男に色目使ってるとかの話から、類と非常階段で何してんだって…あたしたちに何かあるわけないじゃん!親友のこと信じらんないのかな?」
「司のこと嫌いになった?」
「な、らないけど…」
「だよね…俺に司のこと愚痴ってる時のあんた可愛いもん。司が妬くの分かるよ、俺なら好きな女のこんな可愛い顔…他の男に見せたくない」

類がつくしの前髪をかき分けるように撫でると、つくしの頬は見る見るうちに赤く染まっていく。

「も…そんな冗談言わないでよっ!」
「じゃあ俺の前でそんな顔しないほうがいいんじゃない?大丈夫だって…司はあんたの素直じゃないところ引っくるめて好きになったんだから。でも、あいつは王様だから譲るとこはあんたが譲ってやんないと、またケンカになるよ」
「ん…分かってる…。ありがと、花沢類」

つくしがため息を吐きながら渋々ポケットから携帯を取り出すと、タイミングよくつくしの携帯が震えた。

「司?」
「うん…」
「じゃ、俺行くから」

類は階段の踊り場に背を向けると、ヒラヒラとつくしに手を振り階段を降りる。

「花沢類…ありがと」
「…司が嫉妬しなくなったら、あんたの方が寂しいんじゃない?じゃあね」

つくしが類の後ろ姿に声を掛けると、一度だけ振り返り意味深な言葉を残して去って行った。

「はい…道明寺?」
『遅えよっ、俺をいつまで待たせる気だ!』

いつまででも待ってろっ、と言いそうになった口にチャックを閉めて、これ以上ケンカにならないために、つくしも真面目に話をすることにした。

「あのね…さっき、ちょっと…言い過ぎた、ごめん」
『おっ…お、おぉ…』

つくしが謝ることなど滅多にないことだが、ごめんという一言…それだけのことなのに、電話ごしの司の機嫌が元に戻っていくのがつくしにも分かった。

「ほんとに…花沢類とは何でもないから…」
『分かってるよ…お前が本当に類とどうこうって思ってるわけじゃねぇ』
「そうなの?あんた、事あるごとに類とのこと持ち出してくるから…」
『つうか、お前今どこにいんだよ?』

電話の向こうから聞こえてくる司の息遣いで、司が歩いているのが分かる。
もしかしたら、つくしの居場所を探していたのかもしれない。

「どこって…いつもの、とこ?」
『いつものって…お前また類といんじゃねえだろうな!?』
「いないよっ…い、まは…?」
『あぁっ!?牧野…そこ動くなよ…?』
「えっ!?」

ブツッと音を立て着信が切られると、つくしの中でまた沸々と嫌な予感が湧き上がる。
携帯をポケットにしまうと、階段を上ってくる足音が聞こえ非常階段のドアが開いた。

「あれ、牧野まだいたんだ?」
「は、花沢類っ!」

どうしてこう、決して勘のよくない自分の、悪い予感だけは当たってしまうのだろう。

「司と仲直り出来た?あ、あった」

類は非常階段にマフラーを忘れていたようで、首にマフラーを巻くと先ほどと同じようにつくしの隣に座った。

「ちょ、ちょ、ちょ…今はマズいかも!」
「何が?…ぶっ、あんたまた変な顔になってるよ…」

つくしの頬を摘まんでフニフニと持ち上げる。

「もうっ!止めてってば!嫁の貰い手がなくなったらどうしてくれんのよ!」
「だから、司に振られたら俺が貰ってあげるってば」

類がつくしの頬を両手で包み顔を近付けると、口を尖らせ怒る。

「そういう意味じゃなーい!!」

類の胸をポカッと殴ると、当たり前のようにそれを受け止めて逆に腕を取られてしまう。
それは、いつもと同じようなやり取りなのだが…。

「お前ら…何やってんだ…?」

地を這うような低い声で、非常階段のドアを開けた司が仁王立ちしていた。
類は全く驚いてもいないようだったが、つくしの心境はまさに鷹の前の雀、猫の前の鼠、蛇に睨まれた蛙だった。


なんでこうなるの〜っ!!



fin


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幸せの決断 8

幸せの決断 8



間近に感じた類の香りが、触れられた首筋が熱を帯びて、きっと今の自分の顔を見たら類にだって気付かれてしまう。
類が席を立ってくれてよかった…そうでなければ、つくしが席を立っていただろう。
それほど、今のつくしは物欲しそうな顔をしているに違いなかった。

藤崎に昨夜痕を付けられていたことなど、全く気が付かなかった。
類はそれを見たから、どこかおかしかったのだろうか。
もし、嫉妬だったら…そう思うと、堪らなく嬉しいと感じる自分が本当に嫌だった。
類に会えば、会うだけ好きになり、7年前に何のために逃げ出したのかさえ分からなくなりそうだ。
もう自分の気持ちが止められない。
藤崎に対して申し訳ない気持ち、騙しているような罪悪感がごちゃ混ぜになり、いっそつくしのことを見限ってくれればいいのにとさえ思う。

この日去り際に類がつくしの手の中に残したチケットは、1週間後の土日を挟んで明けた月曜日の指定席だった。
藤崎の仕事や休みの日を伝えた覚えはないから、きっと調べたのだろうと思う。
類と再会したった3日しか経っていない。
その前は7年間も会っていなかったというのに、1週間以上会えない、そう思うだけで切なく泣きそうなほど愛しい人の顔ばかりが思い浮かぶのだ。



つくしがボンヤリとしたまま1週間を終えた日のことだった。
あと土日を過ごせば類に会える、そう思うと少しだけ気分が浮上し、家事にも力が入る。

つくしが夕食の準備をしながら、軽く部屋を片付けていると、玄関から鍵の開く音がする。

「おかえりなさい…こんなに早く帰って来られるの珍しいね」
「ただいま。やっと仕事が落ち着いてきたからね」

つくしがスーツのジャケットを預かると藤崎のポケットに携帯が入っていた。
携帯を返そうと、つくしがポケットに手を入れると、何故か藤崎は慌てたようにつくしからジャケットを奪い取る。

「ご、ごめんっ。夕食の準備中だったんだろ?自分でやるからいいよ」
「そう…?じゃあお願い」

つくしが若干不審に思いながらもキッチンに戻ると、藤崎はジャケット片手に寝室へ入って行った。
着替えをしリビングに戻ってきた時には、いつもと同じ様子で2人夕食を摂った。

「あ、そうだ。俺、明日ちょっと出掛けるから」
「ふうん、飲み?」

つくしが飲みかと聞いたのは、夕食を食べるかどうかを聞きたい為で、決して土曜に出掛けるという藤崎を責めている訳ではない。

「え……」

それなのにつくしの質問を予想外とでも言うように藤崎は固まっている。
つくしも友人と休みの日に会うことだってある、藤崎とてそれは変わらないのだから、結婚して6年になるがそれは互いに尊重し合ってきた。
誰とどこに出掛けるかも聞いたことはないように思う。

「あ…ちょっと、仕事関係で知り合った人と飲むことになってさ…。本当は行きたくないんだけど…断れなくて。ごめんな」

元々勘のいい方ではないつくしでも、今日の藤崎はおかしいと感じるには十分の答えだった。
土曜日に出掛けることを謝ったことなど、未だかつて一度だってないし、毎日忙しく働いてくれている藤崎に謝られてしまうと、つくしもどうしていいのか分からなくなる。

「い…いいよ。そんな謝らないで!じゃあご飯はいらない?」
「ああ、食べてくるよ」

藤崎の違和感のある態度から、相手は女性なのかと思ったが、つくしにとって藤崎は十分過ぎる程に出来た夫であったし、それよりもつくし自身の罪悪感もあり藤崎に何も言うことは出来なかった。

そして、土曜日の夕方に出掛けた藤崎は日曜の朝まで帰らなかった。


***

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3人の日常 15

3人の日常 15


やはり、蓮も1歳になり親しい間柄だけの顔合わせでは済まなくなった。
内輪だけのパーティーのあと蓮の関係各所へのお披露目は盛大に行われた。
それこそ、つくしの苦手とするパーティーであったが、それはこの世界に生まれついてしまった以上蓮の宿命であるのだろう。
1歳児へのプレゼントとはとても思えない、船や車、別荘地などを次から次へと贈られると、F3のプレゼントがまだ常識の範囲内に思えてくるのだから不思議なものである。
いや、金額的には総檜造りの戸建ての方が値は張るだろうが、一応はプレイハウスなのだから1歳の子どもでも活用法はあるのだ。
1歳の子どもに本物の船や車を与えてどうしろというのか、高ければなんでもいいと思っているのかは分からないが、それもまた使わずに花沢家の倉庫に眠ることになるのが分かりきっている。

つくしがプレゼントの整理をしながら、ブツブツと文句を言っていると、佐原が部屋のドアをノックした。

「つくし様、いらっしゃいましたよ」
「あ、はい!今行きます!」

今日は大事な来客があるのに、つい片付け始めると1つのことに集中し過ぎて時間を忘れてしまう。
手伝うと言ってくれた使用人にも、また後でと断りを入れるとつくしは客の待つリビングへと向かった。

「お久しぶりです〜!」
「あっ、花沢さ〜ん!!お招きありがとう。ケーキ買ってきたの。あとで食べましょ?」

相変わらずのテンションの高さで島崎が言うと、口を挟めない男性陣が苦笑しながら会釈する。

「うわぁ、ありがとうございます!木嶋さんも剛くんも来てくれてありがとうございます!っていうか、何でスーツ何ですか?」

つくしがケーキを覗き込んで目を輝かせると、島崎の後ろに立つ木嶋と佐藤にも声を掛けた。

「おいおい…後輩の家だけど、俺たちにとっちゃ上司…いや、社長の家みたいなもんなんだから、当たり前だろ?」

木嶋が言うと、佐藤も相変わらずの人懐っこい笑顔を浮かべて頷いた。

「あははっ、気を使うかなと思って類を追い出しておいて正解だったかな?」
「えっ!?ほんとに!?常務追い出されちゃったの?」

島崎が若干残念そうに口を尖らせるが、つくしとしてもこのメンバーだと確実に島崎に遊ばれることも分かっていてそうしたのだ。

「いやいや、追い出したっていうか。たまたま類の悪友たちが飲みの誘いに来てて、たまには外で飲んで来なよ〜って…」

花沢家ではどうやら夫よりも妻のほうが立場が強いらしいと木嶋と佐藤は思うが、何故か類の性格を熟知している島崎がニヤリと笑って言った。

「ふふっ、絶対すぐ帰ってくるに1票!」
「俺もそう思う」
「俺も思います…」

つくしは不思議そうに首を傾げる。
近くに立っていた佐原にジェスチャーで座ることを進められると、つくしはやっと立ち話していたことに気付く。

「あっ、すみません!気付かなくって…どうぞ!座ってください」

つくしがリビングのソファへと案内すると、木嶋も佐藤も腰を下ろした。
島崎はキョロキョロと部屋を見渡しつくしに言った。

「ありがとう…そういえば、蓮くんは?」
「居ますよ〜ちょっと今片付けしてたんで、向こうで遊んでるんですけど連れてきますね」

パタパタとつくしが走りながら、廊下の向こうの部屋へ消えると、入れ違いに佐原が4人分の紅茶と子ども用のマグをテーブルに置いた。

「ふふっ、つくし様はいつも走ってますね」
「会社でもそうだったもんな〜」
「確かにね…ぷっ!」

佐原の言葉につくしの人となりを知るメンバーは堪えきれずに笑い出す。
つくしが蓮を連れてリビングに戻ると、佐原を含めた4人が何故か笑っている。

「蓮…皆さんにご挨拶は?…ってどうかしました?」
「いや…家だともっと花沢常務の奥様してんのかと思ったら、会社と同じだなって話」

不思議そうに木嶋たちを見るつくしに、佐藤がフォローを入れた。

「性格はそう変えられないよ〜ほら、蓮…」
「こんちゃ〜」
「可愛い〜!もう歩いてるのね!こんにちは〜お姉ちゃんのこと覚えてるかしら?」
「お姉…?」

木嶋の呟きにすかさず島崎のパンチが飛ぶ。
相変わらずだとつくしは笑った。
会社に新入社員として入社した時からなんら変わらない態度が、つくしを安心させる。
島崎が蓮とおもちゃで遊んでいると、木嶋がつくしを手招きした。

「はい?」
「多分色んなもん貰ってるんだろうから、いらなかったら誰かにあげてくれて構わないんだけどな…これ」

そう言って木嶋がつくしに手渡した紙袋の中には、子ども用の靴が可愛くラッピングされていた。

「ええっ!いいんですか!?可愛い〜!ありがとうございます!あ、誕生日プレゼント?」

どんな物でも手に入る立場にありながら、一万円しない靴1つで本当に嬉しそうに笑う。
木嶋がプレゼントを渡したタイミングで、佐藤も鞄からラッピングされた包みを取り出した。

「うん…俺からはこれ。周りに子どもいる人いなくて、何選んでいいのか分からなかったから、島崎さんに相談に乗ってもらって靴下にしたよ」
「剛くんまでっ!うわぁありがとう〜!こういうのがいいよねぇやっぱり!」

花沢家倉庫の整理整頓にウンザリしていたつくしは、温かい気持ちのこもったプレゼントが本当に嬉しく感じた。

「花沢さ〜ん、私からはこれね!ほら、蓮くん楽しそう〜!」

つくしが木嶋と佐藤からのプレゼントを開けて見ていると、島崎と蓮がお皿や鍋におもちゃの野菜を入れて遊んでいた。

「あ、すご〜い!おままごとセット!?」
「男の子もね、おままごと大好きよ?私セレクトいいでしょう?」
「ほんとに!皆さんありがとうございます!蓮、ありがとうしよっか?」

「ありやと…」

蓮がペコッと頭を下げながら、一生懸命ありがとうと言おうとしている様子に、決して子ども好きというわけではない木嶋でさえも涙ぐみそうになってしまった。

「「可愛い!」」




蓮を佐原に預かってもらい、つくしたちがリビングで紅茶を飲みながら話をしていると、窓から類の乗るリムジンが戻ってくるのが見えた。

「あ、類帰って来た…」

つくしが言うと島崎が得意げにニヤリと笑うが、木嶋はため息を吐き天井を見上げた。
また揶揄われる羽目になるのだ。
玄関につくしが出迎えに行き類と2人リビングに戻ると、木嶋たちが立ち上がり頭を下げる。

「お邪魔してます」
「……うん…」

類はチラリと顔を向けるが大して興味もなさそうにソファに座る。
元々つくしが座っていた1人掛けソファに類が座った為に、つくしは3人掛けの木嶋の隣に座ろうとするが、手を引かれ類の座る場所へ倒れ込んでしまう。

「ちょっと…類…?」
「つくしはここ」
「ここって…みんないるんだからっ」

類がつくしを後ろから抱き込むように膝の上に座らせると、当然つくしは類の腕を外そうとする。

「だーめ」

類がつくしを離すわけはなく、ガッチリと抱え込まれてしまっては動くことも出来ない。

「花沢さん気にしないで!私たちなら慣れたから!」

周りに慣れたと言われても、恥ずかしさが消えるわけでもなく、つくしは頬を染めながら口を尖らせる。
それでも仕方なく身体の力を抜いて、類にされるがままになっているのだから、本当はつくしの日常としては慣れたものなのだろう。

「ほら…いいって?」

島崎は嬉しそうに類とつくしの様子を見るとニコニコと笑っていた。
三角関係にも四角関係にもなれずにヤキモキしている木嶋のことを島崎は面白がっている節があるし、一番は何よりこの夫婦のイチャイチャを見たいだけなのだろう。
島崎の性格をよく知る木嶋としては、勘弁してくれとため息を吐きたくなった。

「あ、類!蓮の誕生日プレゼント貰ったの!も〜あたしこういうのが一番嬉しいかも!」
「へぇ、どれ?…あぁ、つくし好きそうだね」

つくしが一度類の膝の上から降りるが、貰ったプレゼントを持って自然にまた膝の上に座り直すところを見ると、この夫婦は客がいようがいなかろうが、きっとこれが日常なのだ。
つい10秒前まで、嫌がっていたのは一体何だったのだろう。

「お礼になるか分からないけど、倉庫に置いてあるプレゼントこの人たちにも配れば?」
「あ、そうだね!島崎さん好きそうなの置いてあるし!」
「……?」

島崎たち3人は取引先から届いたという、倉庫を埋め尽くす蓮の誕生日プレゼントという名目で贈られた、ブランド食器や、バッグや洋服を持ち帰ることになる。

つくしが気持ちの全くこもっていない大量のプレゼントにほとほと困っていた様子で受け取ることにしたが、これでもやっと半分まで減ったのだと言う。
類も子どもの頃から毎年自分の誕生日はウンザリしていたらしいという話を聞くと、類に対してどこか羨望の想いを持っていた木嶋は、金持ちは金持ちで大変なこともあるのだと知った。



帰り道、花沢家のリムジンでの送迎を断り3人で駅までの道を歩く。
駅からは島崎とは逆の電車だった為に、木嶋は佐藤と2人何となく気まずい雰囲気でホームで電車を待っていた。

「木嶋さんは、つくしちゃんに伝えないんですか?」

唐突に佐藤が切り出した話に、さすがあの常務の前でつくしに友達になろうと言う勇気のある男だと思った。
惚けることも出来たが、木嶋も誰かに自分の想いを聞いて欲しかったのかもしれない。

「伝えない。またいつか一緒に働きたいし、いい先輩でもいたいからな」
「辛くないですか?」
「そう言うってことは…佐藤は告ったんだ?」
「伝えましたよ?気持ちを伝えられないでモヤモヤするの嫌ですし、返事はいらないから友達でいてくれ、なんてズルイこと言っちゃいました」

ペロッと舌を出しながらも悪怯れなく言う様子に、本社内では可愛いと評される外見だが、実は一癖も二癖もある男なのかもしれないと木嶋は思った。
佐藤がどんな男であれ、結果は変わらなかったであろうが。

「友人でいたって、今日みたいに見せつけられるのは変わらないですけどね」
「まぁな…つーかこんな話してたって島崎さんにバレたら、あの人喜ばせるだけだぞ」
「…ですね」

片想いの男と降った男の前で、旦那とイチャつくつくしが幸せそうで、そろそろ彼女でも作ろうかなと2人が思ったのは間違いない。


***

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幸せの決断 7

幸せの決断 7


つくしと藤崎さんの絡みが多少あります。
類とじゃないので、見たくない人は冒頭をすっ飛ばしてください。
私も読みたくないのであまり濃くは書いてませんよ〜
目に入っちゃった!いや〜という方、ごめんなさい(^^;;



「……っ、あっ…」

昼に触れた類の手がつくしの身体の奥を熱くする。
何も知らなかった19歳、彼を好きだと思いながらも躊躇いなく触れることが出来たのは、つくしがきっと何も知らない子どもだったから。

類にだけは知られたくなかった。
自分が彼を男として見ていることを、その手で触れて欲しいと、抱きしめて欲しいと思っていること。

「今日…どうした?キスだけで濡れてる…」
「そんなこと…っ、な…んっ」

藤崎と唇を合わせながらも、ニューヨークで一度だけした類とのキスを思い出していた。
藤崎に対して申し訳ないと思いながらも、どうにも止められない自分の想像に酔いながら、つくしは今までにないほどの快楽を得た。




昨日、一昨日と同じ時間仕事を抜け出す類に、さすがに秘書が訝しむが、類にとってはそんなことよりもつくしに会える数時間の方がよほど大事だった。

「専務…3時間で大切な用事というのは終わるんですね?今日もこの時間確保の分、残業になりますから。あと、念のため言っておきますが明日からは出張です」
「分かってるって。それに…俺が少しいないぐらいでどうしようもなくなるような無能な部下はいないしね」

類の言葉に何度目かのため息を吐くと、秘書は慣れたものでさっさと自分の仕事へと戻っていった。
腕時計に目をやると、今出れば予告よりも早く席につけるかもしれない時刻で、類は早足で自室を出て映画館へと車を走らせた。



類の予想通り、やはりつくしは早く来ていて、類の姿を見つけると微かに笑みを浮かべる。
隣の席に腰掛け類も右隣に座るつくしを見るが、つくしの自分では気付きにくい耳の下辺りに赤い痣のようなものを見つけ、類はつくしに会えたことで高くなった自身の体温がスッと下がっていくのを感じた。

昨日は付いていなかったキスマーク、それを誰が付けたのかなど一目瞭然で、きっとつくし自身も気が付いていないだろう。
つくしが結婚していることは分かっている…それでも、自分以外の誰にも触らせたくないと抑えられない程の独占欲が類の心を支配する。

「花沢類…?」

席に着いてもずっと黙ったままの類に、つくしが心配そうな視線を向ける。
類は自身を落ち着かせようと、一呼吸置くとつくしに向き直って微笑んだ。

いつもと同じように笑えているはずだ…。

「俺…明日から出張なんだ」
「そう…どこへ行くの?」
「ロサンゼルスにね。1週間ぐらいで帰ってくるけど……寂しい?」
「何年会ってなかったと思ってんの。寂しいわけないでしょ?」

寂しいと言ってくれるとは思っていないが、類から視線をそらしたつくしの横顔が少し寂しげに見えるのは気のせいではない、と思いたい。

そして、ホールが暗くなり騒めきがおさまると何度目かの予告が始まった。
もう3回も見ているはずの映画はどうしてもラストがどうなるかを見ることが出来ない。
不倫をテーマにした恋愛映画だということは分かるのだが、映画を見ている最中、殆どをつくしの横顔を見て過ごす。
それにつくしも気が付いているはずで、時折目の動きだけで類を気にしてはスクリーンに戻すという動作を繰り返していた。
そして、多分多くの女性たちの涙を誘う親友の死の場面でも、つくしの表情は変わらなかった。
コロコロと表情を変えるところは、さすがに高校時代程ではなかったが、今も変わっていないように思う。
それは、類を意識してだと感じるのは、類自身の願望。
願望だけではなく、つくしもそう思ってくれている筈だと感じるのは、館内が暗くなると同時に繋いだ手がそのまま類の手の中にあることが、類に期待を抱かせる。

頭の中では警鐘が鳴っているのに、もう少しだけ触れてもいいと悪魔の囁きが聞こえる。

暗がりの中、つくしの首筋に類が顔を埋めると、つくしの身体がぴくりと震え、声には出さずに口元を押さえていた。

「……っ」

類が赤い痕の場所を確認するように舌で舐めながら強く吸い付くと、さすがに痛みを感じたのか小さく呻くような声を上げた。

「安心して…あんたの旦那が付けた場所と同じだから」

つくしの耳元で囁くと、類は音を立てないようにつくしを残して映画館を出た。


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幸せの決断 6

幸せの決断 6



類が部下に仕事の殆どを押し付けて、予定通りに映画館に着きホールへ入ると、ライトは煌々と点いていてまだ予告も始まっていなかったが、一番後ろの席にはすでにつくしが座っていた。
昨日はホール内はすでに暗かった為にきちんと見ることのできなかった表情も、階段を登りながらやはり綺麗になったと遠目からでも分かった。
高校の頃はなかった化粧っ気が、大人の女性を感じさせるほどにはあしらわれていて、唇に塗られた薄いピンクのリップも色白の彼女によく似合っていた。

一応待ち合わせをしたのだから、お待たせとでも言えばよいのか、色々考えた末に類が無言で席に着くと、つくしもまた視線だけを類に向けた。

「牧野…いつ結婚したの?」

唐突だったであろうか。
しかしつくしは、左の薬指を見つめどこか納得したように答えた。

「20歳の頃、かな。花沢類は?」
「そう、早いね。俺は未だに独身謳歌中」
「そっか…でも、そろそろ…とか言われるんじゃない?」
「今どき政略結婚もないでしょ?よく知らない女となんて気持ち悪いし」

心底嫌そうな顔で類が言うと、つくしは薄く笑った。

「変わってないね」
「変わらないよ、俺は。昔も…今も。あぁ、昔よりかはずる賢くなったかな?」
「あはは…少年みたいに純粋な花沢類はいなくなっちゃったの?」
「ん…そうかもしれないね。だからこういうことするのかも」

類はつくしの左手を取り、手を軽く握った。
驚いたつくしの手がピクリと震えるが、振り解こうとはしなかった。

「な、に?」
「見て」

つくしは何かを入れられた手の平を開くと、そこには折りたたんだ紙が握らされていた。

「少年みたいに純粋な花沢類だったら、あんたの幸せだけを願っていられたのにね」

つくしが紙を開いていくと、それは明日の同じ時間、同じ座席の映画のチケットだった。



つくしが明日も来てくれる保証などなかった。
一度はうまくいったかもしれないが、いくら昔の友人とはいえ、そもそも結婚しているつくしが何度も類に会おうとする筈がない。
それでも、彼女に会いたいと思う気持ちを止めることなど出来なかった。

類はつくしに会ったその日のうちに、今まで調べずにいたことを、7年間の彼女の全てを調べさせた。
牧野つくし…結婚し藤崎つくしとなったのは20歳の時、それはつくし自身も言っていたが、結婚相手は自分のような生まれた瞬間から自らの運命が決まっているような男ではなく、自らの手で未来を切り開いた男だった。

相変わらず、こういう男によくモテるよねーーー。

調査書を読んでまずそう思ったのは、致し方ない。
類がそう思う程に、いい男だったのだ。

元気だけが取り柄…自身でそう言うぐらいなのだから、つくしの見た目はそこそこなのだろう。
それは、磨けば光る原石でもあったのだが、20歳のつくしは高校卒業時とさほど変わりはしなかったはずだ。
それでも、人を惹きつける何かを持っているのだ。
それは、非凡な日常を送っている者には眩しく、なかなか手に入れられないもの。
だからこそ、欲しいーーー。



つくしが映画のチケットを鞄にしまったことを確認すると、類はもう一度つくしの手を取った。
さすがに2度目ともなるとつくしも警戒していたのだが、今度は本当に強く手を握られてしまう。

「は、花沢類…?」
「ん?」
「て…手っ!」

つくしが慌てて手を解こうとするが、意外に強く手を絡められていて解けない。

「いいじゃん、友達でしょ?」
「友達はこういうことしないと思う…」
「そう?俺はするけど?」

さすがに7年も経って彼がまだつくしのことを好きだと期待していたわけではないが、〝友達″という言葉に傷付いていることに気付かないふりをすることで、誤魔化すしかなかった。

「あ、あたしは…友達とは、しない」
「じゃあ手離していいよ」

そんなつくしの気持ちを見越したように類は握った手の力を緩めると、どうすると聞くようにつくしに微笑みかけた。

「それは…ズルい」
「そうだよ。言ったでしょ?ずる賢くなったって」

間もなくホールは暗くなり、予告が始まった。
つくしは類の手を軽く握ると視線をスクリーンに向ける。
きっと赤くなっているだろう頬を見られなくてよかった。


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幸せの決断 5

幸せの決断 5



映画館からの帰り道、後ろに類がいないことを確認すると、堪えていた涙が堰を切ったように溢れ出す。

「元気そうで、良かった……」

そんな一言じゃ、この気持ちを言い表すことは出来ないけれど。
また会えるなんて思っていなかった。
覚えていてくれるなんて思ってなかった。

友達以上恋人未満の関係だった高校時代の、類との思い出だけは色褪せることなくつくしの中に残っている。
藤崎と一緒にいれば、いつか忘れていくものだと思っていた。
昔こんなことがあってねと笑いながら話せるような日がいつか来ると思っていた。
実際に、19歳の時ほど思い出さなくなっていたのは事実なのだ。
しかし、映画館で彼を見たとき、彼と離れていた7年間がまるでなかったように、あっという間に引き戻されてしまった。
叶わないと分かっていても、会いたくて、側にいたくて、彼を自分だけの人にと願ってしまった。

それが許されないことも分かっているけれど。

彼との壁はどんな高層マンションよりも高い。



司がニューヨークへ行き電話やメールでしか連絡を取れなかった一年間、つくしの側にいたのは類だった。
つくしが寂しがらないように、3日と開けずに非常階段や家に来てくれていた。
つくしは司に申し訳なく思いながらも、類の側にいることを選んだ。
どうせ叶わぬ恋だからと。
好きだと言ってくれた類に、あたしも好きだと言えたらどんなに楽だっただろう。
彼らの絆を見て見ぬ振りして類の胸へ飛び込んでいけたら、どんなに幸せだったか…。

しかし、つくしには類を選ぶことは出来なかった。
司と今後何もなかったように恋人でいられる自信もなかったし、勘のいい男だ、
類を前にした時のつくしの様子ですぐに気付くだろう。
期限は、自分が高校卒業するまで…そう決めていた。
それまでは彼の側にいさせてくださいと、どうか誰も何も気が付かずいつも通りの幸せな日常を送らせてくださいと願っていた。

そして卒業後、つくしには彼らの前から姿を消す選択しかなかったのだ。

彼らにとってはつくしの居場所を探すことなど容易いことであっただろう。
しかし、司も類もそれをしなかった。
つくしが逃げたい理由があるのだと、知ってのことかやはりその程度の女だったと見限られたのかは分からない。

「明日…」

映画館に行けばまた会える…。



つくしの夫である、藤崎英明は大学在学中に会社を立ち上げ、あっという間に上場企業まで上り詰めたベンチャー企業の代表をしている。
主にIT系の仕事が中心になっていて、日本だけではなく海外向けにも商品を開発していることから、つくしのような若く語学力に長けている人材確保を中心に行っている。

つくしが入社した時、藤崎はつくしよりも5つ上の23歳であったが、7年経った今ますます会社は大きく、今や若者が働きたい企業ランキングのトップテンに入るほどだった。
それに伴い藤崎は多忙を極め、つくしを含めた従業員も連日深夜までの作業が続くことになった。
つくしとしては、忙しく働くことは嫌いでなかったし、家事は確かに疎かになってしまった部分はあるが、藤崎もそれを気にするような男ではなかったから、すれ違いの日々が何ヶ月と続いても仕方ないかと思っていたのだ。

しかし、藤崎はそうは思っていなかったようで、そんな生活が1年続いたある日、つくしに仕事を辞めて家に入らないかと藤崎が言った。
トップは藤崎なのだから、つくしの進退などどうにでもなるだろうが、つくしが働くことが好きなことを藤崎も分かっていたのだろう。
申し訳なさそうに、帰って来たら君の顔が見たいのだと懇願するように言ってきた時には、つくしも苦笑せざるを得なかった。
そんなに寂しかったの?なんて、冗談交じりに聞くと、真面目な顔で頷いた藤崎を愛しいと思えたのも本当のことだ。
それは、類に対しての気持ちとはどこか違っているけれど。

結婚して6年、ケンカすることだってあった。
でも、藤崎とはきっと、ずっといい夫婦でいられるだろうと思っていた。


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幸せの決断 4

幸せの決断 4
温かい拍手コメントくださる方、ありがとうございます(*^^*)
返信機能がないので、コメ返出来なくて申し訳ないです(^^;;
楽しみにしてくださるという言葉、とても嬉しく思っております!

***


仮眠を取るために入ったはずの映画館で、まさかという再会をした。
7年経ってもまだ高校生の頃の面影を強く残しながらも、驚くほどに綺麗なっていた彼女に、滅多に表情を変えない類が赤くなりつい凝視してしまった。
ここが映画館で助かったとさえ思った。

眠さからぼんやりと霞みがかったような目の前が、霧が晴れるように一瞬にして色を変える。
目が冴えたからといって、目の前のスクリーンに目がいくはずもなく、映画をジッと見ているつくしの横顔を眺めていた。
黒々と艶のある髪質は変わっていないが、あの頃よりも髪は伸び肩下10センチ程になっていた。
たまに、髪を耳に搔き上げる度に香水とは違う清潔なシャンプーの香りが類の鼻を掠める。

スクリーンにエンディングロールが流れ出し、暗いホール内に人々の話し声が聞こえ出す。
久しぶりと告げた彼女の声は、類が覚えていたものと寸分変わらない。

しかし、何かを耐えるように踵を返す彼女の手を咄嗟に掴んだのは無意識だった。
そして気付くーーー。
彼女の左手の指輪の存在に。

きっと彼女は前のように会ってはくれないという確信。
その時、瞬時に働いた自分の頭を褒めてやりたいぐらいだ。

″明日、同じ時間のこの席で待ってる″

もしかしたら、たまたま偶然会ったように仕組めれば、また会えるのではないかと。

「結婚…か」

自分が身綺麗なわけではないくせに、つくしにそれを求めるのは間違っていることは分かる。
しかし、つくしが自分の知らない誰かと付き合って結婚して、生活を共にしているのだと考えるだけで、堪らなく嫌な感情が芽生えてしまう。
彼女を好きだったのは7年も前のことで、もう忘れたと思っていたのに、一瞬にして7年前に引き戻された。

「ほんと…忘れられるわけ、ない」

無意識に言った自分の言葉が、ずっと心の奥に閉じ込めていたはずの本心。

司と付き合っていた頃、まだ肌の触れ合いがないことはすぐに分かった。
だから、余裕で見守ることが出来ていたのかもしれない。

しかし、今はーーー。

取り敢えず自分のすることは、明日のこの時間を何としても空けさせること、それだけだ。
類はつくしのいなくなった隣の席を見つめ、漸く立ち上がった。

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幸せの決断 3

幸せの決断 3



つくしがワイドショーを見られる・平日に映画館に行ける・暇を潰す…ことで、専業主婦であること。そしてそれなりに裕福であることを書いているつもりなのですが…伝わるか心配です(笑)

***


時間を潰す為に入ったとしても、映画館のチケット代はつくしにとってはそれなりに高い。
夫である藤崎にとっては痛くも痒くもない金額であろうが、つくしの金銭感覚は結婚前と何1つ変わってはいなかった。
1,800円も払うのだから、出来れば大ヒットというだけに、面白いといいなと期待していた。
時間的にもちょうど良く、入って5分もしないうちにホールは暗くなり予告が始まった。

最近CMでもよくやっている、コミックが原作である恋愛映画や、母親と息子のヒューマンドラマ、熊が主役で暴れ回るコメディの予告編が流れる。
家でもよく、ワイドショーやゴールデンの時間帯のテレビをよく見るためか、予告で流れる映画の殆どを1度はCMで目にしていたように思う。

そろそろ、本編が始まるかという頃、空いていた両脇の左側に背の高い男性が立っていた。
1番後ろの席であるから、他の人の迷惑になることはないがかなり背が高いことが気になり、何気なしにつくしは男性に視線を向けると、自分の心臓が物凄い音を立てて跳ねた。

「は…」

花沢類…そう言おうとして、口に手を当てたのは正解だった。
ちょうど予告が終わり映画が始まる。
言葉を発することは出来なくとも、つくしは彼から目を離すことは出来なかったし、7年ぶりに見る彼もまたつくしを凝視していた。




上映中、スクリーンを見ながらも隣に座る類が気になって仕方がなかった。
もし見られていたらと思うと、一度スクリーンに移した視線を再び彼に向けることも出来ずにいた。
殆ど映画の内容は頭に入ってこないままラストを迎え、結局主人公は夫の元に戻ったのか、それとも恋に落ちた青年と共に生きることを決意したのか、それすらも分からない。

真っ暗なホールを照明が照らし、上映が終わりを告げると、人々は一斉に席を立ち思い思いに感想を口にしながら、出口へと急ぐ。
つくしはその場から動くことをせずに、類に声を掛けた。

「久しぶり…花沢類…」

動揺する自身を抑えられる程には大人になっていたため、普通に言葉をかけることが出来たように思う。

つくしの心境など知る由もない類は、7年経って精悍さを増した美貌で変わらずに微笑む。

「うん。連絡が取れなくなって、7年だ」
「あたしのことなんかよく覚えてたね」

覚えていてくれているか、誰?と言われたら立ち直れないかもしれない、なんてつくしが思っていることを伝えたらどういう顔をするだろう。

「俺が、あんたのこと忘れるわけないでしょ」

いつでもこの人は変わらずにつくしを特別扱いする。
今でも変わらないその態度に、つくしの淡い恋心が再び小さな蕾となり、花を咲かせようとする。

「ごめん…あたし、もう行かないと」

決してそれは許されることではないけれどーーー。

つくしが席を立ち、類とは反対側の座席から出口に向かおうとすると、つくしの左手を類が掴んだ。

「明日、同じ時間のこの席で待ってる」


「来られるか分からない…じゃあね」


***


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幸せの決断 2

幸せの決断 2


彼女が姿を消してから7年、自分の立場を考えなければならなかった、まだ子どもとも言える時代をとうに過ぎ、肩書きに見合った実力があると今では自負している。

彼女は、自分たちに何も言わずに、携帯の番号やメールアドレスさえも変え、卒業と同時に連絡が取れなくなった。
と言っても、当時英徳大学に通っていた類も毎日のように会っていたわけではない。
たまに、空いている時間を見つけては彼女のいる非常階段に行き、穏やかで心地いい時間を過ごしていた。
何も変わらない日常のはずだった。
卒業後は当たり前のように英徳大学に行くのだと思っていたし、司もそのつもりで準備をしていた節があった。

しかし、卒業式を終えてすぐ、彼女は姿を消したーーー。


変わらずに笑うつくしの中に、どんな思いがあり自分たちの元から姿を消したのか、今となっては計り知れないが、彼女が姿を消してから司の元へ一通の手紙が届いたのだと知った。
それは、司への別れの言葉であったのだが、当時の司が寝る間もなく働いていたのはつくしの為の努力だと言っても過言ではなかった。
しかし、つくしと別れることになっても仕事を放り出すことが出来ない程には、司は大人だった。
いや、高校時代のつくしが司をそう変えたのだろう。

つくしと別れようとも否応なしにやってくる仕事に、立場や状況がそれを許さなかったが、司は内心では全てを捨てて彼女を追いかけたかったのだろう。
しかし、司はつくしを探すことをしなかった。
司がそうしないのならと、自分たちも彼女を探すことはしなかったが、たまにしか会うことはなくとも自分たちに見せる表情で、司がどれほど苦しんだのかは分かった。

それも1年経ち、2年経つ頃には鉄壁のポーカーフェースで隠すことが出来るようになっていた。
そして、自分たちの会話の中で牧野つくしという名前はタブーのようになっていった。




司ほどスケジュールをみっちり入れられているわけではなく、ほどほどにサボることも覚えた。
部下に任せることは、部下のモチベーションアップに繋がることもあるし、自分も楽になれるのだから、元々四六時中仕事をするなど冗談じゃないと嘯く類にとっては部下はありがたい存在であるのだ。

平日であったが、相手の都合でキャンセルされた会議のおかげでポッカリと空いてしまった時間に、類は寝る場所を探していた。
邸に帰ることも考えたが、きっと自宅のベッドに入れば朝まで起きはしないだろう自身の性格はよく分かっている。
3時間の為にホテルへ行くのも面倒で、カプセルホテル、漫画喫茶…その存在すら知らないのだから、はなから頭にはない。

「幸せの決断…」

ふと目の前に広がる大きな看板が目を引いた。
内容が気になったわけでも、出演女優が好きなわけでもない。
ただ、寝る為に映画館がいいじゃないかと思い立っただけである。

そして一番近い映画館に入り、類がチケットを買うべくカウンターに並んだ時間、ちょうど始まったばかりの映画が、幸せの決断だった。
時間的にもまだ予告が始まったばかりだろう。
他の映画は、1時間後に始まるものやもうすぐ終わるものばかりで時間が合わなかったのだ。
2〜3時間寝られればどんな内容でも構わなかった為に、チケットを買い類はホールへと向かった。


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ひるなかの流星・花より男子・日々蝶々・君に届け・会長はメイド様の二次小説・創作置き場です。黒バス黄黒、青黒BLも書いております。
現在はオリジナルばっかりになってしまったなぁ。

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