I Miss You 5最終話
I Miss You 5最終話
長い長い夢を見ていた気がする。
深い霧の中を彷徨って、出口の見えない場所にいた。
どこに行けばいいのかも分からずにぼんやりと佇んでいると、どれくらいの時間が経ったのか少しずつ霧が晴れていって、様々な人たちの顔や学校や景色が映る。
夢の中で過去から引き戻されるように、徐々に今に帰ってきていた。
これが夢だと分かっていた、でもどうしてこんな夢を見たんだろうーーー
つくしが目を開けると見たことのある天井の模様が目に入った。
それだけで、今自分がどこにいるのかが分かる。
何度もこの天井の模様見てるからね…
ついには可笑しくなってふふっと声を立てて笑えば、隣でつくしの様子を伺うように見ていた類が心配そうに言った。
「身体、平気…?」
どうして類はこんなにも心配そうな顔をするんだろうと不思議に思う。
類に抱かれることなど、今では当たり前の日常のようなものなのに。
「う、ん…」
つくしが掠れた声で答えると、類は額にキスを落とした。
邸に来ると抱き潰されるという表現が正しいと思うぐらい何時間も抱かれて、気怠い状態のままバイトに行ったこともある。
最近は類の邸でのバイトだったから、余計に調子に乗った類が隙あらば部屋に連れ込もうとするのを、ご飯作らなきゃと言って厨房に逃げ込んでいた。
類とするのが嫌なわけはなかったけど、どうしたってその後顔を合わせる馴染みの使用人の方々の視線が痛い。
痛いと感じているのは自分だけなのも分かっていて、本当は微笑ましく見守ってくれているのだが、類の自室から出た後に本来のバイトのために厨房に寄らなければならない。
シェフに類の部屋で何をしていたのかと想像されていたらと思うと、恥ずかし過ぎて居た堪れないのだ。
つくしの髪を優しく梳く手がまたもやつくしを眠りに誘う。
類の腕の中で微睡んでいると、何も考えたくなくなってしまう。
しかしふと、頭を過ぎった考えがつくしを覚醒させた。
あたし…いつ、大学から帰って来たの?
「あ、れ…?」
大学を出たことは覚えているのに、その後どうやってここに来たのかが全く思い出せない。
類が今日は早く帰ると言っていたから嬉しくて、いつも以上に急いで走っていた。
でも、途中でーーー。
ふとベッドの下を見下ろせば、見慣れたメイド服が落ちていた。
着たまま押し倒されたのは明白で、綺麗に畳まれていないヨレヨレのメイド服を見て赤面するより先に、類に押し倒された覚えがない方が不思議でならない。
「類…あたし、変だよ…覚えてないの…」
つくしが言うと、類は目を見開き不意打ちにあったかのような驚愕の表情でつくしを見つめた。
こんなに驚いた類を初めて見る、確かに自分でも記憶がないことに驚いているが、類のそれは何かが違う。
「思い出したの…?俺のこと…」
「え…なに?だから何であたしがここに居るのか思い出せないんだってば!いつ帰って来たっけ?」
「ちょっと待って…牧野、事故のこと覚えてる?」
急に真顔になった類が身体を起こして、つくしの肩を掴む。
シーツが肌蹴て素肌が露わになると、毎日見てるはずなのに、着痩せしてるのか普段は隠れている厚い胸板やマッチョと言うほどではないけれど、男の人らしい腕につくしは未だにドキッとさせられる。
でも、類の言っている事が分からない。
「事故ってなに?」
「ごめん、俺も落ち着こう…3ヶ月前なんだけど…」
類から聞いた話は衝撃…と言うよりも、すんなりとつくしの中に入って来るものだった。
納得できると言うよりも、一度経験したことだからなのか、丁寧に教えてくれる類の言葉に情景が浮かんでくるようなイメージだ。
ああ、そうだった思い出す、ここに来る時に事故に遭い入院していたのだ。
自分の名前もママの顔すら思い出せなくて、どこか自分のことなのに受け入れられない傍観者のように病院で過ごした。
「すぐ、会いに行けなくて…ごめんな」
切なく眉を寄せ、つくしを抱き締める腕はいつもと同じはずなのに、ごめんと言う類の声が憐憫を含んだものであることにハッとする。
もしかしてとつくしは顔を上げ類を見た。
「…ねえ、類のせいじゃないからね…。あたしが事故に遭ったのは、不注意からだよ。まさか全部忘れちゃうとは思わなかったけど…」
「俺がバイトなんて頼まなければ…」
「違うってば!浮かれてたあたしが悪いの!」
「浮かれてた?」
何のことかと類が首を傾げると、つくしは恥ずかしそうに口を尖らせた。
「あの時…いつもより類が早く帰って来るって言ってたから…何日か忙しくてゆっくり出来なかったでしょ?だから、早く会いたくて急いでた。話す暇はなかったけど、毎日顔は見てたのにね〜バカだよね。車が来るかもしれない道を走って渡ったのはあたし…」
「寂しい思い、させてた?」
「ううん、そうじゃなくて…何だろ、どんどん欲張りになってたのかな。前は1週間会わないことだって普通にあったのに、今は毎日会わないと寂しかったり…声聞かないとすぐ電話したくなっちゃう…」
「じゃあ、俺と一緒だ…」
類はつくしの額にコツンと自分の額をくっ付けた。
お互い裸のままでシーツが腰に巻きついているものの、先ほどからずっと類の腕の中にいる。
本当は凄く久しぶりの腕の中であったことが今なら思い出せる。
「良かったよ…賭けみたいなものだったから、まさか本当に思い出してくれるとは思ってなかった」
「あ、チラシ?」
「そう…進に頼んで牧野の目の付くところに置いておいてもらった」
バイトしないとな、なんて退院早々考えていたらテーブルの上に置いてあったチラシ。
今思えば、怪しいことこの上ない…進の字で〝姉ちゃんへ、いいバイト見つけておいたよ〝なんて書いてあったし、給料もありえない額なのに、どうしてかここに行こうって思ってた。
「類…あたしは自信あるよ…何度忘れてもきっとまた類を好きになるって」
「どうして?俺は全然自信なかったよ」
チュッチュと頬や唇に軽く口付けられて、類の手が背中を彷徨う。
「だって、類はあたしの初恋で一目惚れだもん…」
もっとキスして欲しいなんて言えなくて、類を上目遣いで見つめれば、嬉しそうに唇が塞がれた。
「ん…」
「司と同じこと言うのが気に食わないけどね」
「え…なに、ちょっと、類…ぁ、ん」
もちろんキスだけで終わるはずもなくて、腰に巻いていたシーツを取り払われると、類が覆い被さる。
「3ヶ月ぶりだよ…?もう少し堪能させてよ…」
「な、に…エロ親父みたいな、こと…はぁ…っ」
つくしの首筋に顔を埋めて話す類の言葉は、少しだけ震えてつくしの耳に届いた。
「会いたかったんだよ…あんたに」
fin
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長い長い夢を見ていた気がする。
深い霧の中を彷徨って、出口の見えない場所にいた。
どこに行けばいいのかも分からずにぼんやりと佇んでいると、どれくらいの時間が経ったのか少しずつ霧が晴れていって、様々な人たちの顔や学校や景色が映る。
夢の中で過去から引き戻されるように、徐々に今に帰ってきていた。
これが夢だと分かっていた、でもどうしてこんな夢を見たんだろうーーー
つくしが目を開けると見たことのある天井の模様が目に入った。
それだけで、今自分がどこにいるのかが分かる。
何度もこの天井の模様見てるからね…
ついには可笑しくなってふふっと声を立てて笑えば、隣でつくしの様子を伺うように見ていた類が心配そうに言った。
「身体、平気…?」
どうして類はこんなにも心配そうな顔をするんだろうと不思議に思う。
類に抱かれることなど、今では当たり前の日常のようなものなのに。
「う、ん…」
つくしが掠れた声で答えると、類は額にキスを落とした。
邸に来ると抱き潰されるという表現が正しいと思うぐらい何時間も抱かれて、気怠い状態のままバイトに行ったこともある。
最近は類の邸でのバイトだったから、余計に調子に乗った類が隙あらば部屋に連れ込もうとするのを、ご飯作らなきゃと言って厨房に逃げ込んでいた。
類とするのが嫌なわけはなかったけど、どうしたってその後顔を合わせる馴染みの使用人の方々の視線が痛い。
痛いと感じているのは自分だけなのも分かっていて、本当は微笑ましく見守ってくれているのだが、類の自室から出た後に本来のバイトのために厨房に寄らなければならない。
シェフに類の部屋で何をしていたのかと想像されていたらと思うと、恥ずかし過ぎて居た堪れないのだ。
つくしの髪を優しく梳く手がまたもやつくしを眠りに誘う。
類の腕の中で微睡んでいると、何も考えたくなくなってしまう。
しかしふと、頭を過ぎった考えがつくしを覚醒させた。
あたし…いつ、大学から帰って来たの?
「あ、れ…?」
大学を出たことは覚えているのに、その後どうやってここに来たのかが全く思い出せない。
類が今日は早く帰ると言っていたから嬉しくて、いつも以上に急いで走っていた。
でも、途中でーーー。
ふとベッドの下を見下ろせば、見慣れたメイド服が落ちていた。
着たまま押し倒されたのは明白で、綺麗に畳まれていないヨレヨレのメイド服を見て赤面するより先に、類に押し倒された覚えがない方が不思議でならない。
「類…あたし、変だよ…覚えてないの…」
つくしが言うと、類は目を見開き不意打ちにあったかのような驚愕の表情でつくしを見つめた。
こんなに驚いた類を初めて見る、確かに自分でも記憶がないことに驚いているが、類のそれは何かが違う。
「思い出したの…?俺のこと…」
「え…なに?だから何であたしがここに居るのか思い出せないんだってば!いつ帰って来たっけ?」
「ちょっと待って…牧野、事故のこと覚えてる?」
急に真顔になった類が身体を起こして、つくしの肩を掴む。
シーツが肌蹴て素肌が露わになると、毎日見てるはずなのに、着痩せしてるのか普段は隠れている厚い胸板やマッチョと言うほどではないけれど、男の人らしい腕につくしは未だにドキッとさせられる。
でも、類の言っている事が分からない。
「事故ってなに?」
「ごめん、俺も落ち着こう…3ヶ月前なんだけど…」
類から聞いた話は衝撃…と言うよりも、すんなりとつくしの中に入って来るものだった。
納得できると言うよりも、一度経験したことだからなのか、丁寧に教えてくれる類の言葉に情景が浮かんでくるようなイメージだ。
ああ、そうだった思い出す、ここに来る時に事故に遭い入院していたのだ。
自分の名前もママの顔すら思い出せなくて、どこか自分のことなのに受け入れられない傍観者のように病院で過ごした。
「すぐ、会いに行けなくて…ごめんな」
切なく眉を寄せ、つくしを抱き締める腕はいつもと同じはずなのに、ごめんと言う類の声が憐憫を含んだものであることにハッとする。
もしかしてとつくしは顔を上げ類を見た。
「…ねえ、類のせいじゃないからね…。あたしが事故に遭ったのは、不注意からだよ。まさか全部忘れちゃうとは思わなかったけど…」
「俺がバイトなんて頼まなければ…」
「違うってば!浮かれてたあたしが悪いの!」
「浮かれてた?」
何のことかと類が首を傾げると、つくしは恥ずかしそうに口を尖らせた。
「あの時…いつもより類が早く帰って来るって言ってたから…何日か忙しくてゆっくり出来なかったでしょ?だから、早く会いたくて急いでた。話す暇はなかったけど、毎日顔は見てたのにね〜バカだよね。車が来るかもしれない道を走って渡ったのはあたし…」
「寂しい思い、させてた?」
「ううん、そうじゃなくて…何だろ、どんどん欲張りになってたのかな。前は1週間会わないことだって普通にあったのに、今は毎日会わないと寂しかったり…声聞かないとすぐ電話したくなっちゃう…」
「じゃあ、俺と一緒だ…」
類はつくしの額にコツンと自分の額をくっ付けた。
お互い裸のままでシーツが腰に巻きついているものの、先ほどからずっと類の腕の中にいる。
本当は凄く久しぶりの腕の中であったことが今なら思い出せる。
「良かったよ…賭けみたいなものだったから、まさか本当に思い出してくれるとは思ってなかった」
「あ、チラシ?」
「そう…進に頼んで牧野の目の付くところに置いておいてもらった」
バイトしないとな、なんて退院早々考えていたらテーブルの上に置いてあったチラシ。
今思えば、怪しいことこの上ない…進の字で〝姉ちゃんへ、いいバイト見つけておいたよ〝なんて書いてあったし、給料もありえない額なのに、どうしてかここに行こうって思ってた。
「類…あたしは自信あるよ…何度忘れてもきっとまた類を好きになるって」
「どうして?俺は全然自信なかったよ」
チュッチュと頬や唇に軽く口付けられて、類の手が背中を彷徨う。
「だって、類はあたしの初恋で一目惚れだもん…」
もっとキスして欲しいなんて言えなくて、類を上目遣いで見つめれば、嬉しそうに唇が塞がれた。
「ん…」
「司と同じこと言うのが気に食わないけどね」
「え…なに、ちょっと、類…ぁ、ん」
もちろんキスだけで終わるはずもなくて、腰に巻いていたシーツを取り払われると、類が覆い被さる。
「3ヶ月ぶりだよ…?もう少し堪能させてよ…」
「な、に…エロ親父みたいな、こと…はぁ…っ」
つくしの首筋に顔を埋めて話す類の言葉は、少しだけ震えてつくしの耳に届いた。
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